夜明け -片割れ三ツ巴-   作:NIGHTMARE⭐︎

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66 『従者』

「…ッ」

神狩は膝から崩れ落ちた。和服の外から膝に砂利が刺さり痛むが、それどころではなかった。目の前には消えゆくモスプリオ。巴はすでにアコニをテントに運び込んだらしく、姿は見えない。神狩も軽傷ではなかった。背中を死霊の尾が突き刺し、いまだに血が滴る感触がある。意識ははっきりしているものの、体が重い。すぐに顔を上げることも辛くなって、神狩は俯いた。

(アコニの無事を確認しに行きたいというのに…頼むよ赤炎操法…)

神狩は心の中で呟く。導力の使いすぎでその赤炎操法も簡単には扱えなかった。

その時、後ろからザクザクと砂利道を歩く音が聞こえてきた。振り向こうとしても、疲れ切った体はいうことを聞かない。隊員の誰かが戻ってきたのだろうか。足音が自分の真後ろで立ち止まる音が聞こえた。

 

「疲労困憊導力衰弱中に失礼、死霊狩りの本拠地はこの場所で間違いないかな?」

全く聞き覚えのない声がした。声そのものにフィルターがかかったような独特な響きの青年の声のようだった。神狩はもう一度声の主の姿を視認しようとしたが、やはり体に力が入らない。

「言葉すら返せないか少年…まあ仕方ない、幸い他にも隊員がいるようだ」

声の主が神狩の横をゆっくりと通り過ぎた。目線は疲労に制限されていたが、神狩の目に黒いコートの裾と、白いズボンが映った。口ぶりからして絶対に死霊狩りの隊員ではない…。

「…手を出すな」

神狩がほぼ反射的に声を出した。視界のギリギリで、青年が立ち止まるのが見えた。

「ほう?するとこの場所にいるのは君の仲間か…なぁに、おとなしく交渉に応じてくれればいいだけの簡単な話さ…」

神狩は青年の足音が遠ざかり、テントの方へと向かっているのを感じた。

「ッ…!」

神狩は歯を食いしばり、両手で地面を押し返すようにして無理やり立ち上がった。

 

「な…何者…!」

テントに現れた青年を相手に、巴は妖刀を構えた。巴はチラリと奥で寝かされているアコニを見た。肩の傷跡にはすでに服の下から包帯が巻かれ、応急処置は済んでいる。しかしいまだ意識はない。

「何者ねぇ…『闇薔薇の従者』とでも名乗ろうか。あるものを探しにきたんだ」

青年が意味深な微笑みを浮かべて言った。空気を撫でるような声がテントに響いた。巴はどうすべきかを考える。テントにはノーカル、アビシャ、傷ついたアコニしかいない。

ダァン!

机を殴る音が響き渡った。

「ふざけるなよ!お前のような怪しい者にくれてやるのは、こいつだけだ!」

巴がアビシャの方を見た時には、すでにアビシャが連写式の導力銃を『闇薔薇の従者』に向けて乱射していた。アビシャは反動に耐えようと中腰の姿勢で、これでもかと相手に銃弾を浴びせる。やがてガシッという音と共に、銃弾が尽きる。アビシャは息を切らして銃を下ろした。

 

テントの入り口には、『闇薔薇の従者』が何事もなく立っていた。片手をポケットに入れたまま、ピンクと紫のオッドアイの目を眩しそうに細めている。よく見ると、アビシャが撃った銃弾全てが、『闇薔薇の従者』の足元に落ちていた。

「はぁ…交渉決裂かな…っていうか私、まだ何が欲しいかすら言っていないのだけれど」

自身に攻撃を加えたことへの怒りすらなく、ただその場にいた。巴は息を呑む。能力を使用した時の導力のゆらめきすらもない。その瞬間巴は、目の前の青年が操る力は普通の「能力」ではない、と理解した。

「『反響』使い…!」

「おぉ、知ってるの?ヴェール内にしか広めてないつもりだったのに、すごいね」

『闇薔薇の従者』は軽く微笑んで、ゆっくりとアビシャの目の前に歩み寄った。アビシャは銃を落として後ずさるが、すぐにテントの端に追い詰められた。

巴が即座に刀を抜いて『闇薔薇の従者』に斬りかかるが、妖刀が彼に触れる直前、突如全身に違和感が走った。ガチリとその場に固められたような、あるいは壁にぶつかったかのような感覚がして、巴は床に落とされていた。『闇薔薇の従者』は巴には見向きもせず、アビシャを鋭い目つきで見つめている。

 

「導力を収集する器具があるはずだね。何か知っているかな」

巴は息を呑んだ。導力を収集。まさしく、ヴェールの拠点でセルザヴォークに対してノーカルが使った導力器具、シンドロームの特徴と一致した。ノーカルは無言でわずかに目を見開いて、椅子の上で硬直している。

 

「そんなものは知らん…!本当だ…」

アビシャが震える声を振り絞った。彼は実際に何も知らない。潜入作戦に同行していないのだから。

「そうか。なら、私が用があるのはキミではないらしい」

ドチュンッ!!

アビシャが壁に叩きつけられ、テントの壁に大量の血が飛び散った。

「グふっ…」

アビシャが吐血した。その腹部にはポッカリと大穴が開き、赤黒い血が滴っている。『闇薔薇の従者』は興味をなくしたように巴の方へ向き直った。アビシャはすでに壁際に寄りかかったように座った姿勢で絶命していた。

「じゃあ…君は?」

『闇薔薇の従者』が落ち着いた表情で巴を見た。返り血は一切ついておらず、白い髪が風に靡いた。

 

「それは俺の器具だ…!!」

ノーカルが巴と『闇薔薇の従者』の間に割って入った。

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