夜神月に成り代わってヒロアカ世界に転生したけどデスノート絶対に使いません! 作:佐久間2525
「飯田、その…ニュースで見たんだけど」
青山の転校の件で騒めいていた教室も、ようやく落ち着いたころ。
気まずそうに問いかけた言葉に、彼は意外にも笑顔で応えた。
「兄の件なら心配ご無用だ。いらぬ世話をかけて悪かったね」
それ以上の問答を拒絶するかのように言い切って、彼は淡々と席に着いた。なんとなくその笑顔が強張って見えたのは、僕の気のせいではないだろう。
しかし、今の僕が何を言えるというのか。口を何度か開いてみたものの、形のある言葉など出てこなくて。
そう、と小さくこぼして自分の席に戻ることしかできなかった。
彼の兄、ヒーロー インゲニウムはヒーロー殺し ステインに襲撃された。一命は取り留めたものの、かなりの重傷で、今後ヒーロー活動を続けることは不可能だろうと聞いている。
これでヒーロー殺しによる被害は死者17名、重傷者23名となる。一個人が起こした犯罪としては近年トップクラスに入る犠牲者数だ。
『僕の将来なりたいヒーロー像はやっぱり兄さ…じゃなかった、インゲニウムのようなヒーローさ!』
『兄さんはすごいんだ、昔からやさしい人で…』
『まだ一度も勝てた試しがないんだ。悔しい、けどいつかは追いついてみせるとも!』
同じクラスになってまだ一か月と少し。それでも飯田がどれほど兄のことを深く尊敬して、慕っているのか知ってる。それだけ素晴らしい人なんだろう。実際、僕も一度だけ父さんの伝手で握手してもらったことがあるけれど…いつでも朗らかで、些細な声にも耳を傾けてくれる、民衆のためのヒーローと言っていい人だった。
──なぁ、飯田。
すぐ近くに。この事態を未然に防げたはずなのに、何もしなかったやつがいるって知ったら…お前はどうする?
ステインへの憎悪以上に胸を占める自己嫌悪感に、吐き気が止まらない。気づけばまた、左手に着けた腕時計を握りしめていた。
…何に縋ろうとしているんだろうな、僕は。
◇◆◇◆
「デクくん。飯田くん、さき帰っちゃった?」
「うん…」
以前は3人で帰った道のりを、麗日さんと二人で帰る。僕も彼女も足取りが重いのは、きっと同じ事を考えているからなんだろう。
「お兄さん、大丈夫なんかな」
「どうだろう…心配だね」
飯田くんは聞いても何も言ってくれなかった。教室で同じように夜神くんも固い笑みで拒絶されていたのを思い出す。あの二人も普段、仲がいいから。夜神くんにだったらもしかしてと思ったんだけれど。
飯田くんの職場体験先が、インゲニウム事件のあった保須市だというのがどうにも気がかりで仕方がない。
「まさか、ね」
どうにも嫌な予感がするけれど。本人から拒絶されてしまった以上、今、僕に出来ることというのは考え付かず。
「(そういえば…夜神くんの様子もどこかおかしかったような)」
「おーい、デクくん。信号変わるよ〜」
「わっ、ご、ごめん!」
ふと脳裏をよぎったことも、家に着く頃には忘れる程の違和感だったから。結局何をするというわけでもなく、僕は職場体験の日を迎えることになった。
◇◆◇◆
雄英体育祭を欠席した僕にはプロヒーローからの指名は0件だったわけだが。学校側はもちろんそんな事態にも備えている。
幾名かのヒーローには事前に声をかけているようで、無条件に体験を受け入れている事務所のリストがあるのだ。普通はその中から一つ選んで職場体験に…となるのだろう。
僕は例外のようだけれど。
「今回はこの辺りに出回ってる違法薬物の出所を探ってもらいます」
「…これって職場体験ですよね?」
「ええ、ヒーロー免許だけなら私も持ってますから。指導は問題ありません。頼んでいるお仕事も実習レポートに書けそうなレベルにしておきました」
「薬物の調査は…まぁ殺人の捜査に比べたらまだ書ける範囲ではありますけど」
ヒーローといってもピンからキリまでいる中。
強個性持ちの僕を、あまり下手なヒーローに任せたくないという公安の考えは分かる。わざわざ公安の中でも割と戦闘ができる人をつけてくるくらいだ。(ちなみにこの人の名前は教えてもらったことがない。ホークス、目良さんの次によく仕事する人ではあるんだけど)
でも雄英が選んだヒーローなら大丈夫だったのでは、と僕としては思ったりするわけで。
職場体験先を伝えた時の、相澤先生のあの不機嫌そうな顔。あれを一度この人にも見てもらいたい。怖いんだから。本当に。
「まぁ、分かりました。5日間で突き止められるといいですね」
