「死霊が逃走だと…」
数時間後に本部に戻った2人の話を聞き終わると、アビシャがイライラとつぶやいた。
「そこまでして羽化を遂行したいのか奴は…しかしもはや後を追う手段がない…!」
彼の拳が机をバンバンと打ちまくる。巴と神狩が居心地悪そうに顔を見合わせる。天井から吊るされたランプで照らされているにもかかわらず、テントの中は薄暗かった。
「えっと…どうしますか?」
神狩がアビシャに聞くが、アビシャはダァンと立ち上がる。
「次にやつが姿を現すまで待機ッ!!しかない!」
食い気味にアビシャが叫んだ。相当キレている。
「私がどーにかしてあげよッカ〜?」
聞き覚えのある声。2人は声の主があの神出鬼没な娘だとすぐにわかった。すぐに背後にあのピンクと緑の配色が見えた。どこから侵入したのやら。
「アコニ…ちゃん…死霊狩り本部に部外者は入ったらダメだって…」
「ダイジョーブダイジョーブ!」
巴の忠告にも全く顔色を変えないアコニ。神狩は深くため息をついた。アビシャは見覚えのない能力者に困惑している。
「…どちら様だ?」
アビシャが一転して静かな声で問う。
「めちゃくちゃ気まぐれでテキトーなペロペロキャンディ娘」
「説明雑じゃナイ!?」
死んだ目で事実を羅列する神狩にアコニがツッコむ。巴が呆れ果てた目つきで見ている。
「っていうかどうにかって…」
「そこらじゅう飛び回ってるから情報くらいは知ってるヨ?」
アコニが何気なく言う。アビシャがまたしても机をぶん殴り、アコニが驚いてぴょんと跳ねた。
「ヤツの情報を知っているのか?」
アビシャがアコニにぐいぐいと詰め寄る。
「エ、う、うん…」
後ずさるアコニ。神狩は考える。前の繭の場所に狂いはなかった。実際に死霊狩りの役に立った実例は立証されている…しかし信用はできない。
「ぜひ教えてもらいたい!」
アビシャがアコニに向かって叫ぶ。アコニはそれを聞いた瞬間、ドン引き顔からたちまちニヤリ顔になった。
「あふふふ…タダであげるわけないじゃン?」
アコニが余裕顔でアビシャが殴っていた机に腰掛けた。アビシャ、神狩、巴の目線がアコニに集まる。彼女は満更でもない顔でペロペロキャンディを舐め始めた。
「…条件があるってこと?」
アビシャに変わって神狩が聞く。アコニは軽く頷いた。
「誰に何をして欲しい?」
「ン〜…誰に、かぁ…じゃあ巴チャンと神狩クンに、ある組織をぶっ潰すの手伝って欲しい!」
アコニが答えた。全員が無言で顔を見合わせる。
「ある組織って…?死霊狩り、だとか言わないよな?」
神狩が恐る恐る聞くが、アコニは首を振った。ツインテールがぶんぶん振り回される。
「そんなわけないヨ〜。あのねぇ…ヴェールっていう犯罪組織なんだケド…」