「全員飛空艇に乗り込め!」
拙悟の声と共に、隊員たちが素早く行動を開始した。威牙は飛空艇と輸送車の二つを能力でコーティングしているためか戦闘前からすでに疲れている様子で、セリスはたたんっと跳ねるように入り口へ駆け込み、シリンダは遊びにでもいくようなテンションで乗り込んだ。
「あ巴チャン〜!」
談話スペースへ入るなりアコニが巴を呼び止めた。巴はアコニの座るソファの方へ近づき、微笑みかけた。
「セリスくんが『勝てる』と言った理由がなんとなくわかってきたよ…」
巴は誰に対してでもなく呟き、アコニの横に姿勢よく座った。お互いを拠り所にするように座る2人とは対照的に、美甘は薙刀を肩に担いでデッキに立っていた。強い風が尻尾と黒いマントをヒラヒラと靡かせる。運転席には3号機、助手席にはミストが座り、その2席の間には拙悟が腕を組んで立っている。セリスはボックス席でシリンダと威牙にちょっとした手品を見せていた。
まさに全員が思い思いに過ごす中エンジン音の音量が増していき、ついに飛空艇は地上から浮かび上がった。戦艦型死霊ドレッドノートとの戦闘に向かう飛空艇は徐々に高度を上げ、一直線に移動し始めた。
「ターゲットの場所は?」
「400メートル前方」
拙悟の声に感情無く答える3号機。
「妙だな…400メートル先なら視認できないことはないと思うが…」
拙悟が助手席と運転席の背もたれに両手を置いて身を乗り出すようにしてつぶやいた。ミストは目線だけで周辺をキョロキョロと見渡している。コンダクターシールドの青い光と、ヘッドライトも点灯しているにも関わらず、西方の荒地の闇は果てしなく深く広がっていた。光を灯したところで、照らし出されたのはまた暗闇ばかりだ。遠くに遥かに見える岩山の輪郭程度しか視認できるものは何もない。もちろん、ドレッドノートの姿も。
「とにかく、再計算をし直すんだ…20メートルの巨体が見つからないわけが…」
瞬間、飛空艇の目の前にドレッドノートが急下降して現れた。
「い”ッ…!!」
咄嗟に拙悟が3号機の持つハンドルをぐいっと引いて、飛空艇は急旋回した。
「ッ…!」
突然の方向転換に体勢を崩す巴。ドレッドノートはそのまままっすぐ突っ込み、危うく正面衝突する寸前で飛空艇は横に逸れて回避した。銀色の翼が飛空艇の窓をギリギリの位置で掠めていく。
拙悟は操作盤に両手をバシンと打ち付け、息を吐いた。冷や汗が顔を流れ落ちる。
「上空からの奇襲とは…なんてヤツだ…!追うぞ!」
3号機がハンドルを切り、ぐるりと動いてドレッドノートの後を追った。
巴は身を乗り出してフロントガラス越しにその姿を見る。まさに戦艦。金属のような装甲に包まれた4枚の翼が、周りの空気を殴るように大きく羽ばたいている。船首には鎧を纏った人間の上半身のような部分があり、体の底面は赤黒い。
「攻撃開始。撃って」
ミストが静かに言った。その声は展望デッキの美甘にも届いていた。
「刺され…!」
美甘が赤い薙刀を大きく振り、血のような薄い斬撃を素早く放った。斬撃は薙刀を離れて高速で撃ち出され、ドレッドノートの鋼の肉体にすぐにぶつかった。
キィンッ!!
鋭い赤血の斬撃が硬い音を立てて金属に小さな傷をつけた。しかし、その程度だった。何度斬撃を浴びせても金属音が響き渡り、擦り傷を与える程度しかダメージを与えることができない。
その様子を助手席から見たミストは一言指示した。
「協会員さん、出番だよ」