グレファルは、自らの隠し部屋の端に追い詰められていた。
「シュリア貴様もか…!」
グレファルが黒いスーツと銀髪の男性に向けて怒鳴る。シュリアと呼ばれた男性は冷ややかな目つきでグレファルを見下ろしている。
「申し訳ありませんが犯罪を黙認はできません」
シュリアが短く、そして冷たく言った。グレファルの顔がみるみる怒りで赤黒くなっていく。オフィスで見たときとはまるで違う人物のようだ。
「ふざけるなぁ!大金で貴様らを雇ってこの館の守護をさせていたと言うのに!契約はまだ有効なはずだろう!?主人に従え…」
「…しばらく黙って」
美甘がいつのまにかグレファルの背後に立っていた。
「なっ…」
ガツン!
グレファルの脳天に美甘の尾が容赦なく叩きつけられ、彼は気を失った。
「BLUELINE呼んどいて」
美甘がシュリアに言った。韋駄丸は部屋の中を見渡していた。つぎはぎされたような違和感のある導力がわずかに残されている。
「BLUELINEへの連絡が完了いたしました」
シュリアの声で我に帰る韋駄丸。美甘は部屋の反対端のソファにだらーっと座っている。よくこんな意味不明な場所のソファに座ろうと思ったな…。
「館内に死霊がいないか、念のため巡回して参ります」
シュリアが丁寧にお辞儀してから、隠し部屋の崩壊した扉から出ていった。韋駄丸は無言で壁に寄りかかり、あてもなくCEを開いた。巴から一件、『久しぶりの依頼気をつけてね!」とメッセージが来ている。全く気づいていなかった。
「…あのさぁ」
いつのまにか韋駄丸のすぐそばに来ていた美甘が呟くように言った。相変わらず上半身だけが床から出ている。
「どうかした?」
韋駄丸が問うと美甘はぷいっと目線を逸らした。
「…色々ありがと……連絡先ちょーだい」
美甘がいつも以上のジト目で全然違うとこを見ながらつぶやいた。後半はほとんど聞き取れないレベルの声量だった。
「…別にいいよ」
韋駄丸が美甘の持つCEに自分のCEをかざした。すぐにポコンと軽快な音と共に、連絡先の交換が完了した。美甘は少し驚いたような表情で韋駄丸の方を見た。上半身だけを床から出して、頬杖をついている。
「…ありがと。なんかあったら呼んでもいいよ」
美甘がぶっきらぼうにつぶやいた。韋駄丸は曖昧に頷いた。
「失礼致します、BLUELINEの方が到着したようです」
シュリアが部屋に入ってきた。美甘はチラッと部屋の端に転がっているグレファルを見る。韋駄丸と美甘はほぼ同時に頷いて、部屋から出た。
「BLUELINEの紅真です。案内をお願いします」
厳格そうな赤と黒の髪の隊員が軽くお辞儀した。彼女はBLUELINE隊員にして、人望も熱い対人部の部長だった。
「承知いたしました」
シュリアが落ち着いた態度で紅真を館の中へ案内した。韋駄丸と美甘は館の外の塀に腰掛けた。いつものことだが、ひと段落ついたときに疲労が来る。流石に2週間前のテロの時ほどではないが、ふーっと深く息を吐くと全身に疲れを感じた。美甘が横目で自分を見ているのを感じる。
「…俺の任務に巻き込んでなんかごめん」
韋駄丸がつぶやいた。
「いいって別に。楽しかったし」
美甘は呆れたような顔で答えた。
「グレファル・アルマーカー容疑者、導力取扱法違反で逮捕します」
2階から紅真の声が聞こえた。美甘がふっ、と鼻で笑った。すでに日は沈み始め、不思議な色で空が覆われている。
「…俺そろそろ帰ろうかな、協会に」
韋駄丸がつぶやいて塀から降りた。美甘はその後ろ姿をじっと見つめる。
「…ん。じゃまた」
「じゃあね」
2人は軽く別れを告げる。韋駄丸は美甘に軽く手を振るように手のひらを見せて、協会に向かって歩き始めた。その優越感は任務を無事に完遂したからだ、多分。