「今のところ私たちの方ではトカゲの尻尾しか捕まえられていませんので、手掛かりを頂けるだけでも助かります」
というわけで、僕の職場体験は結局いつものお仕事コース。
プロヒーローになったらどうせ同じ仕事するし、別にいいんだけれどね。釈然としないだけで。
・・・
鈍く痛む頭を押さえて、車の窓に頭を押し付ける。ひんやりとしたガラスが熱を奪っていく感覚が心地よかった。
「はぁー…」
「5日間お疲れさまでした。調査結果をもとに、死穢八斎會の監視を強化するように上に進言しておきます」
「クスリの出所分かってよかったですね…」
いつもよりR18ーGな記憶を読むことはない分、精神的には楽だったが…体力の限界だ。一体どれだけ個性を使う羽目になったんだろう。薬物なんて遠い世界の話だと思っていたけれど、意外と世の中に大量に出回っていて驚いた。僕が知らなかっただけみたいだ。
「はい、夜神くんのおかげです。麻取の方にもいい土産ができました」
「お役に立てて何よりです。疲れたけど…」
「寝てても大丈夫ですよ、着いたら起こします。…あ、その前に。職場体験の実習レポートはこちらである程度形にしておきましたので、問題なければ提出しておいてください」
後部座席でウトウトと微睡んでいると、運転席から、スッと手渡される紙の束。思わず受け取ってしまった後、中身を確認して思考がフリーズする。
なんだこれ、どう見ても僕が書いたようにしか見えない職場体験レポートがある。書いた覚えはないのに。
「問題しかないような」
「どこか変でしたか。筆跡は書類偽造班が完璧に模倣したと報告を受けていますが」
「いや、変じゃないのが問題というか…」
公安こわ。
扱き使う代わりに宿題を代理でやってあげよう!くらいの親切心だったんだろうことは想像がつくけれど。自分の筆跡がコピーされているのは率直に言って気味が悪い。彼らのやることに今さら突っ込み始めても仕方ないのだが。
はぁ、なんかもう考えるのに疲れた。今は一刻も早く家に帰って寝たい。頭痛い。
今は5日間の職場体験(これを職場体験と言っていいのかという謎は残るが)を無事に終え、帰宅するところ。東京の自宅まで送ってくれるらしいので、お言葉に甘えている。
今回初めて知ったことだが、薬物乱用者の記憶を読むのは普段とはまた違った疲労がある。記憶だとかが千切れ飛んであちこちに散らばってるから、寄せ集めるのが大変なのだ。
結局、薬物を流通させている大元として浮上してきたのは死穢八斎會という指定敵団体。もともと公安やヒーローの監視下にはあったようだが、その監視の目をかいくぐって違法薬物の売買をしていたらしい。大胆な行動をとるものだ。
「そういえば、死穢八斎會に小さな娘さんっていますか」
「組長に孫娘がいたはずですよ。6歳かその辺りだったはずです」
「なるほど…組長の孫娘なら外にも出さずに箱入りに育てるものですかね?」
「何か視たんですか」
「構成員の一人が、小さい女の子向けのおもちゃを買い漁るところが見えたもので…『外遊びに使うもんなんざ買ったら若頭にバラされちまう』 『ご機嫌取れるおもちゃなんざ知らねぇよ』 との発言も」
「若頭…治崎廻ですか。おかしいな、組長派と若頭派は対立しているはずなのに、孫娘は若頭が育てている…?」
治崎廻──ヴィラン名、オーバーホール。
僕でも名前を聞いたことがある。
ヤクザというものが廃れて久しいのに、未だに死穢八斎會が指定敵団体として監視される大きな要因だ。
今までに目立った犯罪歴はないが、治崎の周囲で不自然に行方不明になったものが多く、危険視されている人物。誰がどう見ても怪しいことこの上ないが、以前強制的に立ち入り検査をしたときは血痕一つ見つからなかったらしい。
『あそこの地下には近寄らない方がいいぜ。見ちゃいけねえもんがあるらしい』
『ああ、見たやつは若頭にバラされるって噂の』
『小さい子供の叫び声が聞こえるらしいぜ』
『一体何やってるんだか…親父が倒れてから好き勝手しやがって』
「その治崎って──」
薬物には関係がなさそうだが、視た記憶で気にかかる部分がある。公安だったら何か情報を掴んでいるか、と口を開いたそのタイミングで。
どぉん、と鈍い爆発音が響いた。遅れて、衝撃波で車体が揺れる。
なんだ、かなり大きな爆発だな。
周囲の車が一斉にブレーキを踏み停止する中、咄嗟に車の外に飛び出して様子を伺う。
視線の先では、遠く離れた場所で炎が上がっていた。
赤く照らされた夜闇の中、黒い煙がもうもうと立ち込める。街行く人のパニックの声と、連鎖する破壊の音。
…何が起きてるんだ?
