依頼者の妹と合流し、出口へ向かう巴と韋駄丸。チューブ状の狭い通路が目の前に見える。ここを通り抜ければ外だ。
その瞬間、複数人の足音が檻の部屋の奥の方から響いた。
「!やばい」
巴は少女と共に通路に入り、奥へ進み始める。韋駄丸も少し間を置いて後を追う。足音がバタバタと響き、何やら怒号が聞こえてくる。
「ここを抜ければ外だよ…!」
巴が少女を元気付けるように明るい言葉をかける。少女は弱々しく微笑み、出口に向けて這っていく。だんだんと日の光が近づいてくる。
3人は通路の端、すなわち外へたどり着いた。巴は少女を抱き上げて、ふわりと地面に下ろす。韋駄丸はぴょんと飛び降りて背中の刀を重そうにしている。
「帰ろっか。」
巴がしゃがんで目線を合わせながら少女に微笑んだ。少女は泣きながら頷いた。安堵感からだろうか。韋駄丸だけが、唯一警戒を解いていなかった。
複数人の黒いマントを纏った人影が、斜面の上やたった今通ってきた通路から現れる。その数はどんどん増えていく。ヴェールのメンバーたちは巴達の前に壁のように立ちはだかった。
「…やる気ですか」
巴が冷酷な声でそれらに告げる。少女が巴の陰に隠れている。韋駄丸が少女を慣れない手つきで撫でて安心させようとしている。
「その娘はあの方へ捧ぐ生贄なのだ。返せ」
いちばん手前に立っている男が黄色い一つ目が描かれた黒い仮面の奥からくぐもった声で言った。巴は無言で刀を抜く。
「交渉は無駄ですよ、返すわけないんで」
冷静に言い放つ巴。男はやれやれと首を振って、マントの内側から2本の短剣を取り出した。
「ならば全員殺して生贄となってもらう」
その声を聞いた瞬間、黒いマントの男達が同時に3人に向かって駆け出した。全員が赤いナタのようなものを持っている。巴は少女を守りながら全員同時に相手するのは厳しいと判断した。
「逃げる!」
巴が少女を背負ってふわりと浮上した。樹海の木が天井のようになっているせいで、高くは飛行できない。韋駄丸は冷静に相手の軍勢を睨んでいる。
巴と韋駄丸がほぼ同時に街に向かって移動を始めた。韋駄丸は走り、巴は木を避けて飛行する。ヴェールの軍勢は20人は超えているだろう。全員が走って追ってくる。
不意に軍勢の1人がナタを振り上げて韋駄丸に斬りかかる。韋駄丸は姿勢を低くしてそれを回避し、黒いケースからいつのまにか取り出していた銀色に鈍く光る刀で相手を切り裂いた。男はそのまま倒れるが、さらにその奥から2人の男が飛びかかる。
「韋駄丸くん!」
巴が出した手に咄嗟に掴まる韋駄丸。次の瞬間、巴がぐいっと韋駄丸を引き上げ、2人の男のナタを回避させた。韋駄丸は両足を大きく開いて2人の男の顔に踵落としを喰らわせた。
敵は奥からどんどん湧くように現れる。
「もうすぐ森を抜ける!」
巴が誰に言うわけでもなく声を張った。少女はしっかりとその背に掴まっている。
次の瞬間、巴と韋駄丸は森の木々を抜けて街へ高速で突入した。
「先にお家に帰ってて。私たち一仕事してすぐ行くから!」
巴が少女を下ろして頼もしく微笑んだ。