I need you   作:花筏

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みんな大好きなあのキャラの登場です。少なくとも、作者は癖のあるキャラは大体好きです。



好きの反対は無関心。では嫌いの反対は何か?

何回目かのプールの授業を見学で終えた竜胆は、放課後先日約束した場所へと向かっていた。

 

司書に会釈しながら図書館の奥へと進むと、一番奥のテーブルの席に座る椎名は、昨日話した『そして誰もいなくなった』を読んでいる。

 

向かい側の席に座った竜胆に気づいた椎名が顔を上げ、互いに挨拶を交わす。

 

「昨日ぶりですね」

 

「ん、昨日ぶり。その本⋯⋯」

 

「これですか?昨日樋口くんが話してくれたので、一度読み返して見ようと思いまして。久しぶりに読み返すと、やはり印象が変わるものですね」

 

「そうなの?」

 

印象が変わると言われても、竜胆には理解出来なかった。そもそも、竜胆には本を読み返すという行動そのものが馴染みがない。

 

「例えば⋯⋯当初は怒りが溢れ出たような台詞だと思っていたものが、読み返すと怒りと同時に悲しみも滲み出たような台詞に解釈出来たり、もう少し暗い雰囲気の部屋の中だと思っていた風景が、勘違いだったことがあります」

 

「読み返すか⋯⋯一度読んだらそれで終わりだと思ってた」

 

「それは勿体ないです。悲しい気分で読んだ時と楽しい気分で読んだ時とでは登場人物への共感の仕方に違いが生まれますし、読む時間帯によっても差異があるものですから。それに⋯⋯⋯⋯⋯」

 

椎名が言うには、個人差はあれど読み返せば多少印象が変わるシーンがあるらしい。それから、読み返すことの重要性を10分ほど説く椎名は、とても真剣な表情だ。

 

「読書のハードルが高い理由が分かった気がする」

 

「読み返すことが必須という訳ではありませんよ?ただ、個人的に読み返すことでより楽しめる作品は多くありますから⋯⋯その、あの、すみません」

 

「読まないって言ってる訳ではないって、周囲に読書を趣味にしてる人間が少ないから、そう思っただけであって」

 

「いえ、仕方ないことだと思います。昔よりも娯楽が多くありますし、最近は電子書籍の台頭で、紙媒体の本は着実に減ってきてはいますから。活字のみの本では手を付けるのに、ハードルが高いと思うことは避けられません」

 

竜胆の一言でかなり気まずい雰囲気になってしまった。そういう意味で言ったつもりはなかったが、椎名は自分の説明が長すぎると思われたと捉えたのかもしれない。

 

「悪い、説明は分かりやすかったし、取り敢えず読んでみてから読み返すことを考えることにする。読んでもないのに、読み返すどうこうを考えても仕方ない」  

 

「そうですね。今気にすることではないでしょうし、今日の本体はオススメを紹介するためでした」

 

二人の会話はぎこちないものだったが、気まずい空気を入れ替えて、椎名が読んでいた本ではないもう一冊の本を竜胆に渡す。

 

「『そして誰もいなくなった』と同じ作者のアガサ・クリスティ作の『オリエント急行殺人事件』という本です。舞台は列車の中で起きた一つの殺人事件を推理していく王道のストーリーで、シンプルなサスペンス作品です。これなら、樋口くんも納得出来る一冊だと思います」

 

「ジャンルは、ミステリー・サスペンスか。取り敢えず読んでみる」

 

「先に借りておいた方がいいと思いますよ?今日中に読み切るのは難しいでしょうし」

 

「あ~そうだな。じゃあ一旦借りてくる」

 

竜胆が入り口付近にある受付に向かうが、そこに司書さんの姿はない。近くに寄るとどうやら、銀色のベルのような形をした押したら“チーン”となるアレを押して待てばいいらしい。(竜胆の知識では名前が出てこなかった)

 

一度押して待っていると、後ろから肩を指で突かれる。振り返りその相手を見た竜胆は、表現しようのない渋い顔をしていた。

 

「久しぶりだね、樋口くんっ」

 

語尾からしてあざとい人間は早々いない。少なくとも、竜胆は素でそんな人を見たことがないが、キャラとして演じている女を一人知っていた。

 

「⋯⋯⋯⋯櫛田(くしだ)⋯⋯⋯⋯⋯桔梗(ききょう)⋯⋯⋯」

 

「覚えてくれんだ〜嬉しいっ!」

 

顔がそっくりなだけの別人の可能性に賭けて、知っている方の名前を言ったが、そんな都合の良いことはなく残念ながら知り合いのようだ。

 

この場でも態度を変えないのは、公共の場だから警戒しているのか、それともその話し方が苦手な竜胆の嫌がらせか⋯⋯⋯⋯多分どっちもだろう。

 

「何故ここに?」

 

竜胆の知りたいのはこの一点のみだ。櫛田と志望高を話す仲ではなかったが、竜胆の何かの間違えであって欲しいという願望がまだ残っている質問であった。

 

「積もる話もあるから、ちょっと場所を変えて話さない?」

(断ったら⋯⋯⋯⋯分かるよね?)

