深夜。巴や韋駄丸を含む多くの隊員が眠りにつく中、カーフや何人かの隊員が研究室にいた。巴が危険組織である秘密結社ヴェールの本拠地で見つけた紙の解析がすでに始まっているのだ。
「一致した地図はあるか?」
カーフが、椅子に座って大量の航空写真に紙を透かして見ている青年に聞いた。
「全然ですね…航空写真が多すぎる…」
青年は椅子にもたれかかって明らかに不健康そうなクマのできた目をカーフに向けた。白衣の下にはゆるっとした黒いTシャツを着用している。首にかかっている証明書には、『宇宙平和協会派遣研究員 ケラン』と書かれている。
「会長はコレ、なんだとお考えですか?」
ケランが脱力ボイスで聞いた。カーフは少しの沈黙を挟んだ。
「…さあな。仮説は立つもののそれも非現実的すぎる。1番あり得るのは…この円の中のエリアに何かがある、という可能性か…」
ケランの隣の椅子に腰を下ろしながらカーフが言う。ケランはカーフの黄色い目をボーッと見つめている。
「…ヴェールが狙うものってなんなんでしょうね」
「そこも不明…正直わからないことが多すぎて動きようがないのが現状だ…」
腕を組むカーフ。疲れからかケランの目線が煩わしかったのか両目を固く閉ざされた。
「ま、まずは体調を気遣ってくださいよ。仕事は明日でもできますし」
白いを通り越して灰色っぽい肌で、目元にクマのできたケランがカーフの健康を心配した。カーフは無言で椅子から立ち上がり、研究室から出て行った。
翌朝。なぜだかあまり眠れなかった韋駄丸は、食堂の椅子にたった1人座ってあてもなくCEを眺めていた。食堂は白く清潔感のある壁と、温かみのある木製の床の広い空間で、バイキング形式で一日中食事の提供が行われている。オレンジ色のイスがテーブルを挟んで向かい合うように設置されているが、韋駄丸の向かいには誰もいない。それどころか、料理人の姿すらもまだ見当たらない。
CEに表示されているのは、今話題のニュースだ。「ジ・オペレーターが最新式傀儡の完成を発表」、「『瓦紅京』付近第八市街地で行方不明者多数」、「死霊による被害相次ぐ」…。
「おはよ、韋駄丸くん」
韋駄丸は意識の外から突然声をかけられて飛び上がった。誰だろうと思いCEから目線を上げようとしたが、そもそも自分の名前を呼んでくれるのなんてあの人だけだと気づいた。
「…巴」
韋駄丸の向かい側の椅子にいつの間にやら巴が座ってニコニコしていた。まだ明け方だと言うのに髪は解かされてサラサラと靡き、いつもの紺色の和服を完璧に着こなしている。韋駄丸は適当な白シャツとゆるっとしたズボンという完全な部屋着だった。
「なんか用…?別に嫌じゃないけど」
韋駄丸が巴に尋ねると、巴はさぞ当たり前というふうに答えた。
「一緒に依頼受けよ?」