I need you 作:花筏
A.その問いそのものに意味はない。回答者を試すための罠である。
出会いは忘れても、別れを忘れることは出来ない
日本の4月は出会いの季節と言うが、それは子供の時だけの話だと聞いたことがある。大人になると、関わる人間を自分で選べなくなるという夢の欠片もない大人の言葉だった。
他にも花見の季節ではあるが、桜の種類によっては既に葉桜になってしまうので、花見をするなら3月下旬が良いらしい。
祝日も1日と少ない訳でも、多い訳でもない、そんな何とも言えない季節。それが
別に4月が嫌いではない。地球温暖化だの言っても、まだまだ夏には遠く、冬はとっくに過ぎ去ってしまった。春風が心地よく、花粉も気にしなくていい良い月であると言える。ただ、竜胆は入学式の日が好きだと言える人間ではなかった。
どれだけ人馴れしている人でも、自分の周りの環境がガラリの変われば緊張の一つや二つはできるものだし、ストレスだって積み重なる。
そんな好奇心と僅かな緊張を抱え、竜胆は校門近くの道で車から降りる。
「ここまででいい。お疲れ」
そう運転手に告げて荷物片手に校門に歩き出す竜胆。ちょうど校門前のバスが到着したようで、ゾロゾロと赤いブレザーの制服が特徴の生徒たちが降車してきた。
その生徒たちに紛れるように校舎へと歩く竜胆は、ここから3年間出られないという事実に若干の後悔が襲いかかる。
(いくら広いって言っても、3年間はここから出られないのか。一体どういう教育論なのやら)
そんな解決する気もない疑問が浮かびながら、昇降口前に張り出された大きな張り紙で全クラスの名前を確認しながら自分のクラスを確認し、教室に向かっていく。
1−Bと書かれた教室内には既に多くの生徒がおり、所々で雑談を交わしているようだった。ひとまずホワイトボードに張られた張り紙で自分の席を確認し、それが目の前の廊下側の一番後ろの席であることに気づく。
後ろの席であることの幸運を感じていると、一つ前の席で話していた男子生徒2人に話し掛けられる。
「俺、
「俺は
割と急な挨拶だったが、2人の顔がこちらに向いているので此方に対して話しかけているのは確かだ。柴田の元気なテンションに押されつつ、竜胆も落ち着いて自己紹介をする。
「樋口竜胆、よろしく。柴田、渡辺」
「おう、よろしくな!」
「俺は一つ前の席だから、仲良くしような」
端的な自己紹介に嫌な顔一つせずに応じた2人と、そのまま雑談を続けることにする。柴田は一番前の席だが、渡辺は竜胆の一つ前の席なので、これから話す機会が多いだろう。クラスメイトとして是非仲良くしていきたい。
「は~い、そろそろ時間だから、全員座ってね」
雑談をしばらく続けていると、教室の前から担任と思われる女性教師が入ってくる。人当たりの良い笑顔で微笑みながら温和な雰囲気を出す教師に、教室内から何処か安心したような声が聞こえてくる。
「担任の先生優しそ〜」
「ね〜」
「というか、結構美人」
「胸元若干見えてるんだけど、教師がそれで良いのか?」
「それが良いんだよバカ!」
うん⋯⋯⋯女子の反応と男子の反応が見事に分かりやすい会話だ。周りに聞こえないように配慮して小声で話しているので、他の人には聞こえていないが、竜胆の耳にはバッチリ聞こえている。
(胸元が見える服装の教師が良いのかは俺も疑問だけど)
ボタンを一つだけ閉め忘れたのか、ギリギリ見えている胸元はわざと見せているようにも感じる。考えすぎかもしれないが、若干のあざとさを感じてしまうのだ。
(やめよう、この思考。初対面の人の胸元の考察とかキモいし無駄すぎる)
不毛な考察の末に最終的に出した結論は、考えるだけ無駄という結論だった。意味のないことを意味あるように捉えるのはあまり良いことでもないので、素直に教師の話に集中する。
「新入生の皆さん初めまして。私がBクラスの担任を務めます
保険医っぽい見た目の通り保険医のようだが、重要なのはそこではない。どうやらこの学校、クラス替えがないらしい。パンフレットには載っていなかったような気がするが、そもそもパンフレットにクラス替えの有無って書いてあるものだったか?