 

顔はいつもの笑みを浮かべた顔ではあるが、声は裏に近い声色であった。本を片手に黙る竜胆は、少しの思考の後に結論をつける。

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯いや」

 

ガシッ

 

櫛田の両手が力いっぱい竜胆の肩に襲いかかる。見ただけでは肩に手を置いているようにしか見えないが、その力は櫛田の細腕から出たとは思えない握力であった。

 

「樋口くん、大事な話もあるの、今後のためにも話そっ?」

(頷け、首が吹っ飛ぶくらいの勢いで頷け)

 

謎の幻聴が聞こえてくるが、竜胆の今の気分は絶賛本を読みたいのだ。椎名のオススメでもあるし、せめて殺人事件が起きるまではここで読んでおきたかった。  

 

「⋯⋯⋯一時間後」

 

「30分」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯50分」

 

「30分」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯45分」

 

「30分」

 

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯わかった、30分で」

 

ミシミシと嫌な音が、竜胆の肩に置いている櫛田の手から聞こえてくる。ここで椎名と櫛田が出会ったら、それはそれでまずいことになりそうなので、竜胆はこれ以上の譲歩を諦めた。

 

「連絡先交換しとこっか!場所は送るね?」

 

そう言い残し、櫛田は図書館を足早に去っていく。台風でもこんなに早く去っていかない早い退散に、余程人目を気にしているようだった。

 

(そんなに気になるなら、ほっとけばいいのに⋯⋯)

 

竜胆はそう思うのだが、櫛田にはそうはいかない理由があるのも知っている。竜胆と櫛田では、根本的な価値観が違うのだ。故に事情を知っていても、まるで共感が出来なかった。

 

その直後やって来た司書さんに本の手続きを済ませ、元の席に戻る竜胆。これでは集中してまともに本を読めないと思いつつも、ひとまず頑張ろうと意気込むのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

読書に使う時間に30分というのはあまりにも短く、無情にも過ぎ去った時間を惜しみながら、椎名に予定があると別れを告げた竜胆。

 

(なんでこんな所で再会するんだろうなぁ。再会は別の予定があったのに⋯⋯⋯⋯)

 

櫛田桔梗は竜胆と同じ中学の同級生であるが、その仲は悪い。一年間同じクラスだったことがあるが、竜胆が彼女の本性を知ってしまったのだ。

表向き善人を振る舞っていた彼女にとって、それは思いがけないミスであり、絶対に口封じを行う必要があった。

 

竜胆は、このトラブルに対して自分の秘密を話すことで乗り切った。お互いの首筋にナイフを当てることで、櫛田の暴走を防いだのだ。

 

当時は、よくやったとその時の自分を褒めてやりたくなったが、その行動もそう遠くない未来に無駄になった。今では一方的に秘密を握られているが、当時は櫛田自身に余裕がなかったこともあり、卒業まで被害はなかった。

 

しかし、どんな偶然か、櫛田と竜胆は再会を果たしてしまった。これだけ嬉しくない再会はそうないだろうと、産まれて初めての再会を体験した竜胆は確信していた。

 

(再会って、ヘンゼルとグレーテルたいな感動的なものだと思ってたのに⋯⋯俺の純心を返してほしい)

 

櫛田本人にはとても言えない文句を空へと放ち、先ほど連絡先を交換したばかりの櫛田からのメッセージを頼りに、ケヤキモールにある飲食店に入る。

 

そこはしゃぶしゃぶとすき焼きの店のようで、入店して店員さんに一人で来た2名予約の客がいないか聞き、その席に案内してもらう。

 

店の奥にある個室の扉を開くと、そこには一人で鍋をつつく櫛田がいた。ひとまず向かいの席に座り、店員さんがお冷とおしぼりを持ってくる。

 

「黒毛和牛を10枚ください。あとリンゴジュース」

 

「かしこまりました」

 

すき焼きの鍋を見て、取り敢えず牛を10枚頼む竜胆。店員さんが下がった辺りで、笑顔で口を閉じていた櫛田が、頬杖をつきながらこちらを睨み始める。

 

