夜神月に成り代わってヒロアカ世界に転生したけどデスノート絶対に使いません!   作:佐久間2525

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第十三話 救済

 

 

 

鋭いメスが白い肌の上を滑る。

まだ柔らかい子供の皮膚がパクリと割れて。赤々しい血液がゆっくりと滴り落ちた。

 

…っっぎ、ぃぃ…!ぁッ、あッ……!!うぅ、う…っああ゛ッ!!?

『うるっせぇな〜。若、麻酔使っちゃダメなんですか。耳がイカれそうだ』

『ダメだ、不純物が混ざるとクスリの効果が落ちる』

 

ペストマスクをつけた男が二人。

メス、ペンチ、注射──血のついた器具を傍に放り出し、「あと採取していない組織はどこがあったか」「眼球とかどうでしょうね」などと話し込んでいる。

 

悲鳴で潰れた喉、泣き腫らして開かなくなった目、痛みのあまり食いしばって砕けた歯。

まだ幼い少女のそんな痛々しい様子にも頓着する様子もなく。実験動物でもみるかのような眼差しを注ぐ男たち。

 

『あ、やば。静かだと思ったら死にかけてる』

『ハァ。修復するのにも時間制限がある。バイタルはよくみておけ』

『すいやせん』

『おい壊理。起きろ。まだ今日の分が終わっていない』

『…あ。え…、あ、あぁ…!もっ、やだっ…!だれか助けてッ……!

 

ガタガタと震えながら少女は懇願する。白い髪を掻きむしり、血を吐くような様子で。

 

『もう忘れたのか?お前が助けを求めた奴は全員死んだ』

 

ガシリとその小さくまろい頬を掴み、男は嗤う。

 

『お前にヒーローは来ない。お前は呪われた子だ。お前に関わるとみんなが不幸になっていく──』

 

その口から呪いの言葉が次々とこぼれ落ちて、その子の目が絶望に暗く染まっていく。

 

あ、あ…と少女がうわ言しか発せなくなったところで。

 

『ニンゲンって残酷な生き物だなァ。ケケケ』

 

地下で行われていた惨劇を見つめていた死神は翼をはためかせた。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

ぅおぇッ…!

『中々イイ趣味してる奴らだったなー。死神のオレもドン引きだぜ』

 

触れていたリュークの手を投げ捨てるように放し、咄嗟にゴミ箱を抱え込む。

 

なんだ、なんなのだアレは。

予想していたことよりもずっと酷い。人間の所業ではない。

 

サイコメトリで凄惨な現場はいくつも見てきた。人を痛めつけるのが好きな犯罪者もいたし、彼女のような幼い子供の悲鳴が好きな犯罪者もいた。どいつもこいつも、反吐が出るような奴らだ。悲しいことに、見慣れてはいる。

 

けれど今回のことには──終わりがない。死という終わりが。

壊されて、治されて、また壊されて。今この瞬間もあんなに幼い子供が地下深くで切り刻まれている。誰かに助けを求めることも許されず、自分の存在を否定されながら。

 

「殺さないと、今すぐ、あのクズどもッ…!!」

 

二重底になった引き出しの下、厳重に隠した黒いノートを取り出す。

 

おそらく、今日知り得たことをヒーローに伝えても公安に伝えても、事態はすぐに動かない。証拠もなく捜査令状は降りないだろうし、仮に僕の証言だけを基に家宅捜索をするにしたって人員を集めるために時間がかかる。

その間、あの幼い少女は冷たい地下で切り刻まれ続けるのに。

 

それに、全てが上手くいって治崎たちを全員逮捕できたとしよう。断言する。彼本人は決して死刑にはならない。

 

第一に、児童虐待、監禁罪、個性不法使用、薬物密造…いくつも刑罰は与えられるだろうが、殺人罪ではないから、死刑の条件に当てはまらない。なんせ彼女は死んでも生き返っている。

 

第二に…他の殺人がどうにか立証できたところで。あの便利な個性持ちを国が死刑になどするものか。

 

あの男が生きている限り、少女の心に安寧は訪れない。いつかまた切り刻まれる、壊される、大切な人を殺される──そんな恐怖に苛まれながら生きていくことになる。そんなのはおかしいじゃないか。

 

「僕だけがあの子を助けてあげられる」

 

治崎廻。すでに公安の資料で名前は見た。

 

殺せる。僕なら今、この瞬間に。

 

