「それは俺の器具だ…!!」
ノーカルが目の前の青年に向かって叫んだ。『闇薔薇の従者』は自分と巴の間に割り込んだノーカルをじっと見つめる。
「俺が作った器具で、今も持っている…そして、起動済みだ!!」
ノーカルが突然、右手に持った銀色の輪のような器具、まさしく目の前の男が探しているシンドロームを振った。巴は目を疑った。シンドロームを触れさせれば、即座に触れた対象の導力を吸い上げ始めるはずだ。
「これがその器具か。思っていたよりも小さいのだね」
ガンッ!
ノーカルの腕が突然何かにぶつかったように止まった。動かそうにも微動だにしない。
「ックッソ!」
ノーカルは腕を動かそうと必死に力を入れる。『闇薔薇の従者』は首を傾けて巴の方を見た。
「君とあの子は、この器具についてやはり知っているのかい」
巴は『闇薔薇の従者』の言葉を聞いて硬直した。しかし、視界の端に映る力尽きたアビシャを見て、咄嗟に言葉が口をついて出た。
「…知ってる…!」
『闇薔薇の従者』は目をわずかに開いた。ノーカルは悔しそうな表情で巴を見ている。重苦しい沈黙が流れた。空気の流れがとてつもなく遅くなったようだ。
「巴っ…!」
「では…これをいただいてもよろしいかな」
『闇薔薇の従者』がノーカルに言った。逆光で表情がよく見えない。ノーカルは歯を食いしばる。
「いいわけあるかよ…!」
『闇薔薇の従者』は表情を一切変えず、指でシンドロームの縁をなぞった。ノーカルがわずかにニヤリと口角を上げた…しかし、『闇薔薇の従者』の導力が吸い取られることはなかった。セルザヴォークのようにもがき苦しむこともなく、『闇薔薇の従者』はシンドロームをノーカルの手から取り上げた。
「死んでもいいのかい?」
「…俺の器具が死ななけりゃ、それでいいって話さ…!」
『闇薔薇の従者』の問いかけに、覚悟したような表情でノーカルが言った。そして、素早く振り返ってアコニと巴に向けて何かを投げた。プラチナのような白銀色の立方体のような器具だった。表面が虹色に輝いて見える…。
それは禁止条例器具に指定されている封印器具、『封眼』(フウガン)だった。対象を200年間拘束する器具で、かつて巴の祖先…神嵜妖(カムサキアヤ)が厄災を封じ込めたのも同じものだった。
「おや…」
『闇薔薇の従者』がつぶやいた時には、封印はパックリと開き、虹色の光を放っていた。
「ノーカルさん…!?これって…」
巴が叫んだ。その体はすでに封眼から放たれる虹色の光に捉えられて動かない。
「どうして!?」
「決まってんだろ…2人とも死なせらんねえからな!」
ノーカルがニヤッと笑った。
その瞬間、二つの封眼がそれぞれ巴と意識を失ったままのアコニを吸い込み、カチンと音を立てて閉じた。一瞬遅く『闇薔薇の従者』が『反響』を発動し、ノーカルの体はアビシャと同様に貫かれた。そしてまた一瞬遅く、神狩がテントへ駆け込んだ……。
そこから封眼の中で200年を過ごした巴。誅暦1000年、封眼は1人の考古学者に解除されて彼女は自由の身となった。
現代、誅暦1001年。巴は病室で目を開けた。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。すでに朝焼けが顔を照らし、となりでは美甘が壁に寄りかかって寝ている。
「…神狩くん…」
巴は小さな声でつぶやき、頬を一筋の涙が伝った。