数時間後。すでに遥か下に広がる街は夕陽でオレンジ色に照らされ、市民たちも帰宅しようと行き交っていた。巴はボックス席に座って窓の外を眺めていた。黄色い雲の向こうに大きな目玉焼きのような太陽が輝いて、談話スペースも同じ色に染まっている。
「あと1時間6分で目的地に到着する見込みだ。準備を済ませておくように」
拙悟が運転席のそばからこちらを向いて言った。巴は咄嗟に自分の腰に帯刀された妖刀噛去をチラリと見た。
「巴チャン。これどんな任務?」
いつのまにか横にいたアコニが尋ねた。
「知らずにいたの!?」
巴が思わず叫び、明らかに怒り顔な拙悟が振り向いた。巴があたふたしている間にズンズンと近づいてくる。
「なぜ任務内容を理解していない!!2時間43分前に言っておいたはずだろう!!」
アコニに噛みつきそうな勢いで拙悟がブチギレた。アコニはそれを場に合わないニコニコ顔で眺めている。
「巨大死霊の討伐任務だよアコニちゃん…!っていうか流石に戦闘に出たらダメだって!」
巴がアコニの負傷していない方の肩をぐいっと引き寄せながら言った。
「ア、そう言えばそんなこと言ってたネ…巨大死霊ドロドロドーンとか…」
「ドレッドノートだ…」
拙悟が呆れ顔で運転席の方へ歩きながら呟いた。アコニは「アーそれそれ」みたいに頷いた。巴がアコニの両腕をがしりと押さえ込むように掴んで、正面からその目を見つめた。
「アコニちゃん。本当に傷が心配だから戦闘には参加したらダメ!」
巴に見つめられて、何かを考えているようなぽかーんとした顔でアコニは硬直した。そして、やがて掴まれた腕をぶんぶん振って振り解いた。
「心配かけてごめんネ…だけど行動を縛られるのも暇なのもやだ…」
アコニが俯いた。巴は咄嗟に押し黙った。12年間捕虜として閉じ込められていたという彼女の過去を思い出したのだ。当然ながら檻の中には面白い出来事も暇つぶしも存在しない。そんな環境で育ったため、退屈という状態が人一倍嫌いなのだろう。
「うん…アコニちゃん、それでも戦闘には出てほしくない!」
巴がはっきりと言い切った。アコニは顔をわずかに上げる。
「私はアコニちゃんのことが本当に大事なの…!これ以上傷ついてほしくないの!それでも行くって言うのなら、私は無理にでも止める!」
巴が立ち上がって言った。アコニは少し口角を上げてシュッといつもの巨大なロリポップを構えた。美甘、拙悟、セリスが2人の間に流れる緊張感に気づいて止めようとした時、巴が素早く動いた。
ピッ。
巴が座るボックス席の上部、天井に吊るされたスクリーンが起動した。巴はリモコンを持った手をそれに向けている。スクリーンには「映画」や「アニメ」などの項目が並んでいて、アコニは臨戦体制のまま固まった。
「暇が嫌ならテレビ見てて!私たちはできるだけ早く戻るから!」
巴が珍しく感情的に叫んだ。誰も一言も発さない。やがてアコニがにへらっと笑った。
「えへへ…わかった、巴チャンたちの任務が終わるまで映画見て待ってル」
アコニがロリポップをぽーいと放り出しながら少し落ち着いた口調で言い、巴の隣に座った。それを見た巴は空気が抜けたようにふーっと深く息を吐きながらリモコンをテーブルに置いた。
「…焦ったぁ…てっきりお二人が本当に戦うのかと…」
セリスが気の抜けた声を漏らして苦笑いした。その横を通って、巴たちの元に拙悟が歩み寄ってきた。
「あ、あの…」
巴が焦り顔で呟く。
「戦闘に参加しないなら増援になっていないではないか!!!大体負傷しているなら先に言え!!!!」
拙悟が爆発するように怒鳴った。
「…なんか、絶妙に相性がいい2人ですね…」
セリスが遠くから眺めて呟くと、美甘がふっ…と笑った。
「…突然器具から飛び出たときは警戒したけど…やっぱいい仲間じゃん」
美甘が、拙悟に怒鳴られて巴にくっつくアコニを見て呟いた。