激情のままに名前を書こうとペン先を紙に触れさせた。黒いインクが紙に染み込んで…名前の形を成す前に、止まる。

 

「ッ、ふぅ…。駄目だ、冷静になれ。いま治崎だけを殺してもあの子は救われない」

『なんだ書かねェのか?』

 

ニタニタと。先ほどの惨状を見てきたばかりだというのに愉しそうな様子で死神は首を傾げる。

 

「必ず殺す、それは決めた。けど…やるべきことをしてからだ」

 

調べ物をしなければいけない。

 

「本当にごめん。少しだけ待たせるよ、壊理ちゃん」

 

必ず助けるから、どうか。生きる希望を捨てないで欲しい。

そう内心で呟いて、僕は出かける準備を始めた。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

見覚えのない番号から電話がかかってきた。出るかどうか一瞬迷い、警戒しつつも通話ボタンを押す。

 

「…」

『こんにちは治崎。義燗に紹介されたものです』

「…奴は先週に逮捕されたはずだが」

『彼が豚箱に行く前に聞きましてね。イイ商売の話があるとか。趣味で投資をしているんですけれど、詳しい話を聞くことは可能かな?』

 

ボイスチェンジャーを利用したそいつは松田と名乗った。あからさまな偽名だが珍しいことではないので流す。

確かに義燗にしか話していない内容をそいつは知っており、紹介というのは嘘ではなさそうだった。

 

丁度、研究のための資金が尽きてきて焦りを感じていたタイミング。話だけでも聞いておくべきか、と先を促す。

 

『私は小心者でして。人目のあるところで会いたいのですが、明日の朝10時に駅前のカフェはいかがですか』

「ハッ、そんなところでなんの話が出来ると言うんだ?」

『危害を加えられないと確信できたら、そちらの指定の場所に移動しますよ。詳しい話はその時にしましょう』

 

…向こうのペースで話が進むのは気に食わないが、まぁイイだろう。こちらには音本がいる。何を企んでいようとあいつの個性があれば嘘などつけないのだから。

 

「駅前のカフェに10時だな。分かった」

 

 

 

「おい。音本のやつはどうした」

「すいやせん、それが部屋にこんなものが」

 

約束の時間が迫る中、肝心の部下の姿が見えず苛立つ。すると玄野が一枚のメモ用紙を渡してきた。

 

【若、申し訳ございません。夜間に体調を崩しましたため救急病院に行ってまいります。若の手を煩わせることは自分で許せず…不本意ですが医者を頼ります。今日の取引に同行できない不義理をお許しください】

 

「…別にバラして修復ぐらいしてやったのに」

「個性を使わせるのが申し訳なかったんでしょうね。どうします、取引を延期にしますか」

「いや、次があるとも限らん。顔合わせだけでもしてこよう」

 

タイミングの悪いことに、頼りの部下は体調を崩したらしい。俺の個性を使えば一瞬で治ったものを、面倒な。俺を崇拝に近い域で慕ってくれるのはいいが、こういうところで使い勝手が悪い。

 

まぁ今日は軽い打ち合わせで終わらせてもいい。たまには部下に休みをやろう。

 

 

 

やってきた男は老人のような白い髪にサングラスをかけた男だった。服装はいかにも成金といったいで立ち。足首や二の腕に白蠟のような手のアクセサリーをつけているのが何とも気持ちが悪い。

 

「やあやあ治崎さん、初めまして。松田です」

「…どうも。いいお話ができるといいですが」

 

差し出された手を、嫌々ながら握る。手袋越しなら、まだギリギリ耐えられる──そう思った瞬間、全身に蕁麻疹が広がった。あろうことか両手で握手をしてきたそいつの手が、俺の手首…素肌に触れている。

ああ、汚い!気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い!

 

バッ、と手を振り払うと驚いた様子の男は固まっていた。

 

「…あれ、すみません。何か気に障ることをしてしまいましたか」

「すみません、どうも潔癖のケがありましてね」

「それは申し訳ない!」

 

大袈裟にワタワタと手を動かして謝罪する様子から見ると、わざとではないらしい。一瞬、苛立ちのあまりに殺しかけたが、流石に人目のあるところでそんな行動を起こすほどに短絡的ではない。すでに取引などどうでもよく、帰りたい気持ちになりつつも席にはついた。

 