クラスメイトたちもクラス替えがないことに驚いたらしく、ざわざわとざわめき出す。クラス替えは学校生活のあるあるだが、必ずしも良いイベントとは限らない。仲の良い生徒と離れ離れになって孤立する生徒もいるかもしれないので、一概に悪いこととも言えない気がする。
(でもなぁ、クラス内でトラブルがあった時には⋯⋯それはもう面倒なことになりそう)
クラス替えという強制イベントで、仲が良くない相手と別のクラスに別れることが出来ないということは、通常よりもトラブルに発展する可能性もある。
距離を取るのは、良くも悪くも人間関係に影響を及ぼす。クラス替えなしは、一長一短とも言える制度だと竜胆は思った。
「一時間後には入学式があるけど、それまでにこの学校のことについて説明するね。今から配る資料に書いてあることもあるから、分からなかったら確認したり、私に聞いてね」
そう言って、星之宮先生はスマホに似た端末と資料を前の席から配り出す。全員に行き渡ったことを確認したら、端末に指を差しながら説明を始めた。
「今みんなに配ったのが、学生証端末。スマホの代用品で学生証にもなるものだからなくさないようにね?それと、この学校ではポイントがお金になるの。1ポイント≒1円と同等の価値があると思ってくれればいいわ。みんなの端末には既に今月分の10万ポイントがあって、毎月1日に支給されるから確認してね」
10万円と同等の価値があるポイントが既に全員が所有しているという話に、思わず全員が端末を確認する。竜胆の端末にも確かに10万ポイントが支給されている。
高校生ならバイトで頑張ればギリギリ10万円を稼ぐことは出来るかもしれないが、それでも十分大金だ。そもそもこの学校はバイトが禁止だったはずなので、学校からの支給だけが生命線だ。現にクラスメイトたちは様々な反応を示しているが、全体的にかなり嬉しそうに見えた。
「それと、この学校では何でもこのポイントで購入可能で、校内には購買や食堂、少し離れた所には様々な施設があります。飲食店から雑貨店、娯楽施設等々の大抵の施設ならあるから、困ることはないと思って大丈夫。映画やカラオケとかは先生のオススメね」
日本円を使う機会はこの学校ではなさそうだ。ポイントという金に代わる存在をいきなり渡されて、それが金と同価値の物ですと言われても慣れるまでに少し時間がかかりそうだ。同時に、ポイントという存在はデータとしてあるのであって、手元に紙幣や硬貨という形では存在していない。使い過ぎなどにも気をつけなければならない。
「あの⋯⋯先生、質問があります」
「どうしたの、一之瀬さん」
「これだけのポイントを高校生の私たちにいきなり渡すのは、ちょっと不安になります。パンフレットには全寮制で光熱費とかはないとは書かれてたんですけど、こんなに貰っても良いんでしょうか?」
手を挙げて質問したのは、ストロベリーブロンドの髪の腰の近くまで伸ばし、顔立ちの整った女子生徒だ。星之宮先生が一之瀬と言っていたことから、
昇降口の張り紙で他の生徒の名前を把握していた竜胆は、一之瀬に視線だけを向ける。
(いきなり10万円と同等物を渡されて不安になったのか、知らない人から渡されれば不安にもなるが、国立の高校相手にも不安になるのは人の良さか、それだけ疑り深いかのどっちかだけど⋯⋯)
ぱっと見は前者の方に見える。一之瀬の質問で冷静になったのか、大金を手に入れて喜んでいたクラスメイトは同じような不安を抱き出す。
「大丈夫よ一之瀬さん、この学校は生徒を実力で測るの。入学したあなた達にはそれだけの価値があると学校側が評価したからよ。だから生徒として普通の生活を送っていれば、何の問題もないから安心して」
星之宮先生の言葉に一之瀬は納得したのか、大人しく席についた。他の生徒も今の答えで納得した様子だった。
(⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯)
「そうそう、ポイントのどう使うかは自由よ。貯めるもよし、貸し借りや譲渡も可能だけど、毎年トラブルになることがあるから気をつけること。イジメとかカツアゲには厳しいから、みんなはやらないように、他に質問ある人は?」
「はいはい!他に施設って何があるんですか?」
「資料に大体載ってるけど、生活に必要な物は基本売ってるかな。動物園とか水族館とかは流石にないから、デートしたい時は飽きやすいのだけは難点ね」
