「任務を完遂したか、よくやった!」
本部へ戻るや否やアビシャが机を殴りながら言った。気のせいでなければだんだんと机の表面が凹んできている。
「さて、これで例の死霊の居場所を教えてくれるんだったな、“めちゃくちゃ気まぐれでテキトーなペロペロキャンディ娘”くん」
アビシャがアコニに向かって言った。アコニはそれを聞いた瞬間かつてないほど無表情になった。
「エ?何の話だっけ…ア〜、あのサナギの場所のことカ…」
神狩と巴、ノーカルが同時にアコニを見つめた。この娘、完全に等価交換のことを忘れていたらしい。アコニが慌てて両手をブンブン振っている。
「えっと、ウン…多分アッチの方のなんか寒いとこ、カナ…」
アコニが弁明するように早口で言った。笑顔が引き攣っている。アビシャがじとーっとアコニを見つめる。
「…本当に正確な場所がわかってるんだろうな」
「そりゃ〜わかってたよ…昨日までいた場所は…(今もそこにいるかは知らないケド)」
机に拳がめり込んでバリリと音を立てた。
「…とりあえず、その場所に行ってみるしかないでしょ。まだそこに留まっている可能性に懸けて」
苦笑いしながら神狩が言った。巴も愛想笑いしながら頷いた…なぜかアコニも愛想笑いしている。
「はぁ…全く無責任な。だがそれしかなさそうだな…仕方ない。消息を掴み次第報告に…」
刹那、激しい風が吹き荒れた。テントがバタバタと音を立て、木製の柱が軋んだ。
「…ッ何…?」
巴が風にかき消されそうな声で言った。アビシャの目線が、その時巴は、テントのすぐ外で止まっていることに気がついた。
「また会ったな死霊狩り諸君」
空気を痺れさせる低音が響く。巴はすぐに声の主を思い出した。あの死霊だ。
風がおさまり、神狩はテントから顔を出して相手を視認した。テントの外に立つ姿は、前に見た時と大きく違っていた。2mほどの体は真っ白で、背中には2枚の大きな翼。細長い腕の先には爪があり、長く伸びた尾と黒い目がある…その姿はカイコガの成虫に似ている。
上位死霊モスプリオ(成虫)。
「羽化に成功したんだ…!」
巴が言い、素早く立ち上がるが、前の戦闘で痛めた右足が疼いた。モスプリオは黒く丸い目で全員の様子を観察している。ノーカルはすでに手にシンドロームを持って構えている。
不意に神狩が炎の刀で斬りかかった。モスプリオはその様子をただ眺めている。神狩は一気に距離を詰め、ありったけの炎を込めて、刃を振る。それが相手の体に届く瞬間…モスプリオの姿が忽然と消えた。
「うっ…?」
神狩が思わず声を漏らした瞬間、背中に激痛が走った。目に見えない速度で背後に回り込んだモスプリオの鋭い尾が、神狩の背中に深々と食い込んでいた。
「神狩くん…!」
巴が叫んだ時には、すでに神狩はその場に跪いていた。