韋駄丸と巴は周囲を見渡した。ビルの外壁で爆発四散して消滅した死霊、天李ただ1人に壊滅させられた上位群体死霊、そこらじゅうに倒れている商人団の兵士。
「これは…圧勝」
巴が思わず呟いた。韋駄丸も同意見だった。もはや戦力過多だったのではと疑うほどの勝利。
「うわ”ああああああああ!!!」
死霊が縫い止められていたビルの屋上から商人の男の絶叫が聞こえてきた。御狩が何かしているのだろう。
「はぁ…これだけ壊滅させれば美甘を狙うことも無くなるだろうな…」
韋駄丸が言った。
「流石にそうだろうね…」
巴が微笑みながら言った。疲労の影響かすこし笑顔がぎこちない。
ドォン!
突然2人の背後、確好屋から音が響いた。
「!?」
韋駄丸が即座に振り返って走り出す。一軒家の壁面が大きく剥がれている…いや、破られている。
「はっ…」
1人の商人が、そこから中へ入っていくのが見えた。韋駄丸は全身に悪寒が走り、鳥肌が立つ。巴がすでに見たこともないような高速で飛行して確好屋に飛び込んでいった。
その時に韋駄丸は気がついた。確好屋の中にはすでに何人かの商人がいた。
「ははっ…一足遅かったなぁ」
韋駄丸が部屋に入った瞬間、商人が口を開いた。巴が刀に手をかけたままの姿勢で、動くことができずに固まっている。部屋には5人の商人がいた。全員が銃を持ち、1人は美甘に、1人はイオラに銃を向けて立っている。
「…まじで許さない」
美甘が囁くように言った。商人は高笑いしながら美甘の頭に銃口を押し付ける。
「待て!」
韋駄丸が咄嗟に叫ぶと、商人はさらに笑う。
「殺す気はねえよ…お前たちが俺らに手を出さないならな」
商人が韋駄丸と巴に向かっていった。
「お前たちが攻撃意思を見せた瞬間…お友達の頭ぶっ飛ばすからな?」
商人が銃口で美甘の後頭部を小突く。韋駄丸ははらわたが煮えくりかえるような気持ちで剣を持ったまま硬直していた。
「いいなぁ?大人しくしてりゃこいつら死なずに済むからな?」
また別の商人が言った。イオラはすでに意識を失っているらしい。頭から血が流れている。商人の1人が韋駄丸に大股で近づき、手にした棍棒のようなものでその頭を力任せに殴った。
ガンッ!
韋駄丸は床に叩きつけられる。全身に疲労が溜まっているせいで、反抗しようにも上手くいかないだろう。その目だけは激しい憎悪で燃えていた。
「韋駄丸くん…!」
巴が声を上げる。商人は何度も韋駄丸の全身を棍棒で殴り続ける。美甘がギザギザな歯を剥き出しにしている。
「やっていいんじゃねえか?」
商人の男が別の男に話しかける。1人が韋駄丸に銃を向け、引き金に指をかけた。
その瞬間、4人の商人団全員が倒れ込んだ。死んでいる。
「ひっ…!?お…」
美甘に銃を向けていた商人が何かを叫ぼうとするが、すぐにその体が宙に放り出された。その手から銃が滑り落ちる。韋駄丸は消えそうな意識でその様子を見ていた。巴と美甘がすぐに韋駄丸の元へ駆け寄った。商人の体は天井に勢いよく叩きつけられ、男は苦痛にうめいた。
現時刻、0:00。
白地に青いラインの入った武装をした兵士たちが7人、部屋に転がり込んだ。全員青い高出力レーザー銃を持っている…BLUELINE隊員だった。
「韋駄丸くん…助かったよ…」
巴が目に涙を浮かべながら言った。美甘は今にも泣きそうな顔で韋駄丸に抱きついた。
「確保だよ〜」
1人の女性が隊員たちの奥からゆっくり歩いてきた。黒い和服のような服装を纏い、片目には赤いサクラのような幾何学的なエネルギーが見える。黒髪は花魁のように編み込まれ、この場に似合わない微笑みを浮かべている。その右手は、上を指差しているようだ。
「あ“ぁ”…がっ…」
天井に張り付けられている商人が苦悶の声を漏らした。花魁のような女性はそれに近づいていく。
「お話は、サヨがあとでゆっくり聞いてあげるからね〜〜」
最高企業団『筆頭』、斜予双(サヨナラ)。