夜明け -片割れ三ツ巴-   作:NIGHTMARE⭐︎

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96 翼影

韋駄丸は、天李が出ていった扉をぼーっと眺めていた。複雑な怒りから距離をとっていた兄を4年ぶりに呼び出した直後だと言うのに、嫌な気分は全くない。今となってはもはや思い出せない、あの事件が起こる前の関係に戻ったような気持ちだった。しかし怒りが消えたわけでもなく、思い返すたびにじわりとした苦しい気持ちが溢れてくる。

 

「D.I.G本拠地の場所は特定しました…さっそく行きましょうか」

リコルの声が聞こえ、意識の世界から引き戻された韋駄丸。焦茶色の壁と、その前に立つ銀髪のリコルの姿が見えた。

「韋駄丸さん?どうかなさいましたか?」

「…大したことじゃないです。行きましょう」

リコルの淡々とかけられた心配の言葉を遮るようにして、韋駄丸は剣のケースの紐に手をかけた。美甘がすぐ横で、薙刀を構えて待機している。

(無事に作戦が成功したら、すぐにCEで連絡してよ?)

天李の言葉が、いつまでも脳内に反響していた。

 

「どうやって向かうんですか」

屋上へ向かう瓦紅京幹部たちに、韋駄丸が尋ねた。先程からずっと疑問だったことだ。リコルはぴたりと立ち止まった。

「お二方は飛行に長けていないようですので、あれに乗っていただいてもよろしいですか?」

屋上に出た瞬間、リコルがすっと手を向ける。屋上の端には、この館を覆っていた柵と同じものが小型の檻のようになったものがあった。そしてその中には、赤黒い翼の生えた黒くざらざらした何かがいた。

「…何これ」

美甘が呟く。大きさは美甘の顎くらいまでの高さで、体の左右の翼は狭い檻の中で畳まれている。顔はなく、体の前方は鋭く尖っている。二本の足で、アンバランスな体を支えて立っていた。韋駄丸にはそれが死霊にしか見えなかった。

「“翼影”。この手綱に掴まって乗る。簡単でしょ」

霧牟が、その生き物の一匹を手綱で引っ張りながら言った。

「それ死霊…?」

「ですわ。その辺にいたやつをメンバーのオキュルの『死霊操法』で服従させたんですわ〜」

レヴルが触手で“翼影”を撫でながら言った。韋駄丸は曖昧に頷き、それの手綱を掴んだ。美甘も他の翼影の手綱をギュッとキツく握っている。

 

「では出発しましょう」

リコルが宣言するように言い、背中の翼を広げた。霧牟はアリシアと共に彼女の箒に腰掛け、レヴルは触手を展開する。韋駄丸の捕まる翼影が、驚くほど静かに屋上の手すりを乗り越え、大きく翼を広げて空に飛び出した。韋駄丸は両足を死霊の翼の付け根に引っ掛けるようにしてかなり中途半端な姿勢でそれに掴まっていた。乗り方が正しいのかすらわからない。雨粒が全身に打ち付け、冷たい風が顔にかかる。リコルがふわりと優雅に滑空するように韋駄丸の横へ飛んできた。飛行中にも関わらず両手を後ろにまわし、両足を綺麗にそろえた姿勢を完璧にキープしている。

「乗り心地はどうですか?」

「…あんまりです」

リコルの問いかけに割と即答する韋駄丸。リコルは微笑み、韋駄丸を追い抜いて先頭に移動した。韋駄丸が振り返ると、必死に翼影に捕まる美甘、大きく広げた触手をひらひらさせて飛んでいるレヴル、箒にまたがるアリシアと、それに横向きに腰掛けている霧牟が見えた。

死霊は予想以上に速かった。風圧が強く、韋駄丸は頭をできるだけ下げなければ吹き飛ばされそうだと感じた。

「到着までの予測時間はあと二十分です。それまで頑張ってください…!」

リコルが韋駄丸を元気付けるように言った。

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