「それで仮に出資させて頂いたとして、利益は9:1でどうですか?」

「…それはもちろん、こっちが9、という話だよな?」

「いいえ?私が9割、頂きます。聞いたところによるとまだ完成品もない研究ということで…妥当な線かと思いますが?」

 

ニコリと笑う様子は、どう考えてもこちらを見下している。ふざけるなよ、何が9:1だ。馬鹿にしやがって。

チッ、また無駄足を踏まされた。

 

「おや、どちらへ?」

「どうやら取引をする様子がないようだからな」

 

乱雑に席を立つ。目の前の男と取引することはない。

ただの成金に、こうもふざけた条件をふっかけられるのも。ヤクザという存在が舐められているからだ。時代の遺物だと誰もが俺たちを下に見ている。

低脳な輩どもめ。今に見ていろ。クスリさえ完成すれば裏社会を牛耳るのは俺たち死穢八斎會だ。

 

「帰るぞ玄野」

「…あの男、始末しやしょうか」

「やめろ、ここはヒーロー事務所が多い」

 

それも含めての場所指定だったんだろう。申告の通り気の小さいやつだ。殺してやりたいのは山々だが、今は騒ぎを起こすわけには行かない。雌伏の時なのだ。

 

「いずれ殺す。その時にようやくあいつも後悔するだろうさ」

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

白い紙に、名前が刻まれる。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

ピッ、ピッ。電子音がかすかに聞こえる。

重い瞼を開くと、ぼんやりと天井の明かりが見えた。

 

「…俺ァ、一体…」

 

何をしていたんだったか。掠れた声をこぼすと、ベッドの脇に立っていた影が慌てた様子で顔を覗き込んでくる。

 

「親父っ」

「…治崎か」

 

ああ、そうだ思い出した。こいつと話をしている最中、個性を使われたのだった。眉を下げてこちらを見つめる様子に、重苦しいため息が漏れる。

 

「すまない、本当にすまない親父。あんたにもらった恩を仇で返すような真似してっ」

「…あの子は…壊理はどうした」

「……」

 

黙り込む様子を見るだけで分かる。まだあの、人を人と思わぬ実験を繰り返しているのだろう。あの子には可哀想なことをしてしまった。どんなに苦痛を強いてしまったことか。

 

「何度も言っただろう。仁義を忘れちゃ俺らみたいなもんは終いなんだ。人としての道を忘れちゃいけねェ」

「…あぁ」

「組のことはもういい治崎。あの子を解放してやれ」

「そうだな…そうだ…」

 

俺は一体どれだけの間眠っていたのだろうか。体が重い。それでも伝えるべきことを目の前の男に教えなければならない、と掠れる喉から声を振り絞る。意外にも、治崎は素直に頷いた。

 

「実は、部下を連れて組を離れようかと思っているんだ」

「そいつは…」

「親父にあんまりにも不義理をして…耐えられなくなった。壊理も組の外に出すよ」

 

一体、眠っている間に何が起きたというのだろうか。まるで別人のようなことを言い出す治崎に動揺が隠せない。

 

「おい、待て。一体何が…」

「今までありがとう親父。あんたに拾われなきゃ俺はここまで生きてこれなかった。…すまない、恩を返せなくて」

「治崎、おいっ、治崎!!」

 

そんなもの、まるで最期の言葉のようではないか。引き留めようと伸ばした手は服を掠めるだけで僅かに届かず…そうして、二度と言葉を交わすこともなかった。

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「外に出るぞ。こい」

「いっ…」

 

ぐい、と手を引っ張られる。きのう切られてまだ治されていないケガが、いたい。でも何かいうとまた怒られちゃうから、グッと我慢した。

 

「乗れ」

 

見たことない大きな車。高さが届かなくてどうしようかと迷っていると、脇に手を入れて持ち上げられた。車の後ろに、知ってる人も知らない人もたくさん乗っている。

 

そのまましばらく車は遠くまで走っていた。どこに行くんだろう。

背が足りなくて、窓の外は見えない。けど空だけはみえた。オレンジ色の綺麗なお空。いいなぁ、ずっとみていたいな。またあの白いお部屋に戻るのかな。

 

「降りろ」

 

ああ、もう楽しい時間が終わってしまう。けれど、いやだなんて言えるわけない。今度は手を借りなくても、ジャンプでおりられた。ここで何をするんだろうか。

 

「ヒーローが来るまでここに座っていろ」

「え…」

 

わたしは何か、ためされている?