「は~い、じゃあ先生の好きな食べ物は?」
「甘い物は大体好きね〜お酒も大好き」
質問は学校のことから星之宮先生の個人的な質問へと変わっていく。色々気になりはするが、クラスの雰囲気自体は明るく馴染みやすい雰囲気で溢れている。殺伐としたクラスで3年間を過ごすのは御免なのでありがたい。
「あっ、そろそろ入学式の時間だから、みんな体育館に行って整列してね。勿論静かに」
質問をいくつか答えていた星之宮先生は、壁に掛かっている時計を見て慌てた様子で説明を終える。その際に人差し指を口に当てて静かにするようにお願いするポーズは、あざとさ以上に先生の人当たりの良さを感じる。
(先生だから出来るキャラだよな。あざとさも大人って立場なら親しみやすさに変わるのは便利なもんだよ)
親しみやすい先生は人気だが、難しい。場合によっては舐められるし、人によっては嫌われる。違和感なく振る舞う星之宮先生は、素でも演技でも凄いものだ。
「じゃあみんな、体育館に着いたら名前順に並ぼっか!」
先程質問の先陣を切った一之瀬が提案し、クラスメイトたちも反対することなく体育館へと向かう。
「俺たちも行こうぜ」
「そうだな」
竜胆も渡辺に誘われて、一緒に体育館へと向かうのだった。
入学式は何事もなく終了し、そのまま下校時間となった。しかし、竜胆は学校の敷地内にある様々な店が建ち並ぶ複合商業施設ケヤキモールにあるカラオケに来ていた。
一之瀬の提案で、交流を兼ねてカラオケに行くことになったのだ。一応自由参加ではあるが、クラスメイト全員が参加している。パーティー用の大部屋にはクラスメイト40人全員が入っても余りあるほど広く、カラオケモニターは小さな映画館のように大きい。
「そういやさ、樋口はどうしてこの学校に入学したんだ?やっぱり進学と就職率が100%っていう謳い文句とか?」
「どっちかと言うと全寮制の部分に惹かれた。今の内に一人暮らしを経験しときたかったんだよ」
「へ〜そこまで考えてんだな。俺はあんまり深く考えずここに決めたんだよな〜」
「高校の進学先なんてそんなものだろ。大学で真剣に考えればいい」
「やっぱ本番は大学だよな。良い大学に入れたらそれだけ後で有利になるし、今は準備期間だと思えばいいか。ありがとな、何か前向きになれた」
渡辺とドリンクバーで飲み物を入れながら、竜胆は相談?にしては雑談めいた話をしていた。話の話題にしやすかっただけで、特に深刻な悩みとかではなさそうだ。
(そういえば、あの人また生徒会長やってたよな。割と懲り懲りだとか言ってなかったっけ?いやまぁ、本当にヤバかった時期はその後だったけどさ)
当たり前のように生徒会長をやっていたので、気づくのに若干反応が遅れてしまった。
(にしても、先生も生徒会長もやけに実力主義とか言ってたな。今のところ実力主義要素は皆無だけど、なーんか気になるよな)
高校生として満足した生活を送れればそれで十分なのだが、そうはいかないかもしれない。あまり疑いたくはないが、何もしないのはそれはそれで不安要素が残って不安だ。
疑うだけのきっかけは既にある。都合良く捉えれば無視できる疑いだが、残念ながらそうはいかない事情もある。あまり先を考えたくなかった竜胆は、今はカラオケを楽しむことにする。
渡辺と飲み物を片手にパーティールームに戻ってみれば、既に男子生徒が歌っている。他のクラスメイトは話をしたり、連絡先を交換していて、自己紹介の場としても機能していた。
「俺等、もしかして出遅れた?」
「元々交流を兼ねてるんだから、慌てなくとも話せるだろ。少なくとも、まだ誰とも連絡先を交換してないし」
「そう⋯⋯だな。良し、女子と連絡先を交換するぞ!」
「女子限定かよ。男も交換しとけ、柴田辺りが多分一番楽だぞ」
渡辺と竜胆は、一斉にドリンクバーに行くと混み合うという理由でかなり後に飲み物を取りに行っていた。そのせいで出遅れたような感じもしたが、まだまだ始まったばかりで、大して話す時間はないはずだと不安がる渡辺をフォローする。
ひとまず2人揃って安牌な柴田がいる男子集団に行き、数人と連絡先を交換した。全体的にノリが良いので親しみやすく輪の中にも入りやすかった。
それからしばらく男子集団と会話しながら時間は過ぎ去り、柴田がマイクを持って歌い始めた辺りで、竜胆は飲み物を取りに一人で席を立つ。
