夜神月に成り代わってヒロアカ世界に転生したけどデスノート絶対に使いません! 作:佐久間2525
「今回、君の命が助かったのは幸運だったワン。ヒーローを目指すなら、考えなしの行動は厳に!!慎むように!」
保須市立病院、中央棟の一画。
聞き覚えのある声が薄らと耳に届いたと同時、ガラリと扉が開いた。ヒーローと連れ立って病室から出てきたその人は、廊下に佇む僕に気が付いた様子で、目を丸くしている。
「もしかして君、ライトくんかい?」
「はい、お久しぶりです面構さん」
「いやぁ大きくなったワン。今日はお友達のお見舞いかな?」
面構犬嗣さん。保須警察署の署長だ。父の部下だった時期が昔あって、小学生のころ何度か遊んでもらった記憶がある。職務に忠実で堅苦しいところもあるが、普段は気の良いお茶目な人だ。ちなみにボール投げが好き。
「はい。もう面会しても大丈夫だと伺ったのですが」
「事情聴取も終わったからね、もちろん大丈夫だワン」
そうか、警察が何の用かと思ったら、事情聴取があったのか。考えればそれも当然だ。飯田の目の前であのヒーロー殺しステインが命を落としたわけなのだから、警察としては事情を聴かざるを得ない。
…警察の結論としては、彼は心臓麻痺による死亡と判断されたのだろうか?それとも事件性があると見做して捜査を続けている?
僕は今、挙動不審になっていないだろうか。鼓動が早くなりつつあるのを自覚しながら、何とか笑みだけを顔に張り付ける。笑え、夜神月。震えなんて起こすんじゃない。
「ライトくん?」
「…はい、どうかしましたか」
「いや、なんだか表情が暗く見えてね。何か悩みでもあるんだワン?」
「署長さん、そりゃ友達が怪我をして入院してるんです。心配で顔色も悪くなりますよ」
「ム、確かにだワン。無神経なことを言ったね」
「いえ、そんな…。えっと、あなたは…飯田が職業体験でお世話になった方でしょうか?」
「そう、ヒーローマニュアルです。以後お見知りおきを~なんて。しばらく教育権は剥奪されるんだけど。アハハ」
「笑い事じゃないワン。まったく」
引き留めてすまなかったね、と面構さんはマニュアルと二人去って行った。その背中を、ただじっと見つめる。
疑われなかった。そのはずだ。証拠など残るはずもない。
大丈夫だ、バレない。バレていないはずなんだ。
僕にとって、警察もヒーローもいつだって頼れる味方だった。
父さんの知り合いの人たちはみんな優しくて尊敬できる人たちばかりだったから。
「将来は警察官かな?」「ヒーローもいいけど、警察だってカッコいいぞー」と掛けられる声に、皆さんがカッコいいのは知ってますよなんて生意気言ったりして。
なのに、どうだろう。僕は彼らを前にして身構えている。怯えている。
それが、無性に悲しくて仕方がない。
「(僕もまるでヴィランみたいだな)」
内心そんなことを思って、まるでではないか、と自嘲の笑みが零れる。
飯田に会う前に表情を取り繕っておこう。もっと上手くやらねば。
頬を数度軽くたたき、僕は病室のドアを開いた。
◆◇◆◇
『職場体験中、独断でヒーロー殺しを追って路地裏に入り、飛び掛かったものの返り討ちに遭って負傷。個性を使われて動けなくなっていた時に、ヒーロー殺しが突然倒れたと。…襲われていたヒーローの証言とも一致するワン。随分な無茶をしたものだね』
他人から自分のとった行動を告げられて、ようやく頭が冷えたような感覚がした。
僕はどうしてあんなことをしてしまったんだろう。兄さんのヒーローの道が断たれた憎しみで、我を失っていたとしか言いようがない。
警察の人からは、倒れる前のヒーロー殺しの様子だとか、交わしたやりとりだとか。色々聞かれたけれど、僕はちゃんと答えられていただろうか。
「やあ、飯田。怪我の調子はどう?」
「夜神くん!わざわざお見舞いに来てくれたのか」
かけられた声に、思考を引き戻される。りんごが入ったバケットを床頭台に置いた夜神くんが、心配そうな表情でこちらを見つめていた。保須まで様子を見に来てくれたのか。
「幸い、神経などは傷ついていないみたいでね。後遺症もないよ」
「良かった…。本当に心配した」
包帯の巻かれた肩を痛ましげに見つつ、彼はゆっくりとベッド横の椅子に腰掛ける。そんな顔をさせる自分が情けないやら、優しい友人を持てて嬉しいやら…。複雑な心境だ。
「退院はいつになるの?」
「2日後かな。血液の付着した刃で傷つけられたから、色々と検査する必要があるらしい」
「そっか、感染症とか怖いからね。何もないといいけれど」
そこから、しばらくたわいもない話をした。
午前に緑谷くんと轟くんが来てくれていたので、2人から聞いた職場体験の話だとか。相澤先生にまた無茶なことをしやがってと怒られて、それがどんなに怖かったかとか。
