夜神月に成り代わってヒロアカ世界に転生したけどデスノート絶対に使いません!   作:佐久間2525

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壊理ちゃんの心の傷に触れていく話です。


第十四話 傷口

 

 

 

「壊理。なんだその目は」

 

白い部屋が、目に焼き付いている。あの人はその中で一際目立つマスクをつけて、いつも嫌そうな顔でわたしに触れた。

 

「お前が痛い目に遭っているのは、俺が悪いとでも思ってるのか?違うだろう」

 

わたしが…わたしが悪い?

毎日壊されて、治されて、また壊されて。切り刻むのはいつもこの人なのに。

 

「お前の個性は呪われた力だ。病気なんだ。俺はただそれを治してやりたいだけなんだよ」

 

ぐるぐると言葉が頭の中で回る。わたしは悪い子、わたしは呪われている、わたしは…。

 

「そんな筈ないよ!一緒に外の世界に行こう」

 

わたしをこの部屋から連れ出そうとしてくれた人がいた。若い男の人だった。妹がいるんだって。おもちゃを買ってきてくれたの。ふわふわのクマのお人形。

 

カワイソウ、って。その人は言っていた。

「君みたいに小さな子がこんな目に遭うのは可哀想だ」「俺が連れ出してやるよ」って。

そっか、わたしカワイソウなんだ。ここから逃げてもいいんだ。

 

外の楽しい世界の話を聞いていると心がふわふわして、早くその人と遊びたいなぁ、ここから出たいなって思っちゃった。

 

「またお前のせいで一人死んだな」

 

それがダメだったみたい。お兄さん、バラバラになっちゃった。真っ赤な血の池になったその人に、クマの人形が沈んでいる。

 

「そもそも…お前が自分の()()()()()()のが全ての始まりだろう?」

 

わたしが殺した?お父さんを?

そっか、そうなんだ。わたしに関わったらみんな不幸になるし、この個性は呪われているし、助けなんか求めちゃいけない。それが正しい。

 

最初から全部わたしが悪いんだ。

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

ああ゛あああぁッ!?

 

目を開いた。また白い部屋。わたしは今ドコにいるの?あの人はどこ?また逃げようとしたって怒られる。

 

「先生、鎮静剤切れたようです!」

「注射見せるとまた恐慌状態になりそうだ…!」

「そんなに掻きむしっちゃ傷開いちゃうよ〜」

「睡眠個性持ちの、心療内科の先生呼んできて!」

 

周りが騒がしい。こんなにも沢山の人に囲まれるのは初めてだ。何も分からない。怖い、どうしたらいいんだろう。

 

「すまない、少し手に触れるよ」

 

メガネをかけた男の人に触れられて、目が合う。じっとわたしを見たその人は、確かヒーローだと名乗っていた。そうだ、ヒーロー。ヒーローに助けを求めちゃだめなのに。怒られる。怖い。どうしようッ!

 

「今のキミに私の声は届いていないかもしれないが。でも大丈夫だ、笑っている未来が見えた」

 

傷を労わるようにその手が優しく伸びて頭に触れる。その手すらも怖くて、でも温かさだけは心地よくて。

混乱した思考では、何も分からない。

 

「ヒーローがキミを助けるよ、お嬢さん」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

Heyリスナー!朝のHR始めっから早く座れ〜」

「あれ、マイク先生?」

「相澤先生はー?」

 

ガラリと教室の扉を勢いよく開けたのは金髪のヒーロー。担任ではないことにクラスが若干ざわつく。

 

「イレイザーはヒーロー業の方でちょっとな。今日は俺が代わりにHR盛り上げていくぜYEAHHH!!

「い、イェーイ」

「朝からプレゼントマイクのテンションはキツイよー」

「頭に声が響く…」

ハイ、じゃあ連絡事項です。イレイザーが担当する予定だったヒーロー基礎学の時間が英語に変更になっから、教室間違えんなよー」

いや急に普通!

