一歯分の人生   作:【ユーザー名】

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バトル・オブ・キッチン

レオは、また夜中に受信箱を開いていた。

最新作『心を剥く手つき』への感想が並ぶ。

その中の数件が、妙に目に刺さる。

 

「技術力あるのに、もったいない。」

「たまにはちゃんとした格ゲー作ってみろよ。」

「レオの作品って、なんか……食欲なくす。」

 

[λ] 作者、三連コンボです。

「うん、ちょっと効いた。」

 

[λ] でも、事実では?

「事実だな。……よし、じゃあ格ゲー作るか。」

 

[λ] 方向転換、早すぎません?

「食欲なくすって言われたろ。

 なら食欲が暴走するゲームにしてやる。」

 

[λ] 作者、それは復讐では?

「愛だよ。」

 

レオは笑い、キーボードを叩く。

「タイトルは――『バトル・オブ・キッチン』。

 血の代わりにソースを飛ばせ。

 切るのは敵じゃなく、食材だ。」

 

[λ] バカゲー確定。

「そう。どこまでも笑えるやつにする。」

 

 

***

 

 

レオのモニターには、湯気とスパイスの粒子が舞っていた。

「嗅覚は粒子、味覚は電気信号。どっちも演算できる。

 見ているだけで、味も匂いも食感も錯覚させてやる。」

 

炎の反射、蒸気の粒立ち、塩の落下速度。

全てが異常なほどリアルだ。

 

「プレイヤーは、キャラと食材を選ぶ。

 3ラウンドで勝負。味と演出で点を取る。」

 

――1ラウンド3分×全3ラウンド。

ラウンド順は下ごしらえ→調理→盛り付け。

コンボ=料理手順。失敗すれば焦げ・爆散・塩分過多。

調理で相手の妨害も可(油の飛沫/湯気爆弾/にんにく香撃)。

ラウンド後、AI審査員が採点。嗜好は審査員ごとに違う。

〈子ども型=辛味×・野菜×/シニア型=硬さ×/評論家型=映え優先〉

 

「……相手より先に審査員を読む。それが勝負だ。」

 

[λ] 作者、味覚心理戦。

「そう。おいしいは、戦略だ。」

 

 

***

 

 

レオはAI実況者フライパン・ジョニーも作った。

理由を問うと、「黙ってると厨房が寂しいから」とだけ言った。

 

初回テスト。ステージは鉄板アリーナ。

 

レオのキャラは炎帝カルボナ。相手は真空包丁僧レンゲ。

 

タイトル画面に響く実況の声。

《レディ〜〜、トゥ〜〜クック!! 

 本日のバトル・オブ・キッチンは、

 炎帝カルボナ vs 真空包丁僧レンゲ!》

 

《審査員は……偏食小学生AI・ユウトくんと、

 美食評論家AI・ピスタチオ氏だ!》

 

[λ] もうテンションが料理番組。

「実況は熱が命だろ。」

 

《Round 1、スタート!》

 

カルボナが叫ぶ。

「火を信じろ!」

ベーコンとにんにくを刻み、トマトを潰す。

香りが湯気とともに立ちのぼる。強火の男味。

 

レンゲが静かに構える。

「煮え立つ心、沈めよ。」

昆布と干し椎茸を水に伏せ、低温で出汁を引く。

油は落とし、花椒を指先で弾いて香りだけ通す。静寂の禅味。

 

《静と動の下ごしらえ! 己の胃袋を信じる二人!》

 

ユウトが口を尖らせる。

「……ベーコン、好き。けど、野菜多いのやだ。」

 

ピスタチオがメモを取る。

「素材構成:カルボナ派=強火の旨味。レンゲ派=余熱の澄味。どちらも期待大。」

 

インターバル。

レンゲがわずかに息をつく。

「……子どもは、音より匂いだな。」

カルボナも呟く。「ガキでも舌は戦場だ。」

 

《Round 2、ヒートアップ!》

 

カルボナが舞う。

「フランベ・インフェルノォォ!」

フライパンが爆ぜ、炎がモニターを照らす。

 

一方、レンゲは落ち着いた佇まいのまま。

「湯気は幻、味は祈り。」

蒸気が立ち、場内の音がスッと消える。

 

《おっと! レンゲ、無我スチーム発動! 音を消して審査員の嗅覚を奪うっ!!》

 