夜神くんは笑って聞いてくれたけれど、その表情がどこか凪いでいるように感じるのは気のせいだろうか。なんというか、作られた表情、のような気がする。確証は持てないのだけれど。しかしそれに言及するほどの根拠は持てず、上滑りする世間話を繰り返すしかなかった。
…
「…本当に、馬鹿な真似をしてしまった。兄の仇をとらなければと、それしか頭になくて」
会話が途切れて、病室に沈黙が落ちた瞬間。
不意に、ポロリと押さえ込んでいた心情が零れ落ちた。
弱音とも懺悔とも呼べる不安定な言葉。それを、夜神君はただ静かに聞いてくれている。
「 『殺してやる』って思ったんだ。ステインを見た瞬間。…はは、ヒーローにあるまじき考えだよな。あの男にも指摘されたよ。目先の憎しみにとらわれて私欲をみたそうだなんて、ヒーローから最も遠い行いだって」
「……」
「悔しいけど、納得もした。兄さんだったら同じ状況でも、まず傷ついた人を助けただろうから」
その兄を贋物だと言い切る時点でヒーロー殺しの見る目など信用していないが。それでも、自らがヒーローに相応しくないという点については否定できなかった。
「本当に死ぬかと思った。体が動かなくて…振りかぶられた刀から血が落ちてきて」
首筋に落ちてきたそれがやけに冷たかったのを覚えている。ポタリ、ポタリと血が滴り落ちてくるたびに、ああ現実なんだな、僕は何もできずにここで死んでいくんだなって自覚して。1秒が永遠に感じるほどに長く感じた。
「ステインが倒れた時、何がおきたのか分からなかった。緑谷くんに助け起こされて、ようやく自分が死んでないって気がついた」
「…本当に急に倒れたんだね」
「ああ。心臓麻痺だったらしい。…僕は、恥ずべきことに。喜んでしまったよ。ああ、兄を再起不能にした奴が!死んだ、死んでくれたって!」
言葉にするたびに自分の浅ましい正体が露呈していく。これを聞いている友人はどんな顔をしているんだろうか。顔を上げることも、引き攣るように動く口を止めることもできはしなくて。
「ザマアミロって、今まで死んだ人の恨みを思い知れって…!僕が何かできたわけでも、誰かを助けられたわけでもないのに!!ヒーロー殺しが死んでくれて嬉しいって思ってしまった!!」
ぼたり、ぼたりと大粒の涙が溢れた。面会に来てくれた家族にも、警察にも、緑谷くんにも。誰にも言えなかった本音を、僕はなぜ夜神くんにぶつけているのだろうか。こんなこと聞かされたって、優しい彼が困るだけだとわかっているのに。
「〜ッ、僕は…ヒーローを目指していい人間なんかじゃ…ッ」
「それは違うよ飯田」
ずっと、心の奥底で押さえ込んでいた本音がこぼれ出た瞬間。そっと、両手を握り込まれた。
優しい温度で返された言葉に、弾かれたように顔を上げる。
夜神くんは笑っていた。
先ほどまでのどこか繕ったような笑みではなく、心の底から湧き上がるような笑み。
「ステインには天罰が下ったんだ。自分の理想のために、人を殺すような悪い奴だから。神様が見てたんだよ」
「え…て、天罰…?」
うん、とどこか幼なげな様子で頷く彼の瞳は、どこまでも澄み切っている。真っ直ぐ、ただ真実しか話していないかと主張するようにキラキラと輝いて。
「飯田は人のために率先して働けて。家族を大事にしてて、ヒーローになるための努力を惜しまない素晴らしい人だから。神様がこんなところで死ぬべきじゃないって考えたんだ」
「…夜神くん」
「ヒーローになってよ飯田。ステインのことを気に病む必要なんかない。因果応報なんだから。それより、これから救う幾万人のことを考えよう!」
今までになく、夜神くんの表情は明るかった。決して僕を励ますためだけに嘘をついている様子ではなくて。本心からそう思っているんだろうなと伝わってくる。
彼の様子がどこかおかしいと頭の端で思ったけれど、それ以上にこの時の僕は心が疲れていたから──救われたような気持ちの方が大きくて。
「…僕は、ヒーローを目指してもいいと思うかい」
「当たり前だろ。クラスの誰だって同じことを答える。飯田なら誰より速いヒーローになれそうだ」
握り込まれた手がそっと解かれて、握り拳が代わりに差し出された。それにコツン、と自分の拳を合わせて、一呼吸。
「…ありがとうッ。僕は…兄さんと君に恥じないようなヒーローになるよ!」
◆◇◆◇
『神様が見てたねぇ。大きくでたなァ、ライト』
「別に新世界の神とか大層なものを自称してるわけじゃないよ。ただ僕もお前も、死神には違いないだろ?」
『なるほど?』
病院からの帰り道、ふよふよと浮かぶ黒い影と青年が言葉を交わす。
『しっかし急に吹っ切れたなオマエ。昨日の夜、一睡もできないくらい泣いてたくせに』
「僕の友達がなんでこんなに苦しまなきゃいけないんだろうって考えてたら、やっぱり想像を絶するような悪人がいるのが全部悪いなと思って。頭良くないのにアレコレ考えたのが良くなかった。単純明快。善人が得をする世の中にしよう」
