神狩が刀に火炎を灯した。喜烈神狩の能力『赤炎操法』。導力を火炎に変換する戦闘向きな能力だが、出力や精度は使い手によって大きく変わる。現代ではかなり使い手が増えている。
「燃えろッ!!」
神狩が刀で繭の表面を斬りつける。ザシュッと繭が切れる音の後、少し遅れて刀の軌道が火花のように発火した。たちまち繭の一部が黒く焦がされるが、動きはない。神狩は繭の横に降り立った。
「あれ〜…反応がないなぁ」
神狩が巴に向かって呟く。巴はゆっくりと頷く。神狩は刀を繭に突き刺すように構え直し、それに近づく。
その瞬間、凄まじい速度で眉から糸が放射され、神狩、巴、アコニへ飛んでいった。たちまち3人は倒れ込み、相手の粘着質な糸で地面に固定された。
「…ぐっ…反応できなかった」
「うごけない。」
動こうともしていないアコニが言った。巴が妖刀で糸を破ろうとするが、体勢が悪くそれも叶わない。
「死霊狩り…羽化の邪魔をしに来たらしいな」
低音で空気が痺れるような声が響いた。神狩がわずかに顔を上げたときには繭の一面がガバッと開き、内側から真っ黒な塊のような姿が現れていた。黒曜石のようなテカテカとした表皮のサナギだった。顔の部分には鋭い歯が並んだ口だけがある。不幸中の幸い、羽化はまだできていないようだ。
「ちょうどいい…貴様らを殺し、その導力で羽化を遂げるとするか」
死霊が牙を剥き出した口元をニヤリと歪め、神狩に近づく。
その瞬間、神狩は自らの体を発火させた。
「?!」
呆気に取られる巴をよそに、神狩はその炎で体を拘束する糸を溶かして立ち上がった。炎の扱いはいまだ完璧とは程遠いが、それを利用してあえてオーバーヒートを起こしたらしい。
神狩がすぐにその炎の一部を刀に収束し、2人を地面に縛り付ける糸を刀の一振りで焼き切った。巴がすぐに起き上がり、妖刀を抜いた。
「神狩くんありがとう…!」
巴が言うと、相手は低く笑った。
「自らの炎で火傷を負っているとは…未熟者が」
巴が反射的に神狩の方を見る。確かに、その左手は赤く焼けている。神狩はすぐに左手をポケットに突っ込み、右手で刀を構えた。それは相手に弱みを見せないためか、巴に心配をかけないためか…。
死霊が素早く2人に接近する。空気が揺れるようなブォンという音が響いた。その瞬間、神狩は刀で相手の体に素早く斬りかかる。
がチィン!
激しい火花が散り、両者は押し返された。死霊の体は相当硬いらしく、ほとんどダメージを受けていない。
「クッソ…結構硬い」
神狩が思わず呟く。巴も頷き、妖刀に導力を込めた。
「砕けないなら、寝てもらうまで…!」
巴が能力を発動し、死霊に素早く接近しようと動く。死霊は何かを感じ取ったのか、素早く上へ飛び上がって距離を取った。
「なかなか楽しめたぞ」
死霊が地響きのような声で言い、瞬く間に山の奥へと飛んでいった。
「あっ…!逃げた…」
「早すぎる…流石に追えないな」
神狩が苦々しげに呟いた。アコニはいつのまにか姿を消していた。巴は妖刀をパチンと鞘に収め、辺りを見回す。
「…とりあえず情報の共有、かな。本部に戻ろ」
すぐに同意する神狩。2人は山道を降りて行った。