敵の軍勢に向かって立つ巴と韋駄丸。敵の全員が黒いマントを纏い、顔がフードで見えない。本当に人間なのかすらはっきりしない不気味さがある。巴は依頼者の妹が無事に家へ辿り着いたのを確認すると、妖刀を抜いて臨戦体制に入った。
その瞬間、一度に5人が韋駄丸に向かって駆け出した。韋駄丸は新人とは思えない身のこなしで体勢を低くしてそれをかわす。5人の視界から韋駄丸の姿が消えた瞬間、真下から彼の蹴りが飛んでいった。
「うぐぁっ」
蹴りが1人の顎に命中した。残り4人は倒れた仲間に躓いて体勢を崩す。その瞬間横から巴が素早く刀を振った。彼女の導力で作り出された青い斬撃が刀から抜けるようにして飛んでいき、4人の肉体を切り裂いた。
そのとき、不意打ちで2人がナタを構えて韋駄丸に斬りかかった。
「ッ…!」
ナタの一つが韋駄丸の腕を擦り、鮮血が飛ぶ。巴がすぐに気づき、対戦中の1人を蹴飛ばして韋駄丸の方へ加勢する。運動能力は異常に高いが、やはり戦闘慣れしていない。回避や攻撃などの動作に力が入りすぎて、無駄に体力を消費しているようだ。
巴が血のついたナタを持つ男に斬撃を放って吹き飛ばした。韋駄丸はすぐに立ち上がり、巴の背後を守るように背中合わせで立つ。
「連携が噛み合っていない。お前達初対面だろう?」
2本の短剣を持った男が奥から声を発した。黄色い目のマークが不気味な無機質さを醸し出している。また2人を薙ぎ倒した巴は、意識をそちらに裂く。男は短剣を隙なく構えて接近してくる。
「見せてみろ協会ィ!」
男が右の短剣を巴に振り下ろす。巴は即座に妖刀で受ける。
(攻撃が重いな…!)
巴は素早く相手の剣を受け流すと同時に刀を回し、相手の身体にその刃を近づけるように振る。しかし男は上半身を大きく逸らせて突き出された刃を回避した。韋駄丸が後ろから蹴りかかるも、すぐに反応され容易く避けられた。
「…速いな…!」
韋駄丸が静かに、しかし確実に焦りを含んだ声でつぶやいた。男は短剣を逆手持ちに切り替え、奥の一団と共に歩いてくる。
「生贄となれ!」
男が素早く短剣を振り下ろす。巴がそれを回避し、刀に導力を込めた。
「仕方ないね…!」
「!」
巴の導力が手から刀に吸い込まれるように移動しているように見えた。能力を発動したらしい。男はすぐに巴の異変に気づき、警戒して後ずさる。
妖刀「噛去」が黒い光を放ち、巴の腕の振りと共にブォンと音を立てた。
「催夢一閃!」
巴が刀を振り下ろした瞬間、その姿が忽然と消えたように見えた。男は焦る。どこへ行った…?
一瞬遅れてキィンッと音が響き、男は後ろへ倒れた。巴は刀を振り下ろした体制のまま、男の背後に立っていた。その導力がまだ立ち上っている。
男はその場で死んだように倒れていた。韋駄丸がそこに近づき、巴に問う。
「…それなんですか」
巴は刀を鞘に収めて韋駄丸の方を向く。
「私の能力です…催眠術、的な」
巴は地面に倒れて深すぎる眠りに閉ざされた男を見下ろした。
「後遺症が残りかねない上に導力の消費が結構笑えない量だから普段は使わないようにしてるんです…!」
韋駄丸は改めて認識した。目の前に立つ紺色の髪の彼女は、運動能力以前に戦闘慣れした、本当の戦闘員だと。