プレマイって普通の音量で喋れるんだ!?

 

アングラヒーローである相澤先生にこんな朝から依頼が来るなんて珍しい。

 

抹消ヒーロー、イレイザーヘッド。僕らの担任である彼は、その個性の特殊性を考えればもっと有名でもおかしくない一流ヒーローだ。

そんな先生の個性が必要になる依頼といえば何だろう。すごい個性を持ったヴィランが暴れてるとか?それとも一般人の個性事故かな?先生の活躍はニュースにならないから知れないのがもどかしい…!

 

「緑谷。ぶつぶつタイム邪魔して悪いけど、もう授業はじまるよ」

「ぅおわ、あ、ありがとう夜神くん」

 

色々と考え込んでいたタイミングで声をかけられて我に帰った。いけない、授業には集中しないと。

 

 

 

授業が終わった放課後。勉強に実技にと忙しくへとへとの状態だが、まだ僕の1日は終わらない。

 

「さて今日もビシバシ行くよ。フルカウル何%までいった?」

「ええと自主練だと8%かな」

「…思ったより伸びてないな。一回手触るよ」

 

体育祭前から始まった夜神くんとの自主訓練は、フルカウルを習得し怪我をしなくなった今でも続いている。

サイコメトリを発動していた彼はしばらく目を閉じて、数秒ほど黙り込んでいた。

 

「まず体づくり。筋トレの負荷が高すぎて逆効果になってる。あとでメニュー渡すからそっちで続けて」

「う、はい…」

「食事もオールマイトが言ってたことに憧れるのはいいけど。生卵一気飲みで気持ち悪くなるくらいなら素直にプロテイン飲んで」

「ハイ、ゴメンナサイ」

「睡眠。削らない」

ごもっともです…

 

サイコメトリで相手の生活から個性因子の状態に至るまで読み取る夜神くんのアドバイスは的確だ。職場体験の時にグラントリノから「短時間でよく鍛えてる」「俊典のやつも案外、師匠向いてんじゃねェか」などと言われたのも実のところ彼の功績が大きい。(オールマイトのために口は噤んだが)

 

「君には少しでも早く強くなってもらわなきゃ困るんだ」

「ん?何か言った?」

「いや、何でもないよ。…前に話した7人の気配。以前よりも濃くなってるからそろそろ変化があるかもしれないね」

「その、本当に個性因子に意思が宿ってるの?」

「何回も話しかけられたから間違いないよ。最近、やっと侵入者じゃないって認識されて追い出されなくなってきたから、何となくわかるんだ」

 

まだ会話はできないけどね、なんて言いつつ夜神くんは準備運動を始めている。OFAに意思が宿っているなんて…。オールマイトはそんなはずが、なんて狼狽えていたけれど。本当だったらすごい話だ。みんなの個性にもそれぞれ意思があったりするのかな。それって考えるとすごくワクワクする…!そういえば常闇くんの個性なんかまさにそうじゃないか。なるほど、ない話じゃない。

 

「そうなると個性っていうものはぶつぶつぶつ…

「ああ、また始まった…」

あ、いたいた!二人とも!!

 

呆れたようなため息と同時、大きな声が訓練場に響き渡って肩がはねる。訓練場の入り口を振り返ってみると、クラスのみんなが体操服姿で駆け寄ってきていた。な、何事だろう。

 

「う、麗日さん!?それにみんなも」

「どうしたの?僕らに用かな」

「いや、ここ最近の緑谷の成長すげぇよなって話題になってよォ」

「何でかなーって考えてたらいつも夜神くんと二人で特訓してるから、それに秘密があるんじゃないかと」

「考えたわけですよ!」

「俺らにもアドバイスくれよ夜神〜」

「そうだぜ、緑谷ばっかりズルいぞー」

「お願いヤガミン〜」

 