コーラに飽きたのでカルピスにしようとボタンを押した所で、後ろから話しかけられる。
「樋口くんだよね?」
その声に振り向くと、そこにいたのは女子生徒三人。声を掛けたのは一之瀬だ。
「何で一之瀬が俺の名前を知ってるんだ?」
「さっき渡辺くんたちと連絡先交換したの、その時に樋口くんが飲み物を取りに行ったって渡辺くんから聞いたんだ。クラス全員と連絡先を交換したくて」
「なるほど⋯⋯」
「そっ、ついでに私たちも飲み物を取りに来たかったしね」
渡辺が気を使ったのか、一之瀬が気づいたのか不明だが、態々連絡先の交換のために来たらしい。
「私、
一之瀬と一緒にいた2人の女子生徒の内、紺に近い黒髪を白いリボンでポニーテールに纏めた方が網倉と名乗り、一之瀬の後ろの隠れるように警戒の視線を向けていた女子生徒が白波千尋と言うらしい。
「樋口竜胆。なぁ一之瀬、もう一ついいか?」
「どうしたの?」
「何で星之宮先生にあんな質問したんだ?」
「⋯⋯あんな質問?あぁ~あれは10万も貰うのに申し訳無さがあったの。ただの高校生がポンと貰っていい金額じゃないでしょ?」
抽象的な質問だったせいか、少しの間の後に意図を察して答える一之瀬。その話に、網倉と白波も乗っかってくる。
「ちょっと分かるかも。最初は嬉しかったけど、よくよく考えればちょっと貰いすぎな感じがあったよね」
「でも、私たちにはそれだけの価値があるって星之宮先生は言ってたよ?」
「どうして樋口くんはそのことが気になるの?」
「気になるって言うか、星之宮先生と生徒会長がやけに実力主義って言葉を使うから、10万ポイントにも何か意味があるんじゃないかと思って」
この学校に思う所はある。ただ、思い違いであって欲しいし、何かあってもできることなら他の人に気づいて欲しい。
そんな考えから話の話題にした竜胆は、一之瀬の反応を確認する。一之瀬は顎を手を当てながら考えるポーズを取りながら『う〜ん』と悩んでいる。
「考えすぎなんじゃないかな。帆波ちゃん、そんなに悩むことないよ」
「そうかな~今考えるとちょっとだけ引っ掛かるような気が⋯⋯⋯」
「悪い、そんなに悩ませるつもりじゃなかった」
白波が考えすぎと言うが、一之瀬はまだ気になることがあるようだった。流石にこれ以上時間を使うのは色々ヘイトを買いそうなので、竜胆は一旦話を終わらせることにした。白波からは、さっきより警戒した視線が向けられているので、この判断は間違っていないはず。
「ううん、新しい視点だからこそ気づけることもあるから、ありがとう!」
満面の笑みを浮かべてお礼を言う一之瀬は、新しい飲み物を入れて部屋に戻っていく。一人残った竜胆は、その場で入れたカルピスを飲み干しした。
(一回自分で調べるべきだよなぁ。一之瀬がクラスの中心なら、そっちで調べてくれると楽なんだけど)
ひとまず疑いの種は蒔いた。何もなければ芽は出てこないが、もし何かあれば⋯⋯⋯⋯そんな面倒な予感を覚えながら、竜胆はもう一度カルピスを入れ直すのだった。
竜胆「という訳で始まりました予告コーナーです」
一之瀬「記念すべき第一話は私と樋口くんが担当します!」
竜胆「なぁ、一之瀬」
一之瀬「どうしたの?樋口くん」
竜胆「記念すべき一話と言っても、まだ何も始まってないような一話なんだが、その状態で何を話せばいい?」
一之瀬「う〜ん、やっぱりこの作品のヒロインは誰?って部分じゃないかな。ヒロインの存在は大切だしね」
竜胆「ヒロインか、残念ながら出番は少し先になりそうだな」
一之瀬「樋口くん?もう私は本編に出てきてるよ?同じクラスのクラスメイトでヒロインじゃないとか、逆張りにも程があるよ!?」
竜胆「でもなぁ、原作じゃ負けヒロインの感じが否めないだろ?」
一之瀬「そんなことないよ!覚醒した私が、他のヒロイン候補をバッタバッタなぎ倒す展開かもしれないし、きっとこの作品でも王道ヒロインが勝つよ!」
竜胆「王道⋯⋯ヒロイン?」
一之瀬「次回ッ!謎とは疑念があるから解かれるものだ。気づかない謎を解くことは出来ない!」
竜胆「無理矢理締めたな⋯⋯」
好きなよう実キャラ
-
綾小路清隆
-
堀北鈴音
-
櫛田桔梗
-
軽井沢恵
-
平田洋介
-
高円寺六助
-
須藤健
-
龍園翔
-
椎名ひより
-
伊吹澪
-
石崎大地
-
山田アルベルト
-
一之瀬帆波
-
神崎隆二
-
坂柳有栖
-
神室真澄
-
山村美紀
-
森下藍
-
白石飛鳥
-
その他