「…韋駄丸くんと何かあったんですか?」
巴が目の前の男に聞いた。彼は白霧天李、韋駄丸の三つ上の兄だ。天李は巴の正面のソファに座る。
「ん?君現代の子じゃなかったりする?」
天李が唐突に投げかけた問いに巴は硬直する。
「…そういうのもわかるんですね」
「導力の雰囲気がね。平均身長や声が少しずつ変わっていくように、導力性質も若干変わるもんだよ」
巴は愛想笑いする。こうもあっさり自分の正体を見抜かれるとは。しかし、目の前の男はそんなこと全く気にしていなさそうだった。
「まあそれはいいとして。韋駄丸となんかあったか、ねぇ…」
目を細める天李。表情は依然として余裕のある微笑のままだ。
「…なんもないことはないかな〜」
天李が答えた。あまり深く話すつもりはないように見える。巴は真剣な表情で天李を見つめる。黒い革のジャケットがまるでサメのようだ。その手は両方とも膝に置かれている。
「韋駄丸があんなんになったのは半分…ってか7割くらい、俺のせいなんだよね〜…」
天李が両目を閉じて囁くように言った。
「前はそれなりに社交的で素直な奴だったんだけどね…友達だと思ってたやつに裏切られて殺されかけたっぽくて。それでもあいつはその友達を信じようとした。何か理由があるんじゃないか、ってね。俺から見たら韋駄丸が『友達』と呼ぶそれは呪いの塊にしか見えなかったけど。だから殺した」
天李が一息に吐き出すように話す。その目にはどこか呆れているような、自嘲するような色が見えた。
「…それで?」
「恨まれてるってわけ」
巴の言葉にさらっと返す天李。巴はあることが引っかかっていた。
「呪いの塊って……」
天李は巴の目を見つめる。
「…なんだったんだろうね?」
天李はソファからゆっくりと立ち上がった。銀髪がひらりと動く。
「さてと。過去話はおしまいね〜。巴ちゃんも忙しいでしょ?その結晶の件もあるし」
巴はその言葉で導力結晶のことを思い出した。人造死霊を操ることができる商人団。何か大きな目的があるのだろうか。
「韋駄丸があんなに仲間意識持ってるの久しぶりに見れて良かったよ。んじゃ、仲良くね」
天李は巴にひらひらと手を振ってその場から去っていった。巴は放心したように天李の後ろ姿を見ていた。商人団の件が深まったというのに、今は韋駄丸のことで頭がいっぱいだった。
「巴」
突然呼びかけられて驚いた。振り返ると、韋駄丸がCEをぎゅっと握って立っている。
「…どうかした?」
巴はいつもの表情で韋駄丸を見つめる。彼は先ほどまで巴が自分の兄と話していたことを知らないらしい。
「美甘が呼んでる。巴も一緒に来て欲しいって」
「私も?何かあったの?」
「美甘のいる拠点…確好屋だっけ。それの周りに例の改造死霊がいるらしい」
韋駄丸が早口で言う。すでに黒いケースを背負い、臨戦体制はバッチリのようだ。
「わかった、すぐ行こう」
素早く立ち上がる巴。韋駄丸も頷き、2人はすぐに外へ続く自動ドアへ走っていった。エントランスの上にかけられた橋の上から、天李がその様子を見て微笑んでいた。