クラスのノリのいい子たちが中心になって手を合わせている。確かに、彼はアドバイザーとしてこの上ない人材だ。僕だけが独占しているのはよくなかったかも知れない。

 

けれど僕の特訓に夜神くんが付き合ってくれているのは、OFAに関する秘密をたまたま知ってしまったからだ。クラスのみんなの特訓までみるとなるとかなり大変ではないだろうか。と、そんな気持ちで彼の方に視線をやると、一瞬考え込んだ様子の夜神くんは頷いた。

 

「いいよ、訓練を見るくらい。緑谷さえいいなら、だけど」

「やりぃ!」

「まさかダメじゃねぇよな、緑谷!」

「あ、うん。それはもちろん」

「よっしゃ、ヤガミンずブートキャンプ参加権ゲット〜」

「宜しいのですか?夜神さんご自身の訓練の時間が削られてしまうのでは…」

「未来のヒーローが強くなってくれるならこんなに頼もしいことはないからね。よろこんで協力するよ」

 

ただし、僕の個性でみんなの個性因子をみると多少は過去とか見ちゃうからそれが大丈夫な人だけね。と注意喚起を一つ。みんなは快く頷いて、我先にと夜神くんに群がった。

 

「オイラの今朝読んだエロ本もバレたりするのか…!?」

「朝から読むなそんなもん」

 

「それでは夜神くんにアドバイスをもらうのにも時間がかかるだろうから、残りのメンバーは組み手でもしておこう!2人ペアを作りたまえ!!」

「気合い入ってんねー委員長」

 

「爆豪がこの手の集まりに参加すんの珍しいじゃん。どういう心境の変化?」

「…ッチ。うるせェな、俺の勝手だろーが」

 

クラスのみんな、一人一人の手を握りながら夜神くんがアドバイスをしている。本人も知らなかったような個性の使い方まで指摘していて、本当にすごい個性だなと感心してしまった。もちろん、そんなことができるまでに鍛えた夜神くんがすごいんだけれど。

 

「爆豪の個性は掌の汗腺から出る汗で放ってると思うんだけど、多分他の汗腺でもできるみたいなんだよね。ただ条件がシビアな上に、危険があって──」

「一発使っちまえば行動不能になるってワケか。上等だ、使いこなしてやんよ」

「ねぇねぇ、私はどうかな!」

「…お。葉隠さんの個性も可能性がすごいね。本質として光の屈折に関与してるわけだから…」

「ふむふむ、なるほど…」

 

何故だろうか、ああして人に囲まれている彼の姿を見るとどこかホッとする。

 

ふとした瞬間、夜神くんは何か悩んでいるんじゃないか、助けを求めているんじゃないかって無性に思うタイミングがある。でも根拠は何もない。いつも僕の勘違いかなと思って終わる。

 

本当に何もないならそれでいいけれど、何か悩んでいるのなら誰にでも良いから頼ってほしい。

 

だからああして。少しでも寄る辺が増えるのは良いことだなと、勝手ながら思うのだ。

 

「おい、夜神。ちょっと来い」

「相澤先生だ」

「もう用事終わったんすか?」

「いや、まだだ。自主訓練続けるのはいいが夜神はこのまま借りてくぞ」

「え〜」

「横暴だー」

「誘拐犯〜」

「不審者ぁ」

「俺らの夜神ちゃんをどうするつもりぃッ!」

「誰がお前らのだ、全く」

 

入り口から顔を出した相澤先生は夜神くんを手招きすると、一頻りブーイングを浴びてそのまま訓練場を後にした。

何だろう、相澤先生のヒーロー業の方で彼の力が必要になったんだろうか。学生にそうそう何かを依頼することってないイメージなんだけれど、夜神くんの個性ならあり得そうだ。

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

「お前のヒーローネームは結局、最初に発表したやつに決めたのか」

「はい。少し迷ってはいるんですけど…取り敢えずはあれで通します」

「ではヒーローとしての依頼だ。L 」

 

