巴が銀色の器具の縁を掴み、力任せに引っ張ると、キュウンと不思議な音と共に封眼が開いた。八つの立方体が八方にガシャンと開く。その中心部には黒い立方体があり、その部分から虹色の光がほとばしった。ミアーシャが半透明な水のような導力を高速で回転させて構えている。中心部の立方体から、何かが排出されて床に叩きつけられた。
「…!」
妖刀の持ち手を掴む巴の表情がわずかに変わる。封眼はカチンと音を立てて、先ほどまでと同じ立方体の形状に戻った。
封眼から現れた人影は、地面に落ちるなり血を吹き出した。巴は目を見開く。見覚えのある姿形だった。赤紫に近いピンクと緑のド派手な髪色、ゴシックな服装、半球のように広がったスカート、地に落ちたペロペロキャンディ…。
封印直前にモスプリオにやられた傷は、いまだに治っていなかった。
「アコニちゃん!!」
巴がアコニに駆け寄った。美甘は無表情でその様子を眺め、ミアーシャは両目を閉じて落ち着いた佇まいに戻っていた。巴が自分の袖をアコニの右肩に押し当てる。せっかく封印が解けたにも関わらず、そのまま失血死など絶対にさせない。そう考えることすら不吉に思えて、巴はただ無言でアコニの傷口を抑えた。涙が自然と数滴頬を流れ落ちた。
「アコニちゃん…解除が遅れてごめんね…」
巴がアコニを抱き寄せながらつぶやいた。アコニは人形のようにされるがまま、意識を失ったままだ。
「医療室へ行きましょう…!」
ミアーシャの声に、アコニの服に顔を埋めたまま頷く巴。美甘はゆっくりと近づいて巴の背中を優しく撫でた。
「えっと…どちら様…」
「詳しくは治療してからです!」
困惑する病室の医者を一喝するミアーシャ。巴は背負っていたアコニをそっと白いシーツが引かれたベッドに下ろした。日の当たる場所で見ると、かなり血色が悪い…元からかもしれないが。あの時と変わらない派手な配色。巴の記憶から抜け出てきたようなそのままな姿。なぜだか自然と涙が止まらない。ミアーシャは2人と医者にお辞儀すると、足早に病室を立ち去った。
「…巴ちゃん?この子…何」
美甘が呟くように聞いた。いつも通り床に半身を埋めた姿なので、巴を下から見上げている。すでにアコニは医者に点滴を打たれたり、治療が始まっていた。巴はチラリと、奥のベッドに横たわる韋駄丸を見て、深く息を吐いた。
「200年前…の友達の1人」
声が震えた。美甘は横目で巴を見つめると、それ以降は何も追及しなかった。
「…ま、宇宙平和協会の医者ってすごい腕いいらしいし…大丈夫でしょ」
美甘はそう言うと、床にとぷんと潜るように去っていった。巴は1人、壁沿いに置かれた椅子に腰掛けた。失ったものと思っていた仲間が復活したかと思えば、生死の縁を彷徨っている。気持ちの整理がとてもつかない。感情の振れ幅が大きすぎて、さすがの私も疲れるよ…。
巴はただ両目を閉じて、目の前のかけがえのない友達2人の無事を祈ることしかできなかった。