「エ〜、明日ァ〜?」
巴が一通り話終わると、アコニが言った。協会の病室のアコニのベッドの前に木製の椅子を置いて3人は話している。
明日の朝8時、巴はBLUELINE協会部と共に死霊ドレッドノート討伐の任務へ旅立つ。
「…それで増援が必要ってこと…?」
美甘がいつもの脱力顔で言った。言われる前から、自分が増援として誘われることがわかっているらしい。
「うん…だから美甘ちゃんに…」
「はぁ…いいよ別に」
美甘がかしこまった巴の声を遮った。
「そんなお願いされなくてもいいって…」
美甘がアコニの手を振り払いながら言った。アコニは半竜を初めて見たらしく、すっかりテンションが上がっている。そして好きあらばその尾に触れようとしていたのだ。
「…そんなことよりも!この子何…」
美甘がすーっと床を泳いでアコニから離れながら言った。
「アコニちゃんは…友達かな、200年前の」
巴が、美甘に触れようとジタバタするアコニを撫で付けながら言った。アコニは急に脱力してベッドにべたっと仰向けに倒れ込んだ。
「明日ネ〜…不安もあるけど頑張ろ!」
アコニが言うと、巴と美甘が同時にその肩に巻かれた包帯を凝視した。
「…その怪我じゃ無理でしょ…」
「傷が治るまで休んだ方がいいよ」
アコニはそれを聞いて笑顔のまま硬直した。完全に自分も一緒に行くつもりだったらしい。一拍置いてから…
「エエエエエエ!?!?私行けないノ!?ヤダァ!」
状況を理解したアコニが叫んだ。
「無理したらダメだよアコニちゃん…」
巴が心配そうな口調で言った。
「あとお願いなんだけど…私たちが行ってる間に韋駄丸くんが目覚めたら、仲良くしてあげて?」
巴が続けた。アコニはぽかーんと韋駄丸の方を見た。
「イダマルクンってあの人?どんな人?」
アコニが言うと、美甘はわずかに俯いた。
「物静かだけど友達思いでいい人だよ…」
巴が静かに言った。巴はそのタイミングでちらりと壁にかけられた時計を見た。
「そろそろ明日に備えて寝ておこうかな…2人ともおやすみ」
巴が軽く手を振って病室から出ていった。アコニは床に消えていく美甘をじっと見つめ、隣のベッドで意識がないままの韋駄丸を見た。
翌朝。
「着きました…!巴です!」
巴と美甘はオフィスへ駆け込んだ。すでにオフィスの端のソファには昨日見た面々が集まっていた。
「集合時間20秒前か。ずいぶん息が上がっているな」
拙悟が巴を見るなり言った。ついアコニと話しすぎてしまい、気がついた時には集合時間の2分前だったので全力で走ってきたのだった。セリスが微笑みかけて手を振った。
「これより任務を確認する…無数の小規模な村が点在する西方の荒地、その上空を徘徊する上位死霊ドレッドノートの駆除だ!体長は推定20メートル、特殊能力は未知。見つけ次第総攻撃だ」
拙悟が不自然なほど綺麗な姿勢で言った。
「…20メートル?」
美甘が思わず聞き返した。拙悟が美甘を見つめる。
「君が増援か…半竜、か。まあいいだろう。責任を持って任務へ向き合い、BLUELINEとして恥ずべき行動はするな」
「わたしBLUELINEじゃないし…」
「いちいち突っかかるんじゃない!!」
拙悟が地面の無表情で全く怖気付かない美甘に向かって怒鳴った。巴とセリスが焦った笑顔で間に割って入った。
「まあまあ美甘ちゃん…いつも通りにやってくれれば大丈夫だから…まあ私美甘ちゃんが戦闘してるの見たことないけど」
「まあまあ拙悟さん…せっかく外部から戦力としてきてくれたんですから…っていうか増援をお願いしたのって拙悟さんだったような」
巴とセリスが同時に全力で仲裁した。駅員のような隊員がほわ〜っと笑った。
「落ち着いて。恥ずべき行動はするなって自分で言ったばっかりなのに」
聞き馴染みのない静かな声が聞こえ、巴は振り返った。瞬間、拙悟がいつもの厳格モードでお辞儀した。
「失礼しました組織長。つい熱くなってしまいました」
巴は目の前の女性を見つめた。金髪のショートヘアと、グレーのコートを纏った小柄な女性。
BLUELINE組織長にして最高司令官、『ミスト』。