学生のお前に頼むことではないんだが。

悩ましげな様子で担任はため息をつく。

 

「とある少女が保護されたが、本人の恐慌状態がひどく名前も身元も不明。さらには何らかの個性を暴発させている」

「それは…」

「個性は俺の方で収められた。だが全身に傷があったこと、保護の状況から事件性が高いこと。以上の理由で一刻も早い身元の特定が必要と判断した」

 

俺は反対したんだが、ある人がどうしてもお前の力が必要だと聞かなくてな。相澤先生はそう説明を締めくくった。

このタイミングでの話、十中八九、少女とは壊理ちゃんのことだ。そうとなれば、僕に断る理由などあろうはずもない。

 

「もちろん。力になれるのであれば何でもします」

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

看護師に医師。そしてプロヒーロー二名と警察官が一人。大人がこんなに雁首揃えてちゃ圧迫感がすごいな。

少し下がってもらえますか、と無言のうちに合図して、病床で震える少女に近づく。

 

「初めまして。僕は夜神月といいます」

「ヒーロー名」

「あ。ええと、おほん。僕はLです」

「……」

 

「君のことを教えてもらいたくて来ました。お名前は言えるかな」

「……」

 

「今どこか痛いところはある?」

「……」

 

視線は合わない。可哀想なくらい顔を真っ白にして震える少女に、鎮火したはずの怒りがまた沸々と再燃し始めた。

 

僕は治崎視点での彼女については知っているけれど、こうして直接会うのは初めてだ。実際にこの目で見ると想像以上に幼い。あんなに酷い目に遭って良いはずがない、庇護されるべき存在だ。

 

「少しだけ手に触ってもいいかな」

「……」

 

彼女の口から拒絶の言葉が出ないのを都合よく受け取り、そっと手に触れる。怯えさせないよう、ゆっくりと。

 

一瞬のうちに彼女の記憶が僕の脳に流れ込む。痛い、つらい、悲しい、寂しい。あまりにも幸せな思い出が不足している内面を通り過ぎて、個性因子に触れた。

 

彼女の境遇についてはもう知っているからそれを報告するとして、個性が暴走している方に関しては制御方法を考えてあげなければまずい。

 

「これは…」

 

…個性因子が複雑で読み取りづらい。第五世代によくある進化しすぎた個性だ。

 

「どうだL。読み取れそうか」

「本腰を入れれば、何とか。今から何が起きても止めないでくださいね先生」

「なに?」

 

僕の個性は普段その深さを調整して使用している。何故か。あまりに強く個性を使いすぎると、僕の体に影響が大きすぎるためだ。

 

ある実験の話がある。

被験者に熱々のアイロンを見せた後に目隠しをして、冷たいスプーンを押しつける。すると当てたのは冷たいスプーンの筈なのに、被験者は火傷をしたという有名なアレ。思い込みで脳が自分の体に防御反応を引き起こすという実験例だ。

 

多分それと似たような原理だと思うのだけれど、僕にも錯覚で肉体に変化が起こる。読み取った情報と体が同期する感覚。多分、サイコメトリという個性のデメリットの一部。

 

まだ個性の制御が未熟な頃の話。溺死した人に触れて呼吸が一時的に止まったこともあれば、撲殺された人に触れて同じ部位に青あざができたこともある。

 

段々と個性を制御出来るようになってからは、そこまで深く同調しなくても必要な情報はとれたから、そんなことは無かったけれど──今回ばかりは覚悟しないといけないかもしれない。

 

分厚い心の殻を破るようなイメージで、深く、深く読み取る。

 

『いだい!あ、あ゛ぁぁッ!!!』

「痛かったね」

 

切り開かれた足が痛む。生暖かい血液が肌を伝った。

 

も゛うやだッ!!助けて!!あぁごわいっ!!

