朝のCMやニュースも、また同じ言葉を繰り返していた。
「人材不足」「スキルアップ」「社会人基礎力」。
レオはコーヒーをすすり、小さく吐き捨てた。
「みんなレベル上げしかしてねぇじゃん。
なんで冒険しないんだよ。」
[λ] 作者。
それ、皮肉ですよね?
「いや、現実だ。
だったら——作るか。就活RPG。」
[λ] また社会を敵に回す気ですか?
「違う。社会をゲーム化するだけ。」
***
タイトルは、『転職クエスト:履歴書を投げろ!』。
ジャンルはRPG。
だが敵は魔王でもモンスターでもない。
企業だ。
プレイヤーは「無職の勇者」。
手持ちの武器は、履歴書ファイル。
これを元に能力値が決まり、企業のAI面接官を撃破していく。
「志望動機」=必殺技ゲージ(溜まりにくい)。
「長所と短所」=ステータス補正(矛盾が多いほど暴発率上昇)。
「学歴」=防御力(紙装甲)。
「職歴」=スキルツリー/分岐ロックあり。
ダメージ判定は、AIが自動生成。
誤字脱字があると即死。
自己分析が深すぎると「面倒な人」判定でデバフ。
逆に浅すぎると〈空虚クリティカル〉で好感度±0
[λ] 作者。
プレイヤーが傷つく仕様ですね。
「社会だってそうだろ?」
***
テストプレイ。
レオのアバターは「Lv.1・元フリーター」。
最初のダンジョン株式会社ハイプレッシャーに挑む。
AI面接官が現れる。
「レオさんですね。では、志望動機をお聞かせください。」
マイクが点滅する。
レオは少し間を置いて、答えた。
「……働くためじゃなく、作るためです。」
「なるほど。
では、作ることが、当社のどの事業に関わると考えますか?」
沈黙。
反撃コマンド《正直回答》発動。
「……正直、まだ分かりません。」
「正直ですね。
ただ、当社では具体性が求められます。」
AI面接官が微笑むような声で言う。
ダメージ:評価値-15。
レオのHPが一気にゼロになる。
次の瞬間、「不採用の祈り」が降ってきた。
だが、右下にログ。
> 経験値+1:現実耐性
[λ] 作者。
即死級の正直ダメージですね。
「でも、誤魔化すより気持ちがいい。」
***
リリース文はシンプルだった。
戦え。
勝てば働ける。負けても経験値は残る。
発売当日、SNSには混乱が走った。
就活生たちがゲームを実況し始めたのだ。
「内定、ドロップ率0.03%」
「お祈りエフェクトがリアルすぎて泣ける」
「ブラック企業倒したら次がホワイトに擬態してて草」
「SPIミミックに吸われた」「逆質問パリィ成功www」
レビュー欄には星1と星5が交互に並んだ。
レオは満足げに頷いた。
「いいね。真実って評価が割れるもんだ。」
***
「これ、声で戦う就活ゲーらしい。
履歴書がステータスになるって。
私の職業:配信者って、武器になるかな?」
メイは入力した。
志望動機:話すことで人を救いたい
長所:即興で話せる
短所:すぐ熱くなる
学歴:大学
職歴:配信者
画面右下に表示。
> 【スキル:言語反射 Lv.2】【スキル:即興回答】【感情暴発率+10%】…
AI面接官が登場。
声は温かく、だが質問は鋭い。
「桐生さんですね。
では、あなたの話す力は、どう企業に貢献しますか?」
メイの声がマイクを通る。
「言葉で人を動かす。それが私の仕事です。」
「すばらしい。
ただ、数字で示すことは可能でしょうか?」
メイは一瞬戸惑う。
だが息を吸い、【スキル:即興回答】を発動。
「フォロワーは数字です。でも、
誰が救われたかは、数字にならないと思います。」
「……なるほど。
面白い答えですね。」
画面に文字が浮かぶ。
> 【スキル発動:誠実+共感】
> 【AI面接官の態度がわずかに軟化した】
コメント欄が湧く。
《面接ゲーなのに感動》《スキル発動って尊い》
質問と回答が続く。
最後の質問。
「最後に、あなたが本当に働きたい場所を教えてください。」
メイは少し笑った。
「ここです。ここが、私が声を出せる場所だから。」
「……面接は以上です。お疲れさまでした。」
結果画面。
「不採用の祈り」が降ってきた
> 【経験値+5:自己一致度UP】
静かなBGM。
コメント欄が静まり、ひとりが書いた。
《負けたのに、勝った気がする》
***
翌週。
厚労省が声明を出した。
「当該ゲームは就労意欲を著しく損なうおそれがある。」
しかし炎上は火を消さなかった。
逆に、全国の学生がこのゲームを「就活前の通過儀礼」として遊び始めた。
ある大学では、教授が授業でこのゲームを使い、こう言った。
「努力を数値化する社会で、努力を笑える人間が最強だ。」
就活セミナー会場の外で、学生たちが叫んでいた。
「履歴書を投げろォォォ!!」
***
面接に勝ち残り、プレイヤーが最後に辿り着くのは、自己PRの神殿。
鏡のような空間。
敵も味方もいない。
ただ、一枚の紙が宙に浮かぶ。
【あなたが本当に書きたかったことを書いてください】
入力欄に、何も制限がない。
フォントも、形式も、構成も、自由。
ただし――書き終わると、ゲームが自動終了する。
セーブも、エンディングも、ない。
[λ] 作者。
これは……救いなんですか?
「いや。俺なりの、お祈りだよ。」
[λ] 世界への?
「そう。就職できても、できなくても――
自分を雇ってやれってな。」
***
数ヶ月後。
ある企業が履歴書廃止を発表した。
理由はこうだった。
「紙の中に人は収まらないと、あるゲームが教えてくれたから。」
ニュースを見ながら、レオは笑った。
コーヒーの香りがいつもより優しかった。
[λ] 作者。
成功しましたね。
「いや、失敗だよ。
――みんなが、俺のジョークを真に受けた。」
[λ] 悪い気はしてないようですが。
「まぁな。
技術の無駄遣いが、ちょっとだけ世界をズラしたなら、
それで十分だろ。」