68 倉庫
「巴ちゃんさぁ…大丈夫?」
「えっ」
朝、協会の廊下でぼーっとしていた巴に美甘が声をかけた。明け方に見た夢の影響か、上の空気味だった。
「…まあ。大丈夫かな」
巴が答えた。美甘はじとーっと見つめている。尻尾がドプンっと音を立ててオレンジのカーペットがひかれた床から飛び出した。
「ふーん…まあ別に深掘りとかする気ないし…」
美甘が欠伸する。巴は無言で特に当てもなく周囲を見渡す。
「韋駄丸くんは…」
「…まだ」
美甘が小声でつぶやいた。巴は俯く。商人団との戦闘から半日が経とうとしている。大戦の結果、美甘の身は無事に守られた。
突然、巴が刀の鞘をギュッと握って歩き始めた。美甘が目線だけでその動きを追っている。いくつもの協会員の個人部屋が並ぶ廊下を早歩きで通り、ある場所に最短で向かう。
エントランスにはすでに数人の協会騎士が依頼を漁っているが、巴はそれに見向きもせず一直線に一番端の依頼受付に向かって歩いた。
「すみません、協会の倉庫に入りたいんですけど…」
巴が依頼受付に話しかけた。受付は腕を組んで天を仰ぐ。何か迷っているような沈黙が続いた。
「危険器具も多々あります…BLUELINEの同意書が必要です」
受付がやがて口を開き、巴は押し黙る。巴が探していたのは、自分と同時に研究者によって封眼に囚われたはずのかつての仲間だった。死霊狩りは宇宙平和協会の前任団体…ならば死霊狩り本部にあった封眼がいまだに保管されていてもおかしくはない。
「…わかりました。ありがとうございます」
巴が受付に軽く頭を下げた。確かに封眼は禁止条例器具の一つ。そう簡単に扱えるような代物ではなかった。実際に、封眼は開いてみるまでは中身が何かわからない。
巴がちらりと上へ続くエントランスの階段を見た時、見覚えのある姿が目線に入った。
「あのさぁ…なんかやりたいことあんなら言ってよ」
美甘が地面から現れながら言った。その全身が地上に曝け出され、だるそうに壁の青いガラスにもたれかかった。完全に陸に上がった姿を見るのは初めてな気がする。その身長は巴よりも高い。
「…何探してるわけ?」
美甘が板チョコをパキリと齧りながら言った。
「失礼します」
巴は協会の3階にある、BLUELINE協会部の部屋の扉をノックした。白い扉に青いラインが入り、金色のプレートには『BLUELINE協会部オフィス』と刻まれている。巴の隣には美甘も一緒だ。BLUELINEは一部署を宇宙平和協会の中に置いているため、協会の本部にBLUELINE隊員が過ごすオフィスがあるのだ。普通は関係者以外入らないため、巴も中の様子は見たことがない。
「はい…?何かご用ですか…」
扉の奥から困惑したような青年の声がした。
「倉庫を利用するための同意書が欲しくて来ました」
巴が答えた。ガチャリと扉が開き、青年が姿を現した。左右非対称なブロンドの髪と、暗い茶色のスーツを纏った姿。
「あれ…巴さん…?」
青年が巴の姿を見た瞬間小さくつぶやいた。