神狩はその場に倒れ込んだ。モスプリオはその様子をただ見下ろしている。黒い目には一切の感情も容赦もなく、ただ倒れる獲物を見ているだけだった。
「神狩クンに手出すんじゃないヨ!」
アコニがロリポップを振って毒の導力弾を複数発放つが、気がついた時にはモスプリオは少し離れた場所にいた。
「巴チャンは休んでて」
アコニが巴に静かな声で言い、テントの外へ向かって歩き始める。
「待って…!無茶だよ…!」
巴がアコニを呼び止めようとするが、アコニはその場でくるんっと回転してピースした。表情は自信に満ちているようだ。
「任せテ!あ、でも危なくなったら来てほしいナ〜…」
アコニがロリポップを担いでモスプリオの方へ走っていった。
「お前1人か?」
モスプリオが拍子抜けしたような声でつぶやいた。アコニはむすっと不機嫌顔で駆け出した。モスプリオは無機質な表情のまま鋭いツメで連続攻撃を繰り出す…明らかに舐められている。アコニはそれをロリポップの棒の部分で次々と受け止めていく。
「全然本気出してないでショ!?」
アコニがモスプリオに向かって叫ぶ。モスプリオは無言で尾を素早く振ってアコニの足を掬った。
「ア…」
アコニはその場にコテンと綺麗に転ばされた。半球のようなスカートが翻り、ロリポップがその手から離れた。モスプリオはつまらなそうに獲物を見下ろし、わずかに浮遊してテントの方へ向かい始めた。
ジャキンッ!
瞬間、神狩とアコニが同時に攻撃を繰り出した。当然、アコニも全く本気ではなかった。神狩が立て直す時間を稼いだまでだ。モスプリオの姿はすぐに消え、2人の武器は空を切った。
「反応できないなら先読みすりゃいいだけだ…!」
神狩が刀の向きを切り替え、自分の背後の突き出すように振った。ガシッと硬い感触があり、背後へ移動してきたモスプリオに刃が刺さったのだとわかった。
「ッ…」
モスプリオは凄まじい速度で尾で薙ぎ払いを繰り出し、2人を吹き飛ばした。
「がっ…ぁ…」
神狩は地面に叩きつけられるも、アコニはくるりと回転して着地した。全身が激しく痛むが、神狩はニヤリと笑った。
「極限まで速さを追求した結果、強度は落ちたんだろ…!」
神狩がモスプリオに言った。上位死霊にも関わらず、刀を刺す感触は人間とほとんど同じだった。モスプリオは軽く頷くようなお辞儀するような挙動をとった。
「ご名答だ火炎の死霊狩り…」
モスプリオの右足の関節付近に刀が刺さっていたであろう傷跡が見えた。アコニがあふふっと笑う。
「マジで勝てるかも…!」
刹那、モスプリオの姿が視界から消えた。神狩は咄嗟に刀に炎を灯し、くるんと一回転した。炎が残像のようにその場に残り、神狩を取り巻く結界かのようになった。しかし、狙われたのはアコニだった。
「アコニ…!」
「うぎゃ…」
モスプリオの尾がアコニの腰のあたりを締め上げていた。神狩が刀を激しく燃やしてモスプリオに斬りかかった。
「遅い」
次の瞬間モスプリオは忽然と姿を消し、アコニがその場に落とされた。神狩の斬撃は回避され、炎がゴォと音を立てて空気に溶けた。
「どこに…」
ドスッ!
「ゔ…」
鮮血が飛び散った。神狩が見た時には、モスプリオの刃のような尾が、アコニの肩のあたりを貫いていた。