「ボスはどこにいるんだろ…」
「わかんナイ!」
巴の疑問にアコニが即答した。神狩はその問題をあまり重大なものと認識していなかった。この拠点を周れば、どこかしらにはあるはずだ。
「でもねぇ…多分豪華な感じだと思うヨ」
ヘルメットの下からアコニが言った。巴が一括するようにジロリとノーカルを見ると、ノーカルは不服そうにカバンの中に怪しい装置をしまった。
「なぁアコニ…そろそろなんでこの組織を壊滅させたいのか、聞いてもいい?」
不意に神狩が後ろからアコニを呼び止めた。アコニはその場で立ち止まる。巴とノーカルも少し遅れて立ち止まった。アコニは珍しく沈黙した。顔はヘルメットで隠されて全く見えず、何を考えているのかわからない。聞かない方が良かったのでは、と神狩が考え始めた時、アコニが口を開いた。
「…私この組織の捕虜だったんだよネ、生まれた時から」
ノーカルを押さえ込もうとしていた巴も、導力器具を出そうとするノーカルも硬直した。
「物心ついた時は檻ン中にいて…12歳のトキ…4年前だネ。他の捕虜と一緒に脱走しちゃっタ!」
アコニが両手をぱっと広げて見せた。その声にはいつも通りの明るさの中に、ほんの少しの哀愁を感じた。懐かしむような、悔いているような…。
「…復讐ってことかな?」
神狩が口を開いた。アコニはわずかに顔を上げる。
「…エ?まあ…悪いヤツらはやっちゃわないとだシ!」
神狩は頷く。
(ずっと縛られてきたから自由奔放なのか…)
「この壊滅作戦は君のために絶対に成功させる…!」
神狩がアコニの肩に手を添えながら言った。見た目通りかなり華奢だ。アコニはヘルメットに覆われた顔で神狩の方をじっと見つめる。
「…うん、アリガト!」
アコニがかつて無いほど素で嬉しそうに言った。神狩は思わず微笑んだ。
その時、奥の部屋から足音が聞こえてきた。
「…!」
「君らは…別拠点からの使者か?」
体格が良く、顔を銀と黒のヘルメットで覆った人物が大股で近づいてきた。この男は、見覚えのない4人を同じ組織の第二拠点から出張してきたメンバーだと解釈したらしい。
「え、ええ。こちらのボスに挨拶しようと思っていたところです」
神狩が間髪を容れず答えた。その甲斐あってか男は全くこちらを怪しんでいる様子はない。腕を組み、遠くからやってきた仲間たちを歓迎している様子だ。
「あんなところからわざわざ来たのか。ボスはこちらだ、案内しよう」
男が大股で歩き始めた。4人はその後を追いかける。神狩は自らの左腰の刀をいつでも抜けるようにギュッと握りしめた。
(このままボスを制圧すれば組織が散り散りになってやがて壊滅する、という読みか…上手くいくといいけど)
心の中で神狩がつぶやいた時、目の前の男が一つの扉の前で立ち止まった。
「さあここだ…くれぐれも不敬のないようにな…うちのボスは気は長くない方だ…」
男が小声で4人に行った。その巨体に似合わぬ緊張したような声色が面白かったのか、アコニが必死に笑いを堪えている。
「感謝する」
神狩が抑揚のない声で男に言うと、男はドアノブをゆっくりと引いた。
「ほう?お前らが第二拠点からの人員か」
ドアが開くとすぐに、威圧的で低い声が聞こえた。巴は思わず息を呑む。部屋の中は広く、いくつものロウソクが飾られたシャンデリアが吊るされている。そして、部屋の奥の椅子には1人の白髪の老人が座っていた。黒いローブを纏い、視力が低下しているらしく両目が白く濁っている。
「さあ、こっちへ…直近の出来事でも話そうじゃァないか…」
彼の名はセルザヴォーク。この時代の、ヴェールの最高指導者であった。