『あーあーあー。振り切っちまってらァ。2日前の自分と会話してみるか?向こうが卒倒すると思うぜ?』
「一回ノートを使っちゃったらこうなる予感はあったんだよ。犯罪者嫌いだし。理性とか弱い方だし。だから絶対に使いたくなかったのに。…でも飯田が助かるのはいいことだから、ノートを使ったのは間違ってなくて…。でも人を殺したんだから僕が悪人であることに変わりもなくて。だから…
…? あれ、どうすべきなんだっけ」
この人間は本当に気が小さい生き物だなァ、と。また思考のループを始める様子を見て死神は哀れに思った。これはこれで大変に面白いのだが。
なまじ環境的に恵まれて、能力にも恵まれているのが余計に哀れだ。
「警察もヒーローも一般人も絶対殺さない。それさえ守れたら大丈夫。僕は間違えてない。…でも人を殺すのは許されないことだから最初から間違えてるわけで。あれ、どうしたら…」
『おーい、またループ入ってンぞー』
でも流石に壊れたおもちゃを見守る趣味はないので、ほどほどで耐えて欲しい。頭でも叩いたら直らないだろうか。
◆◇◆◇
なんだか上手くいかないな。
じわじわと真綿で首を絞められているような、そんな感覚がする。
「義燗が逮捕された?」
「ええ。麻薬取引の仲介もされていたようですけれど、そちらで逮捕されたようですね」
「あの大物ブローカーがずいぶん間抜けな理由で。…足取りを掴ませるような男ではなかったはずだけれどね」
「我々との接触はまだ一度だけです。このアジトの場所も知らせてはいないので問題はないかと思いますが」
人材を仲介してもらうにはもってこいだったんだけれどな。ここ数年の警察…というか公安か。彼らはずいぶんと優秀みたいだ。それなりにいい人材に限って間引かれるので、正直鬱陶しい。傷の療養と、オールマイトの動向に気を配っていたから最近は放置気味だったのが不味かったかな。いい個性持ちでも入ったのかもしれない。ホークスもかなり優秀だと聞くし…また調べさせなければ。
超常黎明期、個性というものが生じ始めたその第一世代から裏の世界に浸ってきた僕の信条。プランはいくつも用意しておくこと。1つの糸が切れても構わない、他につながっている糸さえ残れば、どうとでもなる。雄英に入れていた内通者が逮捕されたのもそうだ。別にバレたっていいし、それで疑心暗鬼になってくれたりしたらとても嬉しい。そのくらいの感覚。
しかし、最近はその糸が思うように伸びない。垂らし始めたその瞬間に察知されている、そんな感覚だ。
「ざまぁ見やがれヒーロー殺し!!あんな大層な口きいて道半ばで死にやがった!!あっはっはぁ!!」
ニュースで流れるヒーロー殺し死亡のニュース。
保須を襲った脳無たちのことも大きく取り上げられ、『雄英襲撃の敵連合、保須を襲撃!?』『敵連合、ヒーロー殺しと敵対か!?』『ヒーロー殺し死亡 警察関係者が語る真実 死因は病死?』なんて取り上げられている。弔はこのとおり、大喜びだけれど、あまりいい状況ではない。
ヒーロー殺し、ステイン。彼の信念は本物だった。あれはシンパを作れるタイプだ。連合に人を増やすうえではこの上ない広告塔になっただろうに…。彼と弔がソリが合わないところまでは読めたが、まさか死ぬとはね。僕の計画力もまだまだだな。
敵連合のメンバーと呼べる存在は未だ黒霧と弔だけ。弔はヒーローへの憎悪は順調に育っているが、まだ信念に深みがない。人を引き付けるだけのカリスマが不足している…。義燗も多分すぐに檻から出てはくるだろうが、警戒心の強い彼のことだ。しばらく潜るだろう。人材紹介はアテにできない。
かといって僕が今、表にでるのもなあ…。
「…いや、待てよ」
弔を成長させる上ではそれもあり、か。
一度派手にオールマイトとでもやり合って弔の前から姿を消せば、嫌でも危機感をあおられるはずだ。敵連合の宣伝にもなる。
僕もいい加減、新しい身体が欲しい。ドクターお手製の機器で命を繋ぐのにも限界を感じるところだし。そのためにも早く弔に目覚めてほしい。
さて、やるにしても派手にやりたいところだ。やはり、雄英を狙うべきかな。
内通者は1人排除されたけれど、別にやりようがない訳ではないからね。
「ふふふ、今度こそキミを殺せるかなオールマイト」
そろそろ弔の正体を教えてやってもいい。お前はどんな顔で聞いてくれるんだろうか。ああ、楽しみだな。考えるだけでワクワクしてきた。
この世界は僕の箱庭。
誰もが僕のおもちゃだ。
次の遊びが楽しみだな。
SAN値チェック失敗、1ターン発狂する(次話には「神様とか何いってんだ僕…」と我に帰る模様)
後半は人間を面白い観察対象としてる二者をならべてみました。邪悪だね
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