ヒーローに助けてって言ったら、またおこられるのかな。

痛いことされるのかな。

ヒーローが死んじゃうのかな。

 

どうしたらいいか分からなくて、じっと、ただじっと座っていた。

 

 

オレンジの空がゆっくりと紫になって、暗くなる瞬間。目の前に誰かやってきた。

 

「そこの君、何か困ってる?ずっとそこに座ってるけどお家の人は?」

「ヒ、ヒーローが来るまですわってろって…」

「…!それは…!ごめんね、ちょっとだけ触るね」

 

服をめくってわたしの包帯に気づいてどこか慌てた様子のヒーロー。「こちらバブルガール、幼児一名を保護しました」どこかに電話しながら、抱き上げられる。いいのかな、このままヒーローについて行っても。

 

大丈夫かな、いいのかな…。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

[ 音本真

2146年5月27日

不在を怪しまれないための書き置きを自室に残し、連絡を取れるものは何も持たず、朝の4時に誰にも見られないように外に出る。人目がないタイミングで富士の樹海に入り奥深くまで歩いて進む。簡単には見つからない場所に身を潜め、身動きを取らずに衰弱死する ]

 

 

 

[ 治崎 廻

2146年5月28日 

個性消失弾に関する研究データ、試作品、研究施設を完全に分解する。研究破棄が完全に終了した後、死穢八斎會組長の脳を修復し、意識回復させる。自分は改心した、部下をつれて組を離れる、壊理も組から解放するといった内容を言い残し退出。

自分の派閥の部下をトラックの荷台に、組長の孫娘の壊理を助手席に乗せ、国道〇号線を北上する。道中で壊理を〇〇市中央通りにおろし「ヒーローが来るまでここに座っていろ」と言いつけてその場を去る。部下を乗せたトラックを再び運転していたところ、崖崩れで巨大な岩が落下してきたため16:58に個性を使う間も無く圧死する ]

 

[ 玄野 針

2146年5月28日 

治崎の研究破棄を妨害せずに見届ける。治崎派の構成員、32名に声をかけて本部に招集しておく。治崎が運転するトラックの荷台に乗り込み、崖崩れで巨大な岩が落下してきたため 16:58に個性を使う間も無く圧死する ]

 

[ 入中 常衣

2146年5月28日 

治崎の研究破棄を妨害せずに見届ける。治崎派の構成員、32名が乗り込めるだけの10tトラックをレンタルし、本部前に用意しておく。治崎が運転するトラックの荷台に乗り込み、崖崩れで巨大な岩が落下してきたため 16:58に個性を使う間も無く圧死する ]

 

[ 窃野 トウヤ

 

・・・

・・

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

ニュースで流れる事故映像を眺めつつ、黒い死神は首を傾げる。

 

『お前が迎えにいかなくてよかったのか?』

「やっぱり助けられるならヒーローにじゃないと。それにこの件には既に直接動きすぎてる。映像も証拠も何も残してないけど、これ以上はまずい」

『ふゥん…なんかやることが回りくどいな』

「あの研究は世に残しちゃいけない。あの子が不幸になるだけだ。方法を知ってるやつは全員消さなきゃ意味がなかった」

 

投資を持ちかけるフリをして直接、治崎から読み取った情報だ。漏れは無いはず。

 

何だか疲れた。

僕はこれで何人殺したんだろうか。数ページにわたって名前と死因を書き続けたノートをなぞる。僕が、僕の意思で犯した殺人の証。

 

でもこれであの子は救われたんだから、正しいことをしたはずだ。

 

原形も無くなったトラックが映された画面を、じっと見つめる。

ニュースが次の話題に切り替わっても、ただ、じっと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




Q.細々とやるって言ったのに派手にやってませんか?
A.派手にやりましたね…

Q,これだと壊理ちゃんの心がまだ救われていないのでは?
A,次話以降でふれます

Q,治崎と直接接触するのは流石に危険すぎませんか?
A,前話でお父さんと来た(下調べした)カフェです。ヒーロー事務所が多い地域で、人の目が多く、それでいて監視カメラは少ないお店をチョイスしました。白髪で手をあちこちにつけた男が話していたという証言くらいは残るかもしれません

Q,なぜ組長を修復させたんですか?
A,治崎の死で組が瓦解して、敵連合に取り込まれたりしたらまずいなと思ったためです。

Q,色々ツッコミどころが多くありませんか?
A,作者の頭が良く無いからです。ごめんなさい。
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