一歯分の人生   作:【ユーザー名】

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第1話 転校生、白米に立つ


幕間 ぼくらのボブキチ学園

——市立みどりが丘小学校。

どこにでもある普通の公立小学校だ。

登校すればチャイムが鳴り、算数と国語があり、給食があって、掃除がある。

ただひとつだけ、全国の他校と決定的に違う点がある。

 

それは――

全校児童が《バトル・オブ・キッチン》に取り憑かれているということだ。

 

昼休み、校庭。

ベンチに腰を下ろした子どもたちが一斉に端末を構える。

「炎帝シェフ・カルボナ VS サイバー栄養士・ミレナ!!!」

実況(という名の放送委員)の声が上がる。

まるで甲子園のような熱気。

 

観客(という名の生徒)たちはタッパーに詰めたご飯を抱え、

画面をおかずに白米をかき込んでいた。

 

「勝者——5年3組、炎帝シェフ・カルボナ使い! 田所レン!!!」

実況を務める放送委員が喉を震わせて叫ぶ。

 

「うおおおおお!!」

「レン先輩、焦がしてるのにカッコいいー!!」

「レン先輩のカルボナの火入れ、魂が乗ってる!」

観客からは割れんばかりの声援が飛んだ。

 

なぜそんなに盛り上がるのか、誰も知らない。

だが、ここでは《バトル・オブ・キッチン》が強い者が真の優等生とされる。

勉強も運動も関係ない。

米の上に立つ者が、この学園を制す。

 

それがこの学校の日常だった。

 

 

⭐︎

 

 

転校生、現る。

 

「転校生の佐久間リクくんです。」

 

担任の声とともにドアが開いた。

教室のドアを開けた少年は、

フライパンの油の匂いも知らないであろう、普通の小学生だった。

 

だが彼は、致命的な一言をこぼしてしまう。

「えっと、ボブキチ?

 ぼく……あんまりゲームとか、やったことなくて。」

 

(※ボブキチ=バトル・オブ・キッチンの通称)

 

教室が凍りつく。

黒板のチョークがポトリと落ちる音。

そして——爆発。

 

「なにぃぃぃ!?!? ボブキチやったことない!?」

「うそだろ!? 義務教育だぞ!?」

「大丈夫か!? 親に禁止されてんのか!?」

 

「だって……料理とか、難しそうで……」

 

「ゲームだよ!?」「でも難しいんでしょ!?」「でもゲームだよ!?」

 

教室がパニックになる。

 

 

⭐︎

 

 

ボブキチとの邂逅。

 

「いいかリク! この学校じゃ、給食よりボブキチが大事なんだ!」

そう言って手を差し出したのは、

3組のムードメーカー・マコト。

 

「これはただのゲームじゃねえ。」

マコトが端末を渡してくる。

「ボブキチは、魂の料理だ。」

 

「……ゲームでしょ?」

「そう思ってた時期、俺にもあった。」

 

マコトは神妙な顔で言う。

「勝ったやつは、全校のヒーロー。

 負けたやつは、給食で味噌汁を減らされる。」

 

「え、それ校則違反じゃない?」

「知らねえ。けど現実だ。」

 

「俺が教えてやるよ! 真空包丁僧・レンゲをな!」

 

 

⭐︎

 

 

放課後、初バトル!

 

校庭のリング(という名の砂場)では、5年生たちのバトルが続いていた。

リクは呆然と立ち尽くしている。

 

マコトが顔を驚愕に染め絶叫する。

「おい、リク! お前……もしかしてチュートリアルも知らねえのか!?」

 

「チュートリアル?」

 

「料理の道の初歩中の初歩だ! この世に生まれたらまずチュートリアルだぞ!!」

 

「でも……ぼく、まだこのゲーム始めたばかりで包丁ライセンスも持ってないんだ。」

 

「マジかよ……バブちゃんなのか!?」

 

(※バブちゃん=ボブキチ初心者の通称)

 

——そして始まるチュートリアル戦。

リクの初期キャラは「家庭科室のモブシェフ・タカシ」。

ただの白エプロンで、初期装備もおたましかない。

 

「リクー! おたまは武器じゃない! スキル発動だ!!」

「え、どのボタン!? 湯気で見えない!!」

「R2で炒める! L1で尊敬を表す!!!」

 

レンゲの包丁が無音で走る。

リクは目をつむり、思わず叫んだ。

 

「いけぇっ! タカシの……おたまスイング!!!」

 

——パァン!!

