巴と韋駄丸の前に姿を現したギース。結界のシステムは外へ出されて停止し、導力は不自由なく使うことができる。ただそれは相手も同じだった。
ガシャン!
ビルの外壁が剥がれて韋駄丸の足元へ叩きつけられた。
「あの人の手には気をつけて…重力のかかる向きを自由に変えられるらしい」
巴が韋駄丸の耳元で囁く。韋駄丸は相手の姿をじっと睨む。他の兵士と同じ黒いマントと黄色い目の記号の姿だが、導力の量はどの兵士よりも多く見える。
巴は突然高速で飛び上がってギースに急接近する。見たことのない速度だ。
「おっと」
巴の刀がギースの右手を擦り、スパッという音と共に血が舞った。
「今までは全力ではなかったのかな」
ギースが流血した手を巴に向けながら静かに問う。巴は両手を広げた姿勢でふわりと後ろに距離をとった。どちらの方向に飛ばされても受け身が取れるようにするためだ。次の瞬間巴の体はぎゅんと引き寄せられるように地面に向かって重力を浴びた。巴は咄嗟に判断し上に向かって飛行する。それが重力とぶつかり合って空中に静止した。ギースが感心するように息を吐いた。
瞬間、ギースの背後から韋駄丸が銀の剣を振り下ろす。
「ふっ…」
ギースが巴に集中していることを見逃さなかった彼は、ギースが立つ学校の屋上まで上がっていたのだ。
「導力感知ができないとでも思ったのか?」
ギースが容易く剣を避け、韋駄丸に回し蹴りを打ち込む。韋駄丸はそれを剣の側面で受けるが、威力に押されて後ろへ下がる。同時にすぐ横に巴が降り立った。
「がむしゃらにやって勝てる相手じゃないよ…連携しよ」
韋駄丸は黙って頷く。巴と連携するのはなんだかんだ慣れてきていた。
「来るよ」
ギースが手のひらを韋駄丸に向ける。その瞬間巴が素早く黒い斬撃を放つ。ギースに向かってではなく、韋駄丸の前に向かって。ギースが能力を発動すると、間に割り込んだ斬撃が身代わりとなって地面に叩きつけられるように軌道が曲がって消滅した。
「今!」
韋駄丸が巴の声と同時に駆け出す。
「何…」
ギースにとってかなり予想外だった。韋駄丸が素早くギースに接近し、その剣を何度も叩きつける。ギースは後ろに飛びながら自らの肩をパシリと叩くような動きをした。それは自分に後付け重力をかけるための動きだった。
ギースは重力でふわりと韋駄丸から遠ざかるように後ろに引き寄せられていった。
(相性が悪い…だが私の能力はあらゆる相手に幅広く対応ができる)
ギースは空中を舞いながら考える。マンションの外壁にスタッと身軽に着地し、再度学校の屋上の韋駄丸を狙う。
韋駄丸の姿はもうそこにはない。
「こっちだ!」
鋭い声が頭上から響く。ギースが咄嗟に顔を上げると、巴がすごい速度で上から落下しながら接近してくるのが見えた。
「ッ!」
ギースは巴を上向きの重力で押し返そうと両手を彼女に向ける。ガツンと強い衝撃が巴を襲った。
「がっ…」
重力を一塊に圧縮してぶつけたらしい。巴は気を失って下へ落ちていった。
次の瞬間、ギースの胸を剣が切り裂いた。
「ゔっ…!?どこから湧いて出た…!」
韋駄丸がすぐ上のバルコニーに立っていた。巴の死角となって見えなかったらしい。位置が近すぎて導力の感知も意味がなかったのだ。韋駄丸は剣をその場に置いてバルコニーから飛び降りる。
ドサッ
地面に叩きつけられたのはギースだけだった。巴はすでに地面に着地した韋駄丸に抱き止められていた。
ギースの隠された目線は気を失った巴の横顔に釘付けになっていた。あの艶やかな紺色の髪は…。
「俺は…戻れた」
ギースは小さくつぶやいて力尽きた。