「夜神くん。危険です、車内へ」
「少し待ってください。状況把握します」
事故なのか、事件なのか。それだけでも知らなければ下手に動くのも危険だ。
携行しているスコープを取り出し、重なるビルと立ち込める煙を透視してみる。
「…見えました、複数体の脳無が街を襲撃しています。確認できるだけで、飛行しているもの一体、地上にいるもの二体。敵連合による襲撃かと思われますが、黒霧、死柄木、目視できず。…三丁目のビルが火災、四階に女性が一名取り残されています。足を負傷」
「了解、すぐに近くのヒーローを急行させます」
「黄色い衣装のヒーローが脳無と交戦中。しかしこのままでは通行人が、」
かなり年めいて見えるヒーローが一人、脳無を蹴り飛ばしている。誰だろう、あんまり見たことのないヒーローだ。かなり強い様子ではあるけれど、脳無の方も通行人を襲うのを諦めていない。
このままでは死傷者が出かねない。
せめてもう数人、応援が到着してくれなければ──胸中を過ったそんな不安を打ち消すかのように。
眩い炎が視界の中で弾けた。
精密なコントロールの炎が脳無と市民の間に境界線を引いて遮る。…そうか、彼がヒーロー殺しを追って近くに来ていたのか。
「エンデヴァーが現着した模様。地上にいる脳無の対処は問題なさそうです」
ナンバー2ヒーロー エンデヴァー。
轟の話を盗み聞きしてしまった後では、思うところはある。けれども、今日のような事件現場であの姿を見て安心してしまうのも事実だ。
近くにいてくれたようで良かった。彼なら脳無ともやりあえる。
ある程度の状況を伝え終えると、公安の職員は各所に連絡を取り始めた。後手に回っている感は否めないが、これだけのヒーローが出動しているのだ、すぐに騒ぎは収まるだろう。
僕が今からあの現場に行ったって足手まといになる。ここは大人しく情報収集に努めるべきだ。
緑谷とかなら真っ先に飛び出していきそうだけれど…まぁそれは主人公特権だろう。僕には出来ない。
これが敵連合の仕業だとしたら、黒霧と死柄木もどこかから見ている可能性がある。見つけたところで今の状況では捕えることも難しいが、どこにいるか分かれば後からその場所の記憶だけでも視ることができる。探しておいて損はない。
そう思いつつ、街全体を透視しながら見渡した時。気づいてしまった。
見覚えのある白いヒーロースーツが、視界を横切ってゆく。
「…飯田?」
この時、一秒の迷いもなく他のヒーローに助けを求められていたら。
間違いなく僕の運命は変わっていた。
けれども、そんなタラレバを考えることほど不毛なものはない。
ただ茫然と彼の行き先を見守ってしまった僕の運命は、きっとこの時に決まっていたのだ。
時計の針は、進み始める。
◇◆◇◆
ビルの狭間──殺されかかっているヒーロー、刀を振り上げるステイン、乱入した飯田。
だめだ、ダメなんだ飯田。
そいつは学生だろうと、ヒーローを目指すに値しないと判断したなら殺す奴だ。そういう奴なんだ。今のお前じゃどう足掻いたって勝てやしない。
手が震えて仕方ない。ひゅうひゅうと喧しいこの音は、僕の呼吸する音だろうか。
遠く離れた地点で、友人が傷つけられている。地面にうつ伏せになったその肩が、ぎらついた刃で刺しぬかれて。頭を踏みつけられたまま、何か言葉を交わしている。
やめてくれ、お願いだから。
ばくばくと心臓が煩い。呼吸が、息ができない。
なんでもいい、誰でもいいから。
「リューク…リューク…飯田を助けてくれ」
『ク、ケケケ!!死神に無茶言うなよ。オレにいったい何ができるっていうンだ?』
「おまえなら…ノートでステインを止められるはずだ…」
『冗談キツイぜ。死神が人を助けるためにノートを使うのはルールに反する。オマエなら知ってるはずだ』
小さな声で呼びかけた言葉に、死神はケタケタと可笑しそうに嗤った。空中でくるくると、何が楽しいのか踊り続けている。そうだ、そうだろう。こいつがノートを人間のために使うわけがないのに、縋ってしまった。今は何でもいいから縋りたかった。
それに。つ、とその細長い指がゆっくりと持ち上がり、僕の左腕を指し示す。
『オマエにも、手段ならあるだろう?』
やるなら、自分でやれと。死神は愉しそうに首を傾げている。
ぐるぐると色んな事が一瞬のうちに頭を過った。後悔する羽目になるのは分かっていた。けれど。
それ以上、思考する時間すら僕には残されていなかった。血濡れた刃を、ステインが舐める。飯田の動きが止まって、
……
随行している公安職員は、関係各所への連絡で忙しい。周囲の人々はとっくの前に避難した。
誰も、僕を見ていない。
時計の文字盤の下から、するりと白い紙が姿を現す。
ここに至るまでの葛藤はともかく、行動自体は些細なものだ。
ただ、名前を紙に書く。それだけの行為。
震える文字が、もどかしい程にゆっくりと文字を刻んで行く。間に合え、早く、早く!!