 

奇跡的にコンボが決まり、AI審査員・ユウトの声が響く。

《お子様味、うまい。星三つ。》

 

勝利。

観客がどよめく。

 

マコトは興奮を隠せなかった。

「まさか初戦でユウトを笑わせるとは……! お前、ただ者じゃねえ!」

 

「え、なんで……?」

 

「お子様味は一番難しい評価だ! ピーマンを克服した証!!」

 

その日から——彼は呼ばれるようになった。

「転校生リク、ピーマンブレイカー!」と。

 

 

⭐︎

 

 

「面白いじゃねえか。」

 

リクの勝利を陰から見ていたのは6年生・堂島カイ。

使用キャラは、沈黙の給食主任・オオタ。

配膳だけで勝つ最強の男。

 

彼の後ろには、「給食委員連合」と呼ばれる6年生チームが控えていた。

「あいつはいつかこの俺に並ぶだろう。

 この学園最強の、この俺に!!」

 

一陣の風が吹く。

堂島は不敵に笑っていた。

 

 

⭐︎

 

 

トーナメント、開幕!

 

一週間後。

体育館に巨大なスクリーン。

全校集会ならぬ——味覚会。

 

「よぉぉく聞けぇぇぇ!!!」

マイクを握るのは、学園を支配する6年生チャンピオン。

給食主任ミスター・オオタ使いの堂島カイ。

 

「この大会で優勝した者が、校長と戦う権利を得る!」

 

歓声。

炊飯器が同時にスイッチオンされる音。

白い湯気が体育館を満たす。

 

リクは拳を握った。

「ボブキチなんて、ただの遊びだと思ってた。

 でも……みんな、本気なんだな。」

 

マコトもまた、武者震いがとまらない。

「ああ。飯は命だからな。」

 

 

⭐︎

 

 

そして伝説へ。

 

リクは厳しい戦いを潜り抜け、ついに決勝へと勝ち進む。

 

リクのおたまタカシ vs カイのオオタ主任。

 

実況:「さあ、バブちゃんからピーマンブレイカーへと彗星のように駆け上がった5年代表・佐久間リクの家庭科モブシェフ・タカシが、学園最強、6年堂島カイの給食主任・オオタと激突します!」

 

AI審査員:篠ノ目老人が呟く。

《これは……実家の味だ……。》

 

観客が泣きながら白米をかき込む。

 

リクはあらん限りの声で叫んだ。

「まだだ! タカシ、焦げを恐れるな!!」

 

——だが、これ以上の火入れはフライパンが燃える。

誰もがそう思った時、リクの指先が光の速さで動いた。

 

「おたまリベリオン・焦がし覚醒モードッ!!!」

 

実況:「なんと、タカシの中に炎帝カルボナの魂がぁぁ!!!」

 

AIユウト《ケチャップ、おいしい。》

勝者:リク。

 

体育館が爆発するような歓声。

堂島カイは腕を組み、静かに笑った。

「面白い……。校長にたどり着くのは、やはりお前だったか。

 俺を超えたんだ。どこまでも駆け上がっていけ!」

 

 

⭐︎

 

 

最終バトル、校長戦。

 

校長・篠ノ目源十郎。

使用キャラは漁港の哲学者・サバタロウ。

ステージは夕暮れの海。

 

校長がゆっくりと言葉を紡ぐ。

「料理とは……人と人をつなぐ波だ。

 お前の味を、私に見せてみなさい。」

 

言葉の重圧がリクを襲う。

だが、リクの闘志は決して消えることはない。

 

「ぼくの料理は——友だちの味だ!!」

 

炎、潮、湯気。

会場全体が真っ白に包まれ、担当したAI審査員では審査不能に。

最後に大御所たる犬AIが現れ、尻尾を一度だけ振る。

 

《審査結果:ごちそうさま。》

 

勝敗はつかなかった。

だが、全員が笑って炊飯器を開けた。

 

「勝者はいません! でも今夜のご飯は、最高です!!!」

実況の言葉が、すべてだった。

 

 

⭐︎

 

 

エピローグ。

 

夕暮れの校庭。

リクが言う。

「ボブキチってさ、勝つより……食べたくなるゲームだね。」

 

マコトが答える。

「ああ、そうだな。腹減った。帰って飯にしようぜ。」

 

空には、炊飯器から流れる湯気のような雲が浮かんでいた。

 

ナレーション:

 

「——そして彼らは、食べ続ける。

   焦がしても、煮詰まっても、

   それでも、生きるという味を探しながら。」




続きません。
《バトル・オブ・キッチン》の詳細は感想欄をご覧ください。
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