韋駄丸は商人の男のスーツケースを剣でこじ開けた。目の前の茶色いフードの男は巴の能力を込めた斬撃を受けて深い眠りについている。スーツケースの中身がバラバラと散らばる。
(なんっだこれ)
大量の鱗のようなものやカプセル、気色の悪いホルマリン漬けのようなものがこぼれ出て来た。韋駄丸は不快感剥き出しな表情でそれを見つめている。ふと、その中のあるものに目線が止まった。それは琥珀色の導力結晶のようだった。表面がテカテカと光り、滑らかに削られている。
(あのおっさんのスーツケースからもこんなのが押収されていたな…)
2日前に受けた任務で捕まえたグレファル。BLUELINEに連行されていった彼の持ち物から、これにそっくりな導力結晶が見つかったのだ。
(導力結晶に…何があるってんだ…)
刹那、空気を裂く殺気。
「!」
ドォン!
韋駄丸は咄嗟に横にジャンプして攻撃を避けた。韋駄丸はすぐに相手の方を見る。
(死霊か…?)
そこにいたのは、全身が滑らかで真っ白な死霊だった。体の中央にはグレーの部分があり、そこを中心に卵のような白い装甲が左右にある。腕はない代わりに背中からは4本のラッパのような形状がある。二本の細い足で直立して、こちらをじっと見つめている。
「オ…」
死霊のラッパの部分から、圧縮された空気のようなものが発射された。韋駄丸はすぐに回避したが、空気弾は商人のスーツケースに当たり粉々に破裂させた。
(厄介そうだ…)
韋駄丸は剣を構えて死霊に向く。まずは近くにいる人々の避難を優先するべきだろう。そう思った瞬間、感じる違和感。
周りには多くの人々が物音を聞きつけて集まっていたが、死霊は韋駄丸だけに攻撃をしてくる。周りの弱い市民が見えていないかのようだ。
韋駄丸は死霊の距離を詰めて素早く斬りかかる。死霊のラッパのうち二つが切り落とされ、黒い液体が飛び散る。死霊は悶えながらも、ラッパで正確に韋駄丸を狙い始めた。韋駄丸は即座に後ろに跳んで距離を取る。
(なんで一般人を襲いに行かない?)
韋駄丸は一瞬考え、死霊の攻撃に備える…。
しかし、死霊は一向に攻撃をしてこない。
「ん…?」
韋駄丸は周囲を見渡す。足元に散らばる謎めいた物品、銀の檻、商人の男…。まさか。
韋駄丸は商人の男をがしりと掴んで持ち上げ、死霊に歩いて近づいていく。撃てば簡単に殺せる距離感だ。しかし死霊は撃とうとせず、ゆっくりと後ずさる。
(こいつ…まさか商人に学習させられた個体か…?いや…)
「改造死霊ってやつだな」
韋駄丸が呟く。死霊は自分を生み出した商人の男に攻撃ができないらしい。
韋駄丸はその男をその場に投げ捨て、急接近して死霊の右足を切り落とした。
「ギィぃ…」
死霊は苦悶の声を上げる。バタバタとのたうつそれは醜悪だった。韋駄丸はそれにとどめの一撃を突き立てる。死霊の抵抗が弱まり、すぐに空気に溶けるように消滅した。
「韋駄丸くん…」
安心感のある声。韋駄丸が振り返ると、飛竜の少女を協会へ送っていった巴が降り立った。
「巴…改造死霊を作っていたのは商人団らしい。多分あの男も…」
「改造死霊…?」
巴が聞き返した。韋駄丸はそれで初めて、グレファルを捕縛した任務に巴は同行していなかったことを思い出した。
「あー…そっか。美甘に聞けばわかる」
韋駄丸がそう言い、CEで美甘に連絡を入れた。