「何で勝手に頼んでんの?」

 

「良いだろ、それくらい。人の予定に勝手に割り込んできたんだから」

 

「一緒にすき焼き食べるために時間作った訳じゃないんだけど?」

 

「知るかよ、店に来たんだから食べるにきまってんだろ」

 

お互いに口が悪いのは、以前からそうだった。どちらから始めたのかは覚えていないが、互いに気を遣うのが馬鹿馬鹿しいと思っていることは共通している。

 

「で?何でここにいるの?」  

 

「お前が呼んだんだろ」

 

「死ね。そういう意味じゃなくて、どうしてこの学校にいるのかって話をしてるの」

 

「今の罵倒いるか?」

 

櫛田は、さっさと話の本題を切り出していく。対して、竜胆は竜胆でそんなことを言われるような筋合いなどないのだが、櫛田としてはそうではないらしい。

 

「あんたさ、高校には進学しないって言ってたよね?嘘ついたわけ?」

 

「いや、そん時は進学の予定はなかったけど、なんやかんやあってこの学校に通うことになったんだよ。だから嘘はついてない」

 

「じゃあ、報告しなさいよ」

 

「するわけねぇだろ、親かお前は。まさか進学先が同じとは思わなかったし、俺に理由を話してもなかっだろ」

 

「何であんたに理由言わないといけないの?」

 

「清々しい程にお前が言うなって感じだよ」

 

堂々と言い切った櫛田に呆れつつ、竜胆は卵を器に割って混ぜておく。鍋には割り下に煮込まれた豆腐・ネギ・白滝・椎茸・白菜が所狭しに煮詰められている。

 

肉が一つもないことから、櫛田は野菜には手を付けずに肉だけを食べていたようだ。竜胆はラッキーと思いながら野菜を取っていく。

 

「それ、私が頼んだんだけど?常識って知らないの?」

 

「お前に言われたくない。似たようなことされた覚えもあるし、お前相手に気を遣うほうが馬鹿らしい」

 

「うっわ、そんな前のこと覚えてるとか。器ちっさ」

 

「さっきから人のこと言えないからな」

 

ギャアギャアと罵り合う二人だが、突然竜胆がピタリと止まり口を閉じる。それと同時に櫛田の顔が張り付けた笑顔に戻ると、個室の扉がノックされる。

 

「お待たせ致しました。黒毛和牛10枚とリンゴジュースです」

 

「ありがとうございますっ」

 

店員さんが肉とリンゴジュースを置いて戻ると、櫛田は表向きの笑顔をやめて大きな溜め息をつき出す。仕事終わりのサラリーマンみたいだ。

 

「ハァ〜」

 

「そういや、よくこんな所見つけたな」

 

「当たり前でしょ?誰かと行く可能性があるんだから、全部の店確認しないと何が起こるか分からないじゃない」

 

「へー」

 

「てか、何でリンゴジュース?小学生?」

 

「その発想が既に小学生だよ。濃い味のすき焼きには安くてスッキリしたリンゴジュースがいいんだよ」

 

「あっそ、興味ない」

 

リサーチが入念なのはこの学校でも変わっていないらしい。かなりの広さを誇るケヤキモールの全店舗の飲食店を把握するだけでも、かなりの時間を要する。

 

櫛田桔梗のコミュニケーションに対する努力は、相変わらず飛び抜けてどうかしていた。

 

「その感じだと、この学校でも続けてんだな」

 

「やっぱり、あんた気づいてなかったんだ。図書館で私の顔見た時のキモい反応で、なんとなくそうだとは思ってたけど」

 

「そっちはどこで俺に気づいたんだよ。近くにいた素振りなんかなかった気がするけど」

 

「あんたが二年生の間で噂になってて、それがBクラスの人間だっていう話だったから、Bクラスの友達に確認したの。案の定、あんたと同姓同名の奴を確認して、わざわざ探す羽目になったのッ!」

 

話が後半になるにつれて、その時の怒りが段々と再燃したのか語彙が強くなっていく。最後辺りには箸を握りしめて今にもへし折りそうだった。

 

それにしても、また二年生の噂の話が出てきた。とことん運が悪いのか良くないことが立て続けに起きている。

 

(まだ面倒事がありそうだから、尚嫌な感じなんだよなぁ)

 

それもこれも、あの金髪野郎のせいということにして思考をリセットする。このままだと、櫛田の本題から愚痴大会になりそうなので、さっさと軌道修正がしたかった。

 

