「こちらAエリア、応答願う」
「こちらBエリア。どうぞ」
D.I.G本部。数人の武装兵士が通信機でやりとりしていた。銀色の鋼の装甲を纏い、顔まで隠れた無機質かつ機械的な兵士だ。
「そちらの様子は」
「異常なし」
それぞれの兵士は、外壁の上部、北の端と南の端に立ち警備していた。周囲の海は完全に凪いでいて、風も先ほどまでの強風もおさまっている。黒い雲に隠されて空の様子は全く見えない。薄暗い空気に、兵士の改造中の水色の光だけがぼんやりと浮いていた。
「まぁ…当然だろうな。この要塞に近づく人間は即座に監視カメラが感知、フルオートで迎撃する…さらにカメラは要塞の外壁に備え付けられ、超高速で回転しているから死角もない…俺らの仕事もないっての…。まさしく絶対要塞だ」
兵士がため息混じりに言った。
この六角柱の海上要塞こそが、テロ組織D.I.Gの本拠地だった。大量の兵器を備える上に、メンバーの兵士に着用が義務付けられている武装を着ていない人間は即座に撃ち落とされる。外壁には大量の砲塔が隠されているのだった。
「やれやれ…今日も退屈な仕事…」
突然、キュウン…と言う音が響いた。武装兵士はそれに気付き、通信機を見た。全迎撃システム、オールダウン。
「はっ…!?」
兵士が思わず声を漏らした。この鉄壁の要塞のセキュリティが、全てオフにされていたのだ。兵士はすぐに銃を構え、通信機に向かって叫ぶ。
「おい!どっかの誰かがセキュリティを…」
「んなことどうやってだよ!?ここのセキュリティは最上階のサーバールームでしか操作できないはずだろ!」
「ハッキング…いや、妨害電波を掻い潜れるはずがない…」
「お答えしましょうか?」
場違いなほど落ち着いた声が響き、そこに立つ兵士も、通信機ごしの兵士も黙り込んだ。紺色の翼、銀色の髪、黒いドレス。リコルがゆっくりと要塞の内部へ続く扉から現れた。
「バカな…!どんな人間も即座に撃ち落とせるはず…」
「それは“人間”にしか作用しないようですね」
リコルが微笑み、数話のコウモリに分離した。
「ッ…!コウモリの能力者か…!」
兵士が銃を上げた瞬間、その体が大きく吹き飛ばされた。
「…セキュリティ解除は上手く行ってる」
韋駄丸が翼影からぴょんと飛び降りながらつぶやいた。後に続いて美甘も着地して、薙刀を振るった。赤い斬撃が放たれ、外壁の反対側にいた兵士を吹き飛ばした。リコルがぱっと瞬く間に元の姿に合体し、翼をひらりと動かした。
「美甘…あんな派手に斬ってあの兵士死なないか?」
「そのことでしたら、この組織は最下層の兵士ですらも厳しい訓練が行われています。さらに一人ひとりに最新技術の防具服が支給されていますので、本気でやっていただいても心配ありませんよ」
韋駄丸の問いにリコルが言った。韋駄丸は小さく頷く。
「組織の長をぶっ潰せばいいですわね?」
レヴルがリコルの後ろからニュルリと姿を現しながら言った。リコルが静止するように手を上げたが、表情は以前変わらない。
「…まあ少し短絡に言えばそういうことですね。二度とテロや人体実験をできないようにできれば、なんでもよろしいかと」
「殺すのはダメだ…悪人だろうが危険人物だろうが命は奪えない」
韋駄丸が言うと、リコルとレヴルが同時にカクンと首を傾げた。そんなこと考えたことすらない、というふうに。
「ほう…興味深いですね…では手始めに組織の長を拘束し、組織の活動を停止させましょうか」
リコルが要塞内部へ続く金属の扉に向き直りながら言った。アリシアと霧牟は、翼影の手綱を柵に結びつけてこちらへ歩いてきた。
「…行こう」
韋駄丸が壁に配置されたパネルに触れると、銀の扉が音もなくスライドして開いた。