巴はハシゴで展望デッキへ上がった。美甘がむすっとした顔で薙刀を担ぐ。片足を柵の上に上げて立っている姿は、いつもの気だるさとは大違いだ。巴はするりと妖刀噛去そ抜いた。純白の刀身が、飛空艇を覆うシールドの光を反射して水色に輝いている。
前方のドレッドノートは先ほどの村を狙っている様子もなく、ただ進んでいる。おそらく目的はないだろう。
「…いいんじゃない?」
美甘の呟きと共に、巴は妖刀を振り、自身の導力を収束した虹色のフィルターがかかったような斬撃を放った。斬撃は瞬く間にドレッドノートの肉体をするりと通り抜けた。
「…何それ」
「貫通斬撃」
巴がドレッドノートの様子を確認しながら言った。
「ドレッドノート、進行を停止しました」
3号機が言った。
「停止…??」
拙悟は身を乗り出して青いフロントガラスを覗き込むように見た。目の前のドレッドノートは、確かにその場に停止していた。翼は変わらず羽ばたいているが、前進はしていないらしい。地鳴りのような正体不明の低い音が響いている。
「あの斬撃が効いたのか…!?協会員、もう一切り頼む」
通信機からの拙悟の声を受け、巴はもう一度妖刀を振った。すぐに導力が刃を離れて相手へ向かって飛んでいく。
次の瞬間、ドレッドノートはぐるりと旋回して飛空艇の方へ向いたかと思うと、激しい音と共に全身から光弾を放ち始めた。
「ッ!」
巴と美甘は咄嗟に頭を下げて伏せる。ドドドドと激しい砲撃音が響き、頭上をおびただしい数の弾丸が飛んでいく。
「ッ…!やっと敵として認識されたらしい…!」
セリスが横の窓を見ながら言った。アコニは飛び交う弾丸をぽけーっと眺めていた。
ボンッ!!
不思議な音と共に船体がわずかに揺れた。弾丸のうちの一つがついに飛空艇へ直撃したらしい。しかし、威牙のコンダクターシールドのコーティングのおかげで大きな損傷にはなっていないらしい。3号機がカチカチと音を立てながら、ハンドルを緻密に操作している。リアルタイムで相手の弾丸の軌道を計算し、安全なルートを割り出しているらしい。
「…遠距離技とか普通にあるんじゃん」
美甘が少し顔を上げながらつぶやいた。ドレッドノートは4枚の羽を大きく広げ、砲撃を止めると同時に勢いよく飛空艇に迫ってきた。
「上昇!」
拙悟が叫んだ時にはすでに船体がふわりとジャンプするように浮き上がってドレッドノートの巨体の突進をかわしていた。飛空艇の真下をドレッドノートが通過し、強い風圧が巴と美甘に襲いかかった。
「これが本当に…死霊…?」
巴は思わずつぶやいた。普段自分が毎日のように戦闘している存在と同じものとは到底思えない。上位死霊と一括りにしても一線を画す存在だった。
「2人とも伏せろ!やつがまた何かを撃ってきたぞ!」
拙悟の声が響き渡り、すぐに体勢を低くする巴と美甘。先ほどまでとは違う、エンジンのような音が響き渡っていた。その瞬間、飛空艇の屋根に何かがぶつかり、ガンッと音を立てた。先ほどの弾丸とは違い、それは人間と同程度の大きさを持った死霊だった。二門の大砲を装備した、小型の船のような形状。頭部も腕も見当たらないが、アンバランスな二本の赤い足で前傾姿勢で立っていた。
「死霊の生成、だと…!?」
拙悟が呟く。ドレッドノートは、大砲のような部分からおびただしい数の死霊を出撃させていた。船のような死霊が、さらに二体足を伸ばして飛空艇に着地した。
「狩るしかないよね…!」
巴がくるんと回転するように柵を飛び越え、飛空艇の屋根の上に立った。