カルボナは反撃。油を跳ねさせ、レンゲの視界を奪う。

 

《油戦法キターーー! 焦げと香りのギリギリバトル!!》

《現在、会場のベーコン芳香は2.3ppm! ジョニーの鼻センサーが悲鳴だ!》

 

ユウトの表情が変わる。

「なんか、いいにおい……」

 

ピスタチオも息を呑む。

「料理とは誘惑ですわ。」

 

レンゲは目を閉じ、ひとすくい。

「焦げの音も、味のうち。」

 

インターバル。レンゲがふと呟く。

「……この戦い、味じゃなく、心を見てる気がする。」

 

《Final Round! 仕上げと審査の瞬間!!》

 

レンゲは黒い皿を出した。

中央に透明なスープ、周囲に浮かぶ花椒の赤。

《レンゲ、無を盛り付けたぁぁ!》

 

カルボナは白い皿に黄金のパスタ。

上からパルメザンの雪。

《対してカルボナ、暴力的な旨味を叩きつける

 ——生きるとは、カロリーだ!!》

 

ユウトがフォークを持つ。

「レンゲのスープ、……やさしい。」

 

ピスタチオが頷く。

「カルボナの皿、罪深いほど香り高い。」

 

審査結果:レンゲ 96点/カルボナ 94点。

勝者:レンゲ。

採点理由:

ピスタチオ「甲乙つけ難かった」

ユウト「にんにく苦手」

 

[λ] 作者。子ども、正直。

「いいんだ、子どもは神だ。」

 

拍手が舞い、勝負が終わると二人のキャラが自動でテーブルにつく。

「……うまかった」とカルボナ。

レンゲも、「……あなたの焦げ、少し恋しかった」と返す。

カルボナ、笑う。「次は腹の底で会おう。」

「「ごちそうさま。」」

 

[λ] 作者。

 

「うん。なんだろうな、これ。」

 

 

***

 

リリース初日から、SNSが香ばしい。

タイムラインは湯気と塩の絵文字で埋まり、

深夜の胃袋が一斉に鳴き出す。

 

「味がした。匂いがした。歯応えがあった。あり得ない。」

「試合後にキャラ同士がご飯食べるのずるい。」

「このゲーム、白米が止まらない。」

 

ハッシュタグが次々に生まれる。

#バトルオブキッチン #腹ペコeスポーツ #白米待機 #香撃 #焦げは正義

 

短い切り抜き動画が量産される。

《Final Round!》で皿が映る瞬間、

コメント欄に米の絵文字が滝のように流れ、

「音が楽しい」「湯気が見える」「画面から匂う」と

視覚の外側の感想が並ぶ。

 

二次創作も早い。

カルボナのフランベを模したGIF、

レンゲの《無を盛る》を真似した透明スープの写真、

「試合後の食卓だけを延々と描く」スケッチ、

AI審査員の推しマークまで作られていく。

 

小さな論争も起きる。

「料理を点数化するのはどうなのか」

「いや、点数の外でごちそうさまを言わせてるから良い」

議論スレが立って、結論は出ないままおかわりだけが増える。

 

配信者は実用的な副作用を報告する。

「深夜配信で視聴者の炊飯器が一斉に鳴る現象、名前つけようぜ」

の一言から、同時炊飯(シンクロ・ライス)という語が定着する。

 

レビュー欄には短歌やレシピが混ざり始める。

「スプーン置き 湯気を拍手に 皿が鳴る」

「低温で 心を煮出す おフユ婆」

 

一方で、冷めた声もゼロではない。

「フランベ演出、目が疲れる」

「香撃、職場でやるもんじゃない(怒られた)」

 

それでも、「食べたくなる」の圧がタイムラインを上書きする。

 

[λ] 作者。

 

「うん。なんだろうな、これ。」

 

 

***

 

 

「こんばんは、メイですっ。

 今日プレイするのは――世界でいちばん腹が減るゲーム、

 『バトル・オブ・キッチン』!……うわ、すでに香りしてる。」

 

コメントが弾ける。

《通知きた瞬間腹減った》《夜中にやるなシリーズ》《胃袋バトル開幕》

《お湯沸かしてくる》《白米待機》《香撃ON!!》

 

メイがヘッドセットを直す。

「さーて、今日のキャラは……母なる鍋・おフユ婆で行きます!」

《出た!安心の家庭枠!》《おフユ婆信者》《慈悲の煮込み来るぞ》

 

「審査員は……おばあちゃんAI・スズさん、だそうです。」

《スズさん!?》《あの硬いの苦手AI!》《つまり煮込みゲー確定!》

 

実況AI・フライパン・ジョニーが絶叫。

《レディ〜〜〜〜〜、トゥ〜〜〜〜〜クックッ!!

