秘密結社ヴェールの拠点に続くと思われる、長く狭い通路を進んでいく2人。奥へ進むに連れて暗く、そして異臭がしてくる。
「…これ何の匂いですかね」
「多分いいものではないでしょうね。念の為あんまり吸わないようにしましょう」
その時、何やら上の方から話し声が聞こえてきた。2人は文字通り息を殺して聞き耳を立てる。
「…りないかも知れないな」
「列……へ捧げ……街全体……結界…」
声の主は歩きながら話しているらしい。声がだんだんと離れていく。
(うう…全然聞こえなかった…)
巴は悔しい思いでいっぱいになった。もう少しで秘密結社の目的を聞き出せたかも知れないのに。しかしそこで冷静になる巴。今回の我々の目標は、依頼者の妹の救出なのだ。
やがて韋駄丸がまた少しずつ移動を再開した。先ほどの声の主はおそらくすでにここにはいないだろう。
「っ…」
韋駄丸が何かを発見したように息を吐いた。それはどうやら拠点へ通じているらしい。
「誰もいない。出ていいですかね?」
韋駄丸が静かに巴に問いかける。
「今のうちに行っちゃいますか」
韋駄丸は巴の返答を聞くと、銀色のハッチのような部分を開いて、部屋の中へ入った。巴も後に続く。
「なん…」
部屋を見渡した瞬間、思わず言葉を失う巴。赤く薄暗いライトで照らされた部屋には、いくつもの檻が立ち並んでいる。何も入っていない檻もあれば、無惨な何かの残骸が散らばっているものもある。
「異臭の原因はこれってことね」
韋駄丸が冷静に言う。
「…妹さんは無事でしょうか…」
巴が囁く。韋駄丸は何も答えない。無言のままとくに目的もなく檻へ近づく。ほんとに俺何やってんだろ。なんで新人なのにこんな任務に…。
「ん…」
巴の声が背後から聞こえた。韋駄丸が振り返ると、巴は地面に落ちている色褪せた紙をじっと見つめていた。
「何それ」
韋駄丸が駆け寄る。その紙に描かれていたのは、マップのようだった。どこの地図なのかは、図が簡易的すぎてわからない。そして、街を上から見下ろした図の上に、巨大な赤い円が描かれていた。
「街?」
「っぽいけど…何を表してるんでしょう…?」
この人がわからないなら俺がわかるはずない。韋駄丸はそう思った。巴はその紙をとりあえず紺色の羽織の内側のポケットに突っ込んでいる。
「…けて」
不意に蚊の鳴くような小さな声が沈黙を破った。
「…助け…て…」
巴が声が響いた方向に向かって静かに歩き出す。立ち並ぶ不吉な檻。そのうちの一つの中から声がしているようだ。
巴が檻を覗くと、金髪の小さな少女が倒れていた。髪色と目の形が依頼者とそっくりだ。
「妹さんだ…!お姉さんが心配してますよ。帰りましょう」
巴が優しく少女に声をかける。少女は弱っているが意識ははっきりしている上に外傷もなさそうだ。韋駄丸は周りを見回して警戒している。
「離れててくださいね…!」
巴が妖刀を抜いた。先祖から伝わった妖刀「噛去」。それは白く光を放っている。巴はそれをすっと構えた。
その瞬間、刀が巴の腕の動きに引きずられるように素早く振り下ろされ、青い斬撃が光った。
キィンッ。
鉄格子の一部が切り裂かれて檻に穴を作った。くり抜かれた鉄格子が重い音を立てて落ちる。巴がそこを潜るようにして檻に入り、少女を抱き上げた。
「ここから出るよ…!」
巴と素早く檻を出て、韋駄丸と共にあの狭い出口へと走っていった。