巴と韋駄丸は、確好屋の前へ到着した。確好屋はいわゆる何でも屋のような組織らしい。現時点ではメンバーは2人のみのようだ。拠点は小さな二階建ての建物で、いかにも民間組織、な雰囲気が漂っている。
「あ、ほんとに来てくれた」
窓から顔を出した美甘がつぶやいた。韋駄丸と巴は軽く窓の方へ近づく。
「例の死霊ってのはどこ」
韋駄丸が美甘に尋ねる。美甘は窓枠に頬杖をついた。
「あそこ」
美甘が指差した先を見ると、家と家の間の細い小道に何かがいた。真っ白い卵のような球体だった。大きさは2メートル近い。確かに普通の死霊ではないだろう。韋駄丸と巴が近づいても一切動かない。
「うーん…死霊…だけど…」
巴がそれを近くで見ながら呟く。
「ターゲットの誰かだけを襲うようにされてるんだろうな」
韋駄丸が言い、白い球体に触れる。すべすべの感触がするだけで、死霊はそういう彫刻のように微動だにしない。韋駄丸はそのまま剣を出す。
「…やっていいよな」
「うん。やっちゃお」
巴の同意を得た韋駄丸は剣を取り出して死霊に向けて構える。勢いを乗せて死霊に剣を突き出すと、その卵のような体に銀の剣が深々と突き刺さった。韋駄丸は死霊の体を足で押し出しながら剣を抜く。
「…よわ」
反対側の道の確好屋の窓から美甘がつぶやいた。死霊はあっけなく空気中に溶け出して消滅した。
「でもなんでこんな場所に…」
韋駄丸が消えていく死霊を見て呟く。銀の剣をすぐにケースに収納し、美甘の方へ歩いていく。その時に気づいた。半竜である美甘が狙いなのではないか?
「巴…!」
「守りを固めよ」
巴はすでに理解していたらしい。状況をわかっていない美甘が困惑している。
「…どゆこと」
「人造死霊は商人団の使い。それがここにいるってことは商人団の次の狙いは…」
韋駄丸が捲し立てるように説明する。巴が韋駄丸の横に立った。
「数日のうちに商人団のやつが来ると思うから警戒して」
巴が美甘に言う。美甘はため息をつく。
「でもわたし強いよ?」
美甘が言った。自惚れとかじゃなくただ事実を言っただけらしい。
「そうなの…?」
「関係なくいただくさ」
突然知らない声が聞こえた。三人とも素早く声の主の方へ振り向く。声の主は人間ではなかった。頭部がモニターのようになっている黒い骨格のような存在がそこには立っていた。モニターには何も写っていないが、どうやら何者かが遠隔で操作している傀儡らしい。
「海竜は特に高く売れる…こんなチャンスを逃しはしないよ」
傀儡から声が響いた。韋駄丸は、彼が例の死霊を送り込んできた張本人だと理解した。傀儡は見た目に似合わない滑らかな動きで韋駄丸たちに近づいてくる。
「そう警戒すんなよ、今は様子を見にきただけだし」
傀儡のスピーカーが震える。
「まあ、戦力が揃えばそうはいかないけどね」
突然美甘が窓から飛び出した。手にはいつもの赤く半透明な薙刀。韋駄丸が口を開くよりも早く、美甘の薙刀が傀儡の胴体を真っ二つに斬り落とした。テレビ頭が地上に叩きつけられ、バキリと音を立てて割れる。
「…しばらく美甘から離れない方が良さそう」
韋駄丸が呟くと、巴もこくりと頷く。
「護衛しよ」