「確好屋?聞いたことないね」
どこかの廃墟で歪んだ声が響いた。日が暮れかかっていることもあって、廃墟の中は真っ暗だ。
「民間団体だが、構成員に海竜がいる。そいつさえ安全に攫ってくれば他は殺して構わない」
人間の男性の声が答えた。それを聞いた歪んだ声の持ち主は、白く光る四つの目を細める。
「“他”ってのは?」
「協会の奴らが護衛しているようだ。恐らく人数はさらに増えるだろう」
男性が答えた。手には黒い剣を握っている。四つ眼の死霊は笑う。
「じゃあさっさと行ったほうがいいんじゃないの」
「出発は今日。23:00」
「りょー」
廃墟に不吉な気配が漂っていた。
21:30。巴は時計を見た。今日はここに泊まり込みになった。いつ商人が現れるかわからない不安はありつつも、導力感知の専門家の天李もいるため、奇襲に怯える心配はなかった。
「あ、来たっぽい」
天李の言葉に咄嗟に立ち上がる巴、韋駄丸、イオラ。
「?あ、違う違う、もう1人の護衛」
自分の発言が誤解を与えたと気づきすぐに説明する天李。韋駄丸は美甘並みのため息をついてソファに座り直した。隣の巴も少し笑って腰掛ける。その途端、確好屋の扉がコンコンとノックされた。イオラが駆け寄る。
「あと1人ってどんな人なんですか?」
巴の問いに天李は得意げに微笑む。同時にイオラが玄関のドアを開ける。
「お邪魔します」
そこに立っていたのは、黒髪のロングヘアと白い和服の女性。顔には黒い眼のような紋様が描かれた紙が張り付いていて顔は一切見えない。一級隊員兼公認スレイヤー、鶴喰御狩(ツルハミミカリ)だった。
「み、御狩さん…!」
巴が思わず声を上げた。御狩は礼儀正しくお辞儀してドアを閉めた。
「…まさか公認スレイヤーが護衛に…」
韋駄丸が呟く。
「私で良ければお安い御用ですよ」
御狩がイオラに促されてソファに腰掛けながら静かな声で言った。隣に天李が座ると、御狩はわずかに横に避けるように移動した。
「お話は伺ってます…商人団による襲撃があるんですよね。えっと…頑張りましょう」
御狩が囁くように言った。だんだん声が小さくなっていく。大きく声を張るのが得意ではないらしい。美甘が韋駄丸の横に座ったままじーっと御狩を見つめている。御狩は落ち着かなそうだ。
「とにかく…全身全霊で守ります…!」
御狩が小声ながら自信に溢れた声で言った。巴は笑顔で頷いた。
「…今度こそっぽいね」
天李がつぶやいた。時刻は22:54。全員が円卓を囲んで夕食を取っていた。
「商人ですか?」
「うん。死霊が四体と、人間が47人」
天李が導力感知しながら言った。
「よ、47!?結構な数ですね…」
御狩が思わず声を漏らす。天李が微笑を浮かべた。
「所詮そっちは雑魚、数増やしとけばいいと思ったんでしょ。ただ死霊の方が厄介そうかな〜…」
天李が立ち上がる。そのジャケットからプシュンと何かの音がした。
「さて、行こっか」
天李はあっさりとベランダから外へ出ていった。
「美甘を頼む」
韋駄丸が美甘に寄り添うイオラに呟き、いつもの剣が入ったケースを背負う。イオラは頷き、電気スタンドのような武器を手に取った。
「韋駄丸くん」
「ああ」
巴と韋駄丸は同時に、ベランダから外へ飛び出した。