夜明け -片割れ三ツ巴-   作:NIGHTMARE⭐︎

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92 瓦紅京

美甘は即座に薙刀を構えてレヴルの前に立ち上がった。レヴルは数本の触手をふよふよと動かし、韋駄丸と美甘の姿を交互に見ている。

「喰わなくていいよレヴルちゃん…一応客人」

霧牟が歩き寄りながら言った。レヴルは呆れ顔で腕を組んだ。

「…半竜なんか喰うわけないですわ」

韋駄丸は剣から手を離さず相手を警戒している。レヴルは高飛車な笑顔を浮かべて触手の一歩を伸ばし、韋駄丸の持つ剣をガチリと掴んだ。

「そんなもん向けるんじゃありませんわ〜」

触手がいとも簡単に、韋駄丸の手から剣を奪って後ろに放り投げた。それを見た美甘は不服そうな顔で薙刀を下ろした。

「…なら教えて欲しい。瓦紅京ってのはなんなんだ」

韋駄丸が少し苛立ちながら言った。

「この館を拠点としてる組織の名前ですわ。いわゆる『普通』の人間に馴染めない者たちの居場所ですわね」

レヴルが触手を引っ込めながら得意げに言った。韋駄丸はわずかに目線を鋭くして考えた。確かに怪物じみてはいるが、敵意も悪意もないように見える。韋駄丸は剣のケースを拾い、そこに放り込んでいたクリップボードに留められた依頼書を改めて見た。

 

『館の住民はみな怪物と形容するに等しい存在で、無差別に人を襲う凶悪な存在である。すぐに皆殺しにしていただきたい。』

 

韋駄丸はその部分を何度も目で追って読み返した。レヴルがその様子を暇そうに触手で壁をペシペシ叩きながら見ている。

「美甘…この依頼…」

「ん…どっちを信じるべきかわかんない」

美甘が韋駄丸のそばに寄りながら囁いた。それは韋駄丸も同意見だった。説明が本当ならば、『瓦紅京』は保護施設だ。人間が消えたというのも実際そうなのかもしれないが、目的は保護の可能性も十分にある。

「…辻褄はあっちゃうんだよね」

韋駄丸がつぶやいた。となるとこの依頼者は事実を偏った書き方で、この組織の人間を危険な存在に見せかけたということになる…。

 

「なんそれ」

霧牟が突然、韋駄丸が持つ依頼書をクリップボードごと後ろから取り上げた。

「!」

韋駄丸は咄嗟に剣に手を伸ばすが、その右手をレヴルの触手が縛り付けた。霧牟は狐面をしたまま依頼書を無言で読んでいる。地獄のような沈黙が続いた。

 

「なんこれ。全部でたらめじゃん」

霧牟が不意に言い、クリップボードを手刀でかち割った。真っ二つにされた依頼書とクリップボードがバラリと床に散らばる。

「全部ってのは…」

「何もかも。事件なんか起きてないし、無差別には人なんか襲わないし…無差別には」

霧牟が小声で付け加えた。レヴルが韋駄丸の手を拘束していた触手をするりと解いて、ゆっくりと歩み寄った。

「まーた“D.I.G”ですの?はぁ…よっぽど暇なんですわね、あいつら」

レヴルが触手で依頼書の残骸を拾い上げながらつぶやいた。

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