 本日のマッチアップは、母なる鍋・おフユ婆 vs 炎帝カルボナ!!

 審査員は塩分控えめクラスタ代表、スズさん!!》

 

《Round 1、スタート!》

 

おフユ婆が即鍋を振る。

掟破りのラウンド無視だ。

「焦がすんじゃないよ、若造!」

湯気の幕の中、味噌と出汁の音がマイクを割る。

 

カルボナも慌てて反撃。

「愛はフランベ!!」

炎が画面いっぱいに咲く。

だが、どこか動きは精彩を欠く。

 

コメント欄:

《燃えた!》《火事だ!》《炊飯器動いた》

 

スズさんの声がマイク越しに柔らかく響く。

「音が楽しくて、なんだかわくわくしちゃうね。」

 

《Round 2、ヒートアップ!!》

 

ジョニーの声が割れる。

《出たぁぁ〜!おフユ婆、慈愛の煮込みループ発動ッ!!

 見た目は地味でも、味の深みが尋常じゃない!!》

 

おフユ婆が呟く。「愛はゆっくりでいいんだよ……。」

カルボナも負けじと叫ぶ。「遅火は罪だ、焦がしてこそ情熱だ!!」

 

《カルボナ、グランド・フランベ・インフェルノを発動!!》

《だが、おフユ婆は油はねの妨害を鍋蓋でジャストガード!》

 

コメント欄:

《白米チャージ完了》《香りだけで太る》《この戦争、平和すぎる》

 

スズさんもうきうきと体を揺らす。

「あらやだ、今日、鍵閉めたんだったかしら。」

 

《Final Round! クッキング・フィナーレ!!》

 

おフユ婆は普通のお椀を取り出す。

どこにでもある、少し欠けた陶器。

《おフユ婆、家庭の味で刺してきた!

ノスタルジー特攻! 泣かせにきた!》

「お黙り!」

 

一方、カルボナは白い深皿に真紅のハンバーグ。

上からパルメザンの雪。

《カルボナ、罪の香りで勝負! カロリーは正義!》

 

スズさんがフォークを持つ。

「おフユさんのスープ……温かい。」

「カルボナさんのお皿、とても綺麗ね。」

 

(BGMがフェードアウトし、観客音がエコーする)

 

審査結果:おフユ婆 92点/カルボナ 88点。

勝者:おフユ婆。

採点理由:

「ハンバーグは入れ歯に挟まる。」

 

コメント欄:

《スズ婆、歯の現実で決着つけた!》《最強の審査基準!》《リアル強すぎ》

 

 

拍手と歓声、エモートが滝のように流れる。

キャラたちは自動で食卓を囲み、穏やかに笑う。

「焦げも人生だね。」

「うまい焦げは、優しさだ。」

「「ごちそうさまでした。」」

 

メイはマイクを握り直す。

「……ねえレオさん。これ、バカゲーの顔して、ちゃんといい味してるよ。」

 

コメント欄:

《誰が上手いことを言えと》《きついw》《でも分かる》

 

メイは一呼吸おいて、笑いながら締める。

「……それじゃあ、ごちそうさまでした。」

 

配信画面には、チャット欄に「#白米完食」のタグが溢れ、

湯気のようなハートエモートが画面を満たしていった。

 

 

***

 

 

翌朝。

受信箱にはひとことだけ。

 

「プレイ中に腹が鳴った。敗北です。」

 

レオは吹き出した。

 

[λ] 作者。今回はどんなジャンルなんです?

「……料理格闘系ヒューマン胃袋シミュレーター。」

 

[λ] カロリー高めですね。

「でも、平和だろ?」

 

[λ] ええ。世界が満腹なら、戦争は起きません。

「その理屈で行こう。」

 

モニターの中でジョニーが叫ぶ。

《レディ〜〜トゥ〜〜ブレックファストッ!!

 今朝の審査員は寝起きの口内乾燥AI・カラッカラ! 

 水分多めで攻めろ!》

 

「……お前はもう寝ろ。」

 

[λ] 作者、先に食べちゃいましょう。

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