「とーもーえーチャーーーン…」
アコニの声で我に返った巴。無事に任務を終え、拙悟が間も無く協会に着くと言った直後の出来事だった。巴は先ほどの夢の影響か、心ここに在らずな状態となっていたのだ。
「あ、はい!?」
「もうすぐ死霊狩り本部…ていうか協会本部に着くって言ってタ」
大袈裟なくらいの反応をする巴を気にも留めずアコニが言った。
「あぁ、そっか…ごめんね、ちょっとぼーっとしちゃってた」
巴が小さな声で言うと、アコニはヲ?と首を傾げた。巴は軽く首を振り、いつもの微笑みを見せた。
「大丈夫…!そんな心配しないで」
「じゃあ心配しナイ!」
あっさりアコニが言い、巴の左隣に座った。巴は軽く飛空艇内を見渡す。セリスはすでに起きて、スーツの上着をまだ寝ているシリンダにかけていた。威牙はいつもと同じきっちりと決まったスーツ姿で静かに座り、拙悟は助手席と運転席の間に立って前方を見張るように見つめていた。
「……もうすぐ韋駄丸くんに会える…」
巴が小声でつぶやいた。ようやく彼女にとっての日常が戻ってくる。30時間には平和に過ごしていたと言うのに、今となってはそんな時代が懐かしい。
「韋駄丸クンって病室のアレ?あの人のコト好きナノ?」
「!?!」
悪気なく言ったアコニの言葉に心臓が大きく跳ねる巴。
「ン?どうかしたノ〜?」
巴が両手で顔を覆うのを明らかに面白がってきゃははと笑うアコニ。美甘が寝心地悪そうにむー…と声を上げた。
「好きとかそういうのじゃないもん…!」
巴がぺしんとアコニの手の甲を叩いた。アコニが怪しむように目を細めてじーっと見てくるのを必死に無視する巴。実際のところそんなこと考えたこともなかった。ただ一つ確実なのは、巴の脳内から例の夢やら疲労やらが上手く吹き飛んだということだった。
「ありがとうございました!」
宇宙平和協会の駐車スペースに飛空艇が着陸し、巴はまっすぐ立ってお辞儀した。
「いえいえこちらこそ…!巴さんたちの助力がなかったら…」
セリスが逆にお辞儀し返そうとするのを、拙悟が眼鏡越しに横目で見つめた。顔に「誇り高く行動しろ」と書いてあるかのようだった。それを見た瞬間、たちまちセリスは拙悟と同じくらいいい姿勢になった。ベルトがくにゃくにゃと動いた。
「確かに…礼を言うべきはこちらの方かもしれないな。何かあったら、次はこちらが協力しよう」
拙悟が巴と美甘を見下ろしながら言った。アコニに関してはノーコメントのようだ。
「それでは、我々は輸送車の安否確認が残っている。またな」
拙悟がくるりと背を向けて言った。巴は微笑んで頷いた。これで正式に、任務は完遂されたのだ。
ガチャッ
病室のドアが開き、巴、美甘、アコニの3人が飛び込んだ。というよりも、アコニは巴についてきただけだろうが。巴は荒い息で窓際に並べられたベッドへと一直線に歩いていく。
「韋駄丸くん…!」
白い清潔感のあるベッドに、意識を取り戻した韋駄丸が窓に寄りかかっていた。
「…巴。任務帰り?」
韋駄丸の静かな声が静かな病室に響いた。巴は頷き、間髪を容れずに抱きついた。美甘は興味なさげにジト目でぼーっと見つめ、アコニは少し笑って様子を眺めていた。韋駄丸の冷たい腕が、曖昧に巴の肩のあたりに添えられた。
「…ただいま」
韋駄丸が和服に押さえつけられてこもった声で言った。
「…おかえり、韋駄丸くん…」
巴が震える声で呟くように言った。安心感から、涙が一滴白い頬をつうっとこぼれ落ちた。