「倉庫への入室許可?」
カーフが聞き返した。チェス板のような白黒のカーペット、青い窓ガラス、ソファ。会長室はいつもと変わらない。巴はそんな会長室の扉の前で、カーフに交渉していた。
「はい…本来なら準一級以上の隊員でないと入ることができないと聞きました…ですが…あそこには友達がいるんです…」
巴が俯き加減でカーフに言った。美甘は協会員ではないため、下の階で待機している。
「友達、か。一年前の君と同じように封眼に囚われの身というわけだな…」
カーフがズバリと言い当て、巴の体が反応した。カーフの黄色い目が貫くようにこちらを見ている。本当に封眼を解除しても安全か、真剣に考えているようだ。下の方の階から聞こえてくる隊員の声以外、痛いほどの沈黙。
「…わかった」
カーフがやがて静かなトーンで言った。巴は耳を疑った。
「…いいんですか?」
「許可を与えることにはなる。ただし、条件が二つある」
カーフが2本の指を見せながらいつもの鋭い声で言った。
「一つ、公認スレイヤーに護衛として付いてもらう。仮に封眼の中身が危険な存在だった場合に対処できるようにだ…じきにアレは処分したいと思っていたからな」
巴は黙ってカーフの言葉を聞いていた。
「そして二つ…」
カーフはそこでふぅっと軽く息を吐き、巴に向き直る。
「BLUELINE協会部が現在追っている事件の解決に尽力すること」
カーフが感情のない声で言った。巴は言葉の意味を少し考え込んだ。
「具体的には共同作戦だ…そこで君の実力が本当に準一級に届くか考えさせてもらう。人手が足りていないのも理由の一つだがね」
巴は深呼吸して鋭い目つきで頷いた。
「はい…!」
カーフは頼もしい巴の声にわずかに微笑むと、言葉を続ける。
「目的地は相当遠い。それこそ、別世界程度の認識でも構わない、油断するなよ…さあ、倉庫へ向かってもいいぞ」
巴は微笑んで一礼して、階段を素早く降り始めた。
「…え?マジでいけたん?」
下の階で暇そうに壁にもたれかかっていた美甘が、上体を起こしながら言った。
「うん!美甘ちゃんも来る?」
「…いやそりゃそうでしょ…ちょっと気になるし」
階段を駆け降りる巴を美甘が追いかけた。
協会の倉庫は、エントランスの左端のエレベーターから入ることができる。地下一階から三階まで、すべてが死霊狩り時代から集まったものが収められている。特に危険な器具は、より下の階層にあるらしい。白くツヤのあるエレベーターのドアがスッと開き、巴と美甘はそこへ乗り込もうとした。
「お待ちください」
突然後ろから聞き覚えのない女性の声が聞こえた。巴が振り返ると、そこには輝くような水色の髪の人物が立っていた。白いスーツと黒くテカテカとしたスカートを纏い、背中からは紺色の翼が見える。
「あなたは…」
「あ、ごめんなさい。公認スレイヤーのミアーシャと申します…!」
巴の問いかけに、ミアーシャは微笑んだ。倉庫に同行してくれるのは彼女らしい。
「よろしくお願いします!」
巴の声と共にエレベーターのドアが音もなく閉まり、地下の保管庫へと下降を始めた。
「私、封眼を探していて…」
「会長からお話は伺ってます。ご安心を」
巴の震える声にミアーシャが愛想よく答えた。美甘は白いエレベーターの壁に寄りかかったまま、ミアーシャの背中の翼をじっと眺めていた。
「…あんたも半竜なんですか?」
美甘が丁寧なのか崩れているのかよくわからない口調でミアーシャに尋ねると、ミアーシャは振り返った。
「ええ、まあ…純正飛竜クロソイドです…!」
ミアーシャが嫌な顔ひとつせず答えた。その時、コーンという音と共にエレベーターが停止した。表示は『地下3階』を示している。エレベーターが音もなく開くと、真っ暗な部屋が眼前に広がった。大量の棚があるらしく、得体の知れないものが大量に保管されているようだ。
「…こ、こんな場所が協会の地下に…」
ミアーシャがつぶやいた。彼女も初めて立ち入ったらしく、翼がプルプルと震えている。
「…行きましょう」
巴が静かな声で言い、埃を被った不気味な倉庫へ足を踏み出した。