韋駄丸と巴は、ほぼ同時にその場に膝から崩れ落ちた。
「はぁ…」
あと少し疲労が溜まっていたら確実に勝てない相手だっただろう。韋駄丸は巴の方を見る。巴も相当疲れているようだ。韋駄丸は剣をギュッと握る。
「まだ…美甘を守らないと…」
韋駄丸は痛む両足で立ち上がり、絞り出すような声で言った。巴はゆっくりと、しかし確実に頷く。とは言え今の状態では足手纏いにしかならないだろう。
「…美甘の様子を見てくる」
韋駄丸が呟く。確好屋の一軒家は目の前に見える。しかし全ての窓が閉ざされ、中の様子は見えない。いつのまにか韋駄丸の横に立っていた巴がひと足先に歩き始めた。
瞬間、場の殺意が高まった。振り向くとそこには、数匹の魚影が浮いている。
「見つけたぞ?」
スカリムテイカーが余裕飄々と言った。韋駄丸は目を見開く。目の前の魚のような死霊は、導力量が誘夜よりも多い。残りの8割ほどの魚影は今も御狩と戦闘している。群体のうちの2割が、周辺の捜索を担当していたようだ。魚影は白い目をニッと細めて、韋駄丸と巴に突撃する…。
ザキン!
魚影が2人に到達する直前に真っ二つに切り裂かれて蒸発した。少し遅れて黄緑色の光が見える。
「随分疲れてるね〜。ほら美甘ちゃんに会ってあげて?」
天李がふわりとその場に降り立った。前に見た時と同じ傷ひとつない姿で、両手にはダガーのような刃を持っている。
「…」
韋駄丸は無言で目線を落とす。天李は少し首を傾げる。
「行かないの?」
天李が言った。いつも通りの余裕な立ち姿と声。巴は思わず深く息を吐いた。
「…行く」
やがて韋駄丸が答え、確好屋へ入っていった。巴は天李に頭を下げながら韋駄丸の後に続く。天李は手で「達者でね」とハンドサインを送り、目の前の何もない空間に向き直った。
「へ〜。俺を欺けると思ってるんだ…いるだろそこに」
天李が空間を指差す。直後にその場所から先ほどの魚影が現れた。
「…なんで見えるかな」
「死んで蒸発したんじゃなく導力に分離して隠密化したつもりだったんでしょ。バレないと思った?」
天李が素早く魚影の一体に斬り込む。たちまち魚影は真っ二つになり、空気中に溶けて完全に消滅した。他の個体が驚愕する。
「びびった?このコレさ、特注品でね。刃んとこに導力を通さない素材使ってるんだよね」
天李が説明しながら他の個体も斬り裂いていく。その場にいたスカリムテイカーはあっという間に全滅した。
「美甘……」
韋駄丸が確好屋のリビングへ倒れ込むように入ると、美甘がギョッとした表情で迎えた。
「…そんなやばい相手いるん?」
「うん…結構敵は強い。でも今の所結構善戦してるよ。明日…まあ0時ってことなのかな?…になればBLUELINEの兵士も来るはずだしね!」
巴が時計を確認しながら美甘に言った。現時刻は23:49。美甘はいつも通りのため息をつく。
「あのさぁ…そんな状態で心配しないでいいよ、って言われても結構厳しいよ?」
「…確かに」
韋駄丸が少しだけ微笑みながら言った。美甘の無事を確認できて、戦闘が始まって初めて心から安心した。
「こっちは全然異常なしって感じ。出番がなくて暇だよー」
イオラが言ったが、誰も反応しない。
「じゃあ…無事にまた会おう」
韋駄丸が美甘に言うと、美甘はこくっと頷く。巴も微笑みかけた。
「無理しないでよ、ほんとに」
外へ出る直前、美甘の声が聞こえた。