夜の道。巴と韋駄丸が協会に向かって歩いていた。すでに月が上り、あたりは木々に囲まれているのもありかなり暗い。
先ほど戦闘した秘密結社ヴェールの軍勢は、何事もなくBLUELINEに連行されていった。
「任務お疲れ様!」
巴が韋駄丸ににこやかに声をかけた。韋駄丸は中途半端に下の方を見て頷いた。巴は韋駄丸が自身と同じように極力命を奪いたくない、という考えを持っていると知って親近感が湧いたらしい。
「私の名前、覚えてる?」
巴が試すようにニヤニヤしながら韋駄丸を見る。
「ト…巴さん…」
「敬称なんて良いよ。韋駄丸くんは仲間以前にもう友達でしょ?」
ニコニコしている巴。韋駄丸は相変わらずその顔を直視できない。この人、距離が近すぎてちょっと怖い。裏切られた時に辛くないように、あまり人と深く関わりたくないのに…。そう思いつつも、ほんの少しの嬉しさも同時に感じていることに彼は気づいていなかった。
しばらく歩くと、見慣れた第三市街地に出た。宇宙平和協会本部はこの街から少し離れた丘の上に建っている。遠くからでもすぐにわかる、特徴的な建造物だ。
「…なんかすごい疲れた」
ポツリと呟く韋駄丸。恐らく半分は巴の明るさが原因だろう…まあそのうち慣れるだろう。
そんなことを考えながら本部に戻った韋駄丸と、いつのまにかいつもの礼儀正しいモードになっている巴。
「ちょっと部屋で休む…じゃ」
エントランスに入った瞬間、韋駄丸は巴に曖昧に手を振るような仕草をして、逃げるように個人部屋のある別館へ歩いて行った。巴はポカーンとそれを見ていた。ちょっとグイグイ行きすぎたかも。
巴はエントランスの端の階段を上り、会長室へ向かっていった。
会長室は施設の上部にあった。壁一面が大きな青い窓で構成されており、第三市街地を一望できる場所だ。
巴は白い扉をノックする。扉には金色のプレートが貼られ、そこに『会長室』の文字が刻まれている。このフロアには他にも等級の高い隊員の個人部屋が並んでいる。巴がふと隣の扉を見ると、『一級隊員 鶴喰御狩』とある。
やがて巴の前の扉が開き、赤い髪の女性…カーフが現れた。
「神嵜隊員、依頼は達成したらしいな。依頼者から連絡があった」
「夜遅くに失礼します。実はその任務中こんなものを…」
巴が和服の内側からヴェールの本拠地で拾った紙を取り出した。街を上から見た地図のような簡易的なイラストに、赤く大きな円が描かれている。カーフはそれを受け取り、じっと見つめている。
「ありがとう…詳しくはこちらで調べるとしよう。君は休んだほうがいいからね」
カーフが紙をポケットにしまいながら巴に言った。巴は頭を下げて、すぐに階段を降りて自室へ向かって行った。