結界内の生物から導力を吸い上げる特殊なシステムの中枢であった、禁止条例器具・視獲盲獲(シドロモドロ)。
「ヴェールはこんな物をどこで手に入れたんですかね…」
巴が呟く。螺旋煌は黙って当てもなく周囲を見渡した。
「ひとまずこれを結界から出す。停止の方法はわからないが…結界内の一般人が枯渇死することはなくなる」
何かを感じようとしているような間の後、螺旋煌が口を開いた。巴が頷くやいなや螺旋煌はガシャンと大剣に腰掛けて工房の外へ飛び出していった。
巴は束の間の安心を感じた。彼女ならアレを結界外に出すことくらい簡単だろう。そうすれば少しずつ吸われていく導力に悩まされることもなくなり、結界内の死霊を狩り尽くすことも希望が見える。
「…まだ死霊はいる」
韋駄丸が曖昧に呟く。巴は真剣な表情で頷いた。
「おらぁぁあああ!!」
同刻、街の西側では火花が散っていた。
「ド濃い導力が移動したと思ったら突然気配が消えた…結界外に出たのかぁ?おかげで格段に戦いやすいぜええ!」
スレーンがクロスコンにチェーンソーで殴りかかる。この男はずっと戦っていた。
「器具の場所を感知されて外まで持ってかれたか…」
クロスコンが呟く。機械のように加工された声と共にバイザーの赤い線が心電図のように波打った。次の瞬間にはスレーンのチェーンソーがまたしても飛んできて、クロスコンは後ろに宙返りして回避する。
「計画は絶えたというわけか!こん中に残ってる死霊を片付けるくらいわけないぜ?」
スレーンが叫ぶ。いちいち声がでかい。クロスコンはキョロキョロと辺りを見回して僅かに鼻で笑い、突然高く跳躍して背後の電柱に飛び乗る。
「もう十二分に導力は集まった。全て器具の中だ」
「…あぁ?」
「取り返せばいいだけの話だ…どうせ今頃腕利の戦闘員が器具を奪いに向かっているだろう。あいにく協会騎士は皆結界の中に駆り出されているゆえ今から援護に向かっても間に合わないがな」
「応答願う」
結界を抜け、協会本部へ向かって飛行中の螺旋煌はCEでカーフに連絡する。反対の手にはしっかりと銀色のリング状の不気味な器具が握られている。眼下に広がる市街地には1人の人影もない。無事に近隣住民の避難も完了したらしい。
「こちらカーフ。どういう状況だ?」
「全てうまくいった。あとは予定通り…」
パァン!
下から鋭い音が響き、弾丸が螺旋煌の大剣を掠める。
「さて、それを返していただこうかァ!」
もはや見慣れた黄色の目玉のマークのある黒いマント。それを纏った男が1人、マンションのベランダから銃を構えて叫んだ。巧妙に隠れていたらしい。導力の塊のような濃さの視獲盲獲を持っていた彼女には男の導力も全く認識できなかった。螺旋煌はマンションから少し離れた場所に空中静止する。
「お前1人か」
「…なわけ」
その声と共に、同じマントを着た男が街のそこら中から姿を現した。建物にも地上にも歩道橋にも…100人はいる。全員が銃をこちらに向けている。
「保険か」
「そういうことだ…万が一視獲盲獲が結界から出された時取り返せるようにな」
男は勝ち誇ったような声と共に、黒い男たちが一斉に引き金を引いた。