韋駄丸は咄嗟に気を失った巴から手を離し、ギースの元に歩み寄った。念のためその手のひらをチラリと見るが、こちらには向いていない。
(戻れた…?)
韋駄丸はボーッと考えた。韋駄丸は一切能力を使っていない。使い方もわかっていない。常に生まれ持った身体能力だけで動いていたので、かなりの疲労が溜まっていた。今になって息が切れてきた。早く本部に戻って休みたい…。
ぱきゃああん!
刹那、凄まじい音が響き渡ったと同時に、空から強い光が差し込んだ。街を覆っていた暗黒の結界が上から崩れ落ち、破片が導力を含んだ雨となって降ってきた。先ほどまでの地獄を全て洗い流すかのように、虹色に光る雨が市街地を濡らしていく。BLUELINEか公認スレイヤーか喜帝軍か、誰がこの結界を破壊したのかはわからないが…ついにテロは完全に終わったらしい。久しぶりに見る太陽はすでに沈みかけて、真新しい水たまりをオレンジ色に反射させていた。韋駄丸は安心からか疲労からか、そこで倒れ込んで眠りについた。
「前代未聞だねぇ、こんな大規模なやつ」
宇宙平和協会会議室のスクリーンから声が響いた。すでに公認スレイヤーとカーフは長机に着席していた。
「秘密結社がついに動き出したって感じなのかな。でもあいにくサヨはやることが多すぎて協会に全面加担はできないのですぅ〜…」
再びスクリーンから柔らかな声がする。しかしスクリーンには赤い桜の花びらのようなマークが表示されているだけで声の主の姿はない。
「今回は『筆頭』様のお力添えに心より感謝申し上げます。ですが、ヴェールの計画はまだ終わりではないように思えます。今後の動きについていかがいたしましょうか」
カーフが不自然なほど硬い態度でスクリーンで通信中の人物に尋ねた。
「う〜む…引き続き警戒&見つけ次第捕縛で〜。BLUELINEにもおんなじようなこと言ってあるから必要に応じて連携して」
『筆頭』はそう回答し、通信を切断した。カーフは短く息を吐いて椅子にもたれかかった。
「だそうだ…とはいえこれだけのテロを起こした後だ…奴らもしばらくは大人しいだろう」
いつも通りの口調でカーフが公認スレイヤーたちに言った。
「例の器具、『筆頭』に渡していいか?」
螺旋煌が淡々とした声でカーフに尋ねる。カーフは頷いた。
「無力化にはそれが一番手っ取り早いだろう」
「了解」
螺旋煌は素早く立ち上がって部屋から出ていった。その手には導力非透過性ガラスの容器に入ったあの銀色のリング…禁止条例器具「視獲盲獲」があった。