「…俺の兄だから」
韋駄丸は小声で答えた。
「え、お兄さん…?協会にいるの?」
「まあ…準一級。今どうなってるのかは知らないけど」
韋駄丸が早口で答える。韋駄丸はわずかに足を早めた。横目に見える木々が素早く通り過ぎていく。
「連絡とってないの?」
「4年くらいはとってない」
韋駄丸の返答に巴は黙る。韋駄丸の表情からは何も読み取れない。いつのまにか協会に続くいつもの道に来ていた。
「会えるといいけど…いやほんとは会いたくないけど」
韋駄丸が呟く。後半は小声かつ早口すぎて巴にはほとんど聞き取れなかった。韋駄丸の表情が気のせいでなければ少し暗い。
「今…白霧天李は本部にいますか」
韋駄丸が依頼受付に尋ねる。依頼受付は設置された電子機器を見つめ、コクリと頷いた。巴が緊張感のある表情で様子を見ている。韋駄丸は相変わらず気力のない表情のままだ。
「今どこに…」
「お呼びかなぁ?」
2人の後ろから声がすえう。巴は咄嗟に振り返り刀に手をかけた。気配が全くしなかった。
「おひさ、韋駄丸」
大きく黒い独特なジャケットを羽織り、片目が隠れるくらいの銀髪の青年が立っていた。見える方の目はエメラルドグリーンに輝き、弟とは全く違う軽い雰囲気を感じる。身長はかなり高い。
韋駄丸は目の前の男をきつい表情で睨む。今にも剣を取って斬りかかりそうな勢いだ。
「4年とかそんくらいぶりかな?ってか友達できたんだ」
天李が巴の方を横目で見ながら言った。韋駄丸は何も言わない。完全に目的を忘れていると判断した巴が間に割って入る。
「二級隊員の巴です…!えっと…ちょっと見てもらいたいものがあるんですけど…」
「その導力結晶のコト?」
天李が何気なく言い、巴は驚く。羽織の内ポケットに入れていたにもかかわらず、なぜ気づかれた。天李はそんなこと気にも留めない様子で話し続ける。
「へ〜、その結晶ちょっと前までなんかの死体に導力を送ってたの?何で?」
「なんかの死体…?」
巴は困惑する。韋駄丸もすっかり兄と接触した目的を思い出して落ち着きを取り戻していた。
「死体に導力を注いだらどうなる」
韋駄丸が感情のない声で天李に聞く。天李は全く表情を変えずに答える。
「死霊化だろうね。隠し能力にこんだけ質のいい導力をぶち込んだらすぐ作れる」
「それが改造死霊…改造というより人造死霊だな」
韋駄丸が呟く。天李は韋駄丸を見下ろしながら首を傾げた。
「それで…特定の相手を襲わない死霊を作ることは可能なんですか?」
巴が尋ねると、天李は考え込む。
「うーん…死霊の考えることなんか知らないけど。まあそういう死霊がいたって言うなら、それが全てでしょ」
天李が答えた。
「不可能ではないか聞いてる」
韋駄丸が圧を込めて天李に歩み寄る。天李はおーこわ、みたいな表情で後ずさる。
「…可能だったぽいね」
韋駄丸はくるりと巴の方へ向き直る。
「…帰っていい?」
たった一言。巴は面食らったような表情で固まる。韋駄丸はそれに気づいたのか少し申し訳なさそうな表情になる。
「…もう疲れたし何より…そいつと一緒にいたくない」
韋駄丸が後ろで安定感なく受付のカウンターのガラスに寄りかかる天李を指差す。天李は軽く笑う。巴はいつもの微笑みで頷いた。
「だいぶ進展したね…よく休んで」
巴の言葉に韋駄丸は頷き、足早に去っていった。天李は巴を横目で見ている。その場に残された巴はエントランス端のソファに腰掛けた。
「いい友達できてんじゃん」
天李が小声で呟き、笑顔を浮かべた。