「怖かったね」

 

記憶の中、痛みのあまり暴れる彼女。読み取ったと同時に僕の骨が折れた。指が変な方向に折れ曲がる。

同調するように、深く彼女という存在を読み取っていく。

 

個性は遺伝子に刻まれた因子で発現する、いわばその人間の根幹。彼女に深く同調するごとに、個性の制御についても情報が入ってくる。

 

「あ、あ、お兄さん…き、傷。怪我してる…

「おい夜神!一体なにが起きてる!?」

 

また先生には怒られそうだけれど、でも折角なら彼女の心ごと救ってあげたいと思ってしまったのだから仕方ない。

 

だって自分の個性を呪って、否定し続けるだなんてあまりにも辛いじゃないか。

 

『わたしに関わったらみんな不幸になる…。助けなんか求めちゃいけない。わたしは呪われた子…』

「君は呪われた子なんかじゃない」

 

手を握って、目を合わせる。揺れる瞳がこちらをじっと伺っていた。

優しい子だ。あんなに周囲を警戒して怖がっていたのに、傷ついた人がいれば心配せずにいられない。

 

「ゆっくり息を吐いて。額に意識を集中させるんだ」

「ひっ、…ふ、ふっ…!」

「そう、上手だね。またゆっくり息を吸って…。吸った息と一緒に、ゆっくり力を額から吐き出すイメージ」

 

個性のコントロールについては大体掴めた。難しい個性だが、額のツノがポイントらしい。意識をどこにやるか、姿勢はどの状態が良いか。逐一アドバイスしつつ背中を摩っていると、ようやく落ち着いて来たようだ。

 

彼女の額が薄く光を帯びる。同時に、全身を襲っていた痛みが和らいだ。壊理ちゃんと同調するあまり僕の全身に出来ていた傷が治っている。

 

時を巻き戻す彼女の個性が、正しく発動した。

 

「…ありがとう、治してくれて。優しい個性だね」

「あ、あ…ッ」

「また不安になっても同じようにしたら平気だよ。君の個性は誰かを傷つけるものじゃない」

「で、でも、お父さんッ、わた、わたしが

「…悲しかったね。苦しかったね。でもそれは不幸な事故だから…壊理ちゃんは悪くないよ」

「そんな、うそ、っ、だって」

「すぐには受け入れなくても大丈夫。でもこれだけは覚えていて。壊理ちゃんは幸せになっていい。君は優しい子だ。誰かを助けられる子だ

 

治崎が吐いた呪いの言葉を全部塗り潰せたらいい。そう願いを込めてただ静かに語りかける。

 

「大丈夫。君を傷つけていた人たちはみんな遠い所に行ったんだ。もう帰ってこない」

「…ほんとうに?」

「うん。この世界ではヒーローが最後に勝つって決まってるんだ。なにも心配しなくて良い」

 

何の憂いもなく、君には幸せになってほしい。

 

言い聞かせるように大丈夫、大丈夫だよと繰り返す。しっかりと握りしめた手をまじまじと見つめて、ようやく彼女はポロポロと泣き始めた。

 

「う、うぅぅッ…!」

「頑張ったね、壊理ちゃん」

 

この子がもう誰にも傷つけられないように、僕はやるべきことをする。

 

「大丈夫だよ。悪い人はみんないなくなるからね…」

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

おい

はいすみません無茶しました

 

すっかり泣き疲れた状態で眠ってしまった壊理ちゃん。こちらのシャツを握りしめたまま離してくれないので、仕方なく抱え込んでベッド脇に座り込むと同時、おどろおどろしい声が聞こえて来た。反射に近い速度で謝罪が飛び出す。

 

「今回は俺が連れて来たから何とも言えんが…ハァ、お前は…」

「毎回ご心配おかけしてます。すみません」

「すまないね、今回どうしても君をと私がイレイザーヘッドに頼んだ」

「え、そうなんですか」

 

