52 誅暦800年
201年前、誅暦800年。神嵜巴はのちの宇宙平和協会、死霊狩りのメンバーだった。16歳にして死霊狩りのメンバーとは、当時としてはまさしく異例、彼女の家系は導力刀使いの名家だったのだ。誅暦600年、神嵜妖が導力戦争を終結させ、一気にその名が知れ渡った。神嵜妖は、巴の直接の先祖にあたる。
「あ、神狩くんおはよ〜!」
木製の二階建ての家が立ち並ぶ通りで、巴は死霊狩りの仲間を呼んだ。喜烈神狩(キレツカガリ)、巴と同じ二級隊員の青年。木製の橋の上から軽く手を振っている。赤と黒の和服を纏い、腰には彼が愛用する刀がある。
「巴おはよ。今日も任務でも行く?」
「うん…でもその前にマッドサイエンティストの様子を見てこなきゃ…」
神狩は巴の言葉を聞いて少し吹き出した。巴はここからすぐ近くの家に住む導力研究者(自称)のノーカルと共に住んでいた。導力を斬撃として打ち出すという新技術を生み出したのも彼だ。
「じゃ、暇だし俺もついていこっかな」
「もちろんいいよ!」
巴が神狩の言葉に嬉しそうに頷く。神狩は微笑みかけて、巴の後を追いかけた。
「炎の出力が安定しなくてねぇ…なかなか実戦で活かすのが大変なんだよ」
歩きながら隣の巴に言う神狩。身長差の関係から、少し見下ろすような姿勢になっている。
「まあ確かに…私も相当練習してやっと遠距離斬撃使えるようになったから」
神狩は巴の言葉に軽く頷く。
「慣れるしかないんかなー。頑張るわ」
「うん、神狩くんならできるよ!」
巴は元気づけるように言うと、その場で立ち止まった。町から少し離れた空き地のど真ん中に建っている、この屋敷がノーカルの家、そして巴の家だった。木製の柱と白い壁紙の、今となってはかなり古い作りの二階建ての建物だ。
「じゃ、俺はこの辺で練習してよっかな」
神狩は空き地の橋の方へ歩いて行き、その刀を抜いた。巴は微笑みながら頷いて、屋敷の中へ入った。
「巴おかえり。研究に進展ありだぞ!」
巴が襖が敷かれた部屋へ入るや否やノーカルが飛び込んできた。相変わらずの白髪混じりの黒い癖毛とクマのできた顔。年齢の割にかなり老けて見える。手には銀色の球体のような怪しい器具を持っている。
「な、なんですか、それ…」
「これは…自己空間展開装置!!」
ノーカルが装置の表面のボタンを押すと、彼の周囲に黒い球体のような結界が展開されていく。下から上に向かって伸びるように。後少しで完璧な球体ができる…瞬間に止まった。
「…あれ?」
結界のてっぺんに大穴が空いている。巴がじとーっと見つめる。
「導力でできた結界だ!導力を中に閉じ込めることができるだろう!」
「…穴が空いてなかったら、ですけどね」
巴が呟く。この人はまたよくわからないものを開発してしまった…いや、いつも開発後一歩手前で別のものを作り始めるが。
「…まあ、近隣の方に迷惑がかからない程度でお願いしますよ」
巴はため息をついて再び外へ出た。プシューっと何かの音がしたが完全な無視である。
「やっぱ安定しないなぁ…」
空き地の端の神狩の周囲に大量の火が飛び散っていた。
「難しいよね…」
巴が近づこうとした時、巴がたった今出てきた屋敷からガラッとドアの開く音が聞こえた。
「何この燎原」
それは赤紫に近いピンクと緑が混じったツインテールの少女だった。どこか遠くで流行っているらしいメイド服のようなものを纏い、てくてくと近づいてくる。
「な…なんでこいつが…」
巴は唖然とする。数日前に自分を襲ってきたので、拘束していたはずの少女だった。ノーカルが勝手に拘束を解いたのだろう。
「あんのマッドサイエンティストぉ…」
「ン?どしたの?今は味方だヨ〜」
跪く巴に近づく少女。咄嗟に巴は神狩の方まで走って距離をとった。
「えっと…誰」
神狩は完全に困惑している。少女はくるんとその場で回る。
「あふふふ…猛毒ペロキャンのアコニだヨ〜」
アコニはそう言うと、ぴょこんっと跳ねてピースした。