37.商人団と半竜
翌日、韋駄丸は朝から依頼を受けるためにエントランスへやって来た。いつも通り白く清潔感のあるエントランスはある程度の人で賑わっている。偶然か必然か、巴もいた。
「おはよう巴」
韋駄丸が挨拶すると、巴はすぐに微笑みかけた。
「おはよ、韋駄丸くん」
「依頼受ける?2人で」
韋駄丸が切り出す。巴はすぐに頷いた。
「ひとつ…気になってる依頼があるからそれでいい?」
「いいよ」
数分後、巴は依頼書を持って韋駄丸の元へ戻って来た。依頼内容は以下の通り。
『捕まっている飛竜を助けてあげてほしい』
第九市街地の地下鉄の端で飛竜が見せ物のようにされている。おそらく売られている。助けてあげてほしい。
依頼書を読んだ韋駄丸は巴に向き直る。
「飛竜って…」
「うん。美甘ちゃんと同じ半竜の一種」
半竜、竜のクロソイドとも呼ばれるそれは、生まれつき竜の遺伝子を持って生まれた存在。原因は不明だが突然変異的に生まれるとても希少な存在。それが地下鉄で売られていると…?
「誰がそんなことを」
「希少なものは密売に遭いやすいからね…商人団とかだと思う」
巴が、死霊に対して向けるあの冷酷な目つきで答えた。貴重なものを売り捌いて私服を肥やす低俗な人間は、彼女にとって尊重に値しない存在のようだ。そして、それは韋駄丸も同じ考えだった。
「行こう」
2人はすぐに第九市街地へ向かっていった。
「さあさあ今が買い時ですよぉ?」
例の地下鉄駅に着くや否や甲高い声が聞こえた。地下鉄の白い壁は年季が入って寂れていた。白い蛍光灯は弱々しく光り、ざわめきが反響している。巴と韋駄丸は顔を見合わせて階段を降りていった。
「こちらなんと飛竜のクロソイドの少女!どういうわけか陸へ降りて来ていたところを捕まえました!」
商人は深々と茶色のフードを被っていて、銀色の大きな檻にもたれかかっている。コインをつなげて作ったかのような首飾りをしていた。
そして、檻の中に飛竜がいた。白いワンピースを着た姿で、冷たい檻の床に倒れ込んでいる。意識がない。背中には赤い翼が一対生えている。
「まだまだ新鮮な商品ですよぉー?今ならたった18万ジェナで売りますよ」
巴が歯を食いしばって、人混みをかき分けて近づいていく。
「商人さん、少しいいでしょうか」
巴の鋭い声に商人は振り向く。
「はいぃ?お買い求めいただけますかね?」
韋駄丸は横の巴を見る。嫌悪感が隠しきれていない表情をしている。
「問答無用で違法売買ですよね?」
「なっ…BLUELINEの野郎か?」
巴の一言で慌てふためく商人。周囲に置いていた折りたたみ式の椅子を素早く畳んで抱え始める。巴は無言で例の妖刀を抜いた。刀身が黒い光を放っている。
キィンッ。
たちまち商人は巴の催夢一閃を受けて深い眠りに落とされた。茶色いフードが不恰好に歪み、その場所に倒れ込む。韋駄丸はため息のように息を吐き、剣で檻を叩き壊した。周囲にいた群衆たちはざわめき、だんだん散っていった。
巴は床に転がる商人を跨いで檻の方へ向かう。
「まだ息がある。協会の医療室へ連れて行こ」
「巴が飛んでった方が早い。俺はこいつが何か持ってないか確認しておく」
巴は韋駄丸の言葉に頷き、飛竜の少女を背負って飛び立った。