40秒など待っていられない。
1秒でも早く、僕の友人を傷つける前に──死んでくれ。
【 赤黒血染 即死 】
書き終えると同時、震える手でスコープを覗き見た。
刀を振り上げたまま、ステインは微動だにしていない。
まさか、ノートは偽物だった?それとも僕の使い方が間違えている?
手汗で滑るスコープを何度も掴みなおしながら、ただ祈る。これ以上ないというほど真剣に。
不意に、ぱちぱちぱち、と乾いた音が耳に飛び込んできた。
『おめでとうさん、記念すべき一人目だ』
この場で僕にしか聞こえない拍手が空しく響く。
同時に、ステインが後ろに二、三歩たたらを踏んで。そのまま地面に倒れこんだ。
10秒が経過する。動かない。
20秒が経過する。緑谷が駆け込んできた。混乱している様子。
30秒が経過する。緑谷が飯田を助け起こし、ヒーローに声をかける。
50秒が経過する。緑谷が状況を把握したのか、ステインに心臓マッサージを開始。
60秒…100秒…200秒。
ステインは、まったく動かない。
他のヒーローも集まってきて、誰かが救急車を要請して…。
緑谷が心肺蘇生を始めた時。
これで息を吹き返してくれたら、まだ取り返しがつくんじゃないかなんて往生際の悪いことを思って…そんなはずないかと自嘲の笑みが零れた。運ばれてゆくステインは、先ほどまでの様子がウソのようにピクリとも動かない。ただ担架からはみ出した腕だけが、物のようにぷらぷらと揺れている。
「僕が、殺した」
『そうだぜ。お前が殺した』
三歳を前に記憶を取り戻したかつての僕は、誓ったはずだ。この先、ノートを手に入れても絶対に使わない。人など殺してたまるか、と。
けれどどうだろうか。手に入れてたったの一ヶ月。たった一ヶ月で、もう人を殺してしまった。
「違う、違う…仕方ない、飯田を助けるためだったんだ、だから、」
『おうおう、そうか。そりゃ仕方ねェなァ』
「あちらの騒ぎもおさまったようです。我々も移動しましょうか。…夜神くん?どうかしましたか。顔色が悪いですよ」
「……個性の使いすぎでしょうか、気分が悪くなってしまって」
「そうですか、分かりました。休める場所を手配しますので少々お待ちを」
何よりショックなのは、人を殺してしまったのに、自分がどこか冷静だという事実だ。
もっと叫び出して泣き喚いて、どうしようもないほど狂えたら、自分がまともな人間だと思えたのに。
ただ手足が冷たくなって、動悸が激しくなる程度。まだ人目を気にして取り繕える程度の理性がある。
僕は、いたって普段通りの自分のままで、人を殺したんだ。
紙に名前を書く。
それだけで人が死ぬということ。
知識として知っていたことが、現実の手段として僕の手の中で重みを主張してくる。
ああ、これは──
「(引き返せない…)」
さようなら、ステイン。
僕に殺意を教えてくれた人。
自分の理想のために人を殺すお前が嫌いで仕方なかったけれど…僕はきっと同じ道を進むことになるだろう。
時計の針は刻々と進む。
いつか壊れるその日まで。
やめて!デスノートなんていうチート能力を使われたらヒーロー殺しの命が危ない!お願い、死なないでステイン!あんたが今ここで倒れたら、あんたの思想に憧れて敵連合に加入する予定だった荼毘やトガちゃんはどうなっちゃうの?原作のストーリーはまだ残ってる。ここを耐えれば、贋物のヒーローを殺し尽くせるんだから!次回「ステイン死す」デュエルスタンバイ!
※今話で死んでます
あーあー、使っちゃった。あんなに使わないって言ってたのに〜
即死って書いたら40秒待たずに心臓麻痺で死ぬのは映画版「Light up the NEW world」のみの設定ってwikiには書いてましたが、40秒も待つ余裕がなかったので、ステインには即死していただきました