「見て見ぬ振りでもすれば良かっただろ。実際、会うまで櫛田に気付かなかったし」

 

「こんな閉鎖空間で、3年間名前も顔もバレないように振る舞えって?誰かと一緒の時に会ったら、絶対あんたは変な反応すると思ったから釘刺しに来たの」

 

「それ、何割くらい本当だよ」

 

「前半は本当かなっ、後はあんたに嫌がらせしたかっただけ。なんだっけ?昨日仲良く女子とキスしたとか⋯⋯」

 

「わざと間違えてるだろ、訂正しないからな」

 

話の途中で声色を変えて話す櫛田は、一種のびっくり人間だ。日常生活で使われても不気味なだけだが、どうか芸能の道とかの方が向いてそうだからそっちに行ってほしい。

 

櫛田とまともに会話しても、こちらが振り回されるだけだと理解している竜胆は、あしらいながら対応していた。

 

「結局⋯⋯どうしろって?」

 

「こっちに関わらないでほしいの。本当は自主退学してほしいけど、絶対しないでしょ?」

 

「普通誰もしねぇよ」

 

「だから棲み分けしようっていう話。こっちは極力関わらないから、あんたも関わらないで」

 

「そうは言っても、Bクラスに友達がいるんだろ?今から関わりがなくなるのは不自然だろ」

 

「だから極力って言ってるでしょ。あんたに関してはもう色々と諦めてる」

 

(あんたに関して()⋯⋯⋯ねぇ)

 

まるで他は諦めていないような言い方だ。堀北先輩には確か竜胆と同世代の妹がいたはず。交流などはなかったが、顔と名前くらいなら知っている。一応、聞いておいた方がいいかもしれない。

 

「堀北先輩が、この学校でも生徒会長やってたの気づいた?」

 

「⋯⋯なに急に、あんたが知ってて私が知らない訳ないでしょ」

 

堀北という言葉に、櫛田は一瞬眉を顰める。いきなり話を変えた竜胆が何を言いたいのか、もう分かったのだろう。

 

「その妹が、めっちゃブラコンって堀北先輩に聞いたことがあるけど⋯⋯そのまさかってことはないよな?」

 

普通に考えてあり得ないことだが、堀北先輩から聞いた話では相当なブラコンだった。先輩も先輩で妹に対して中々拗らせているので、もしかたら似たような兄妹である可能性があった。

 

(堀北先輩が二人もいるのは、流石に考えたくねぇ。あの人、常識人だし真面目で優秀だけど。妹に関することになると、途端におかしくなるから若干めんどくさい)

 

「樋口くんの洞察力って、どうして他に使えないのかなぁ?何で人が触れてほしくないことばっかり干渉してくるの?」

 

「それは⋯⋯うん、ごめん」

 

細かい気遣いが苦手なことを自覚している竜胆は、素直に謝る他なかった。常識がない方だとは思ってるし、それが原因でトラブルになったことはある。

 

最近は少なくなってきてはいても、櫛田にとっては今のは地雷であった。少なからず、表の顔で罵倒するくらいには怒っている。

 

「まぁ、聞かなかったことにする。取り敢えず食おうぜ」

 

「ハァ?聞いておいてそんなの通じる訳ないでしょ?」

 

精一杯の誤魔化そうとするも、櫛田は逃がしてくれず。それから一時間近く堀北妹の愚痴を散々聞かされるのであった。

 

 




櫛田「今日のゲストは、みんなとお友達になりたい!櫛田桔梗ですっ」

竜胆「うっわ、目の前で聞くとやべぇ」

櫛田「は?死ね」

竜胆「あ、いつもの感じに戻った」

櫛田「今回は樋口くんの恥ずかしい〜エピソードを皆さんにお伝えしますっ」

竜胆「その声色を毎回変えて喋んのやめない?」

櫛田「実は樋口くんは、中学生の時に付き合った女子に一ヶ月も経たずに振られて、女子の間では顔だけと馬鹿にされてるよ」

竜胆「あれはまぁ⋯⋯うん。あの時は中学校という存在をぶっちゃけ舐めてたわ。学校は小さな社会って話に納得したよ」

櫛田「ちなみにキスすらしてなかったらしいから、樋口くんはヘタレのピーってことになるのかな?」

竜胆「ピー音が出るようなことを言うのやめような。ぶっちゃけしゃーねぇだろ、何も知らなかったんだし」

櫛田「言い訳とかダッサ。次回っ!『人生の種類は食事に現れる』樋口くんの情けない姿に乞うご期待!」

竜胆「今回お前一人で良かったんじゃねぇの。俺いる?」

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