また無茶をした説教が始まると身構えたタイミングで、横から声がかかる。病室に控えていたもう一人のヒーロー、サーナイトアイだ。

 

「君の個性は実に興味深いな。サイコメトリだったか」

「はい。できることは多いので説明に困りますが…まぁ色々読み取れます」

「そのようだ」

 

話を聞くところによると、壊理ちゃんを最初に保護したヒーロー、バブルガールは彼のサイドキックらしい。その流れで身元の特定などを担当し、読み取った未来で相澤先生や僕が出てきたので雄英に連絡したとのことだ。

 

「あの子と君がこの病室で笑っている未来が見えたよ」

「…なるほど、それで僕を」

「ああ。起きたらきっと笑顔もみれるだろう。お手柄だヒーロー」

 

褒めてもらえるのは嬉しいが、彼と同じ場所にいる状況は非常にまずい。何せ未来視の個性を僕に使われたが最後、行動を読み取られて僕は終わりである。

 

内心冷や汗を流しているのをバレないように微笑む。

 

「それでこの子の身元についてのご報告ですが…」

 

死穢八斎會、組長の孫娘であること。非道な実験対象にされていたことなどを報告しておく。

 

「こんな幼い子供になんてことを…」

「クズどもめ」

「…それで?先ほど言っていた悪い人はいなくなったという発言。何か知っているのか」

「公安案件の方で昨日調査しまして。ほら、あの崖崩れの」

 

落石で潰れたトラックの事故。遺体がぐしゃぐしゃで身元が不明なので案の定僕が駆り出された。あまりにも()()()()()()()()情報が読み取れませんとシラを切っても良かったが、嘘はなるべく少ない方がいい。公安には正直に死穢八斎會の若頭ですと報告しておいた。

 

「詳しくは公安に報告をあげているので、資料をそちらに請求していただければと思います」

「わかった、情報提供に感謝する。…ところで君は公安の一員なのか?」

「いえ、ちょっとしたお手伝いをするだけの民間人です」

「ちょっとしたお手伝い、ね」

いつも学校休んでスミマセン

 

しまった藪蛇だ。

 

「なるほど。学生の割に個性の練度が高いとは思ったが、彼らの直轄なら納得だ」

 

サーナイトアイは何か納得した様子で頷いているし。そのままもう帰ってくれないかな。同じ空間にいるだけで心臓に悪い。

 

「今回は協力感謝する」

「いいえ、お役に立てて良かったです」

「時に。君の個性で過去の情報を洗って、ダメおしで私の個性でヴィランの目論見を知るという組み合わせは実にユニークだと思うが。サイドキックに興味は?」

「あはは…お話はありがたいですが、僕は僕なりのヒーロー像がありますので」

「そうかね。非常に残念だ。ちなみに給料はこのくらいなら出せるのだが──

「サーナイトアイ。無理な勧誘は教師として見過ごせないのでやめてもらえませんか」

 

最後まで彼と握手することもなかったから、個性は使われなかったけど。ここ最近で一番冷や汗をかく時間だった。

 

あとトップヒーローの財力はすごい。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

「あの、エルさんって呼んでもいいですか」

「L…。う、うん。いいよ。好きに呼んで」

 

「エルさん。また話しにきてくれますか」

「もちろん、何か困ったらいつでも呼んでね。電話番号教えておくから」

 

「でんわ…」

「かけたこと無いかな?遠くの人とお話しできる機械だよ。試しに使ってみる?」

 

「遠くの人とお話し…!」

「うーんと…誰にしようかな。──もしもし、緑谷」

『もしもし?どうしたの急に』

「お試し電話中。女の子の人生初電話だぞー」

は!?エ、急にナニ!?!?

 

「お前の言葉を待っている幼気な少女がここにいることを申し添えておく。…壊理ちゃん。しゃべってみて」

「あ、あの!こんにちは!」

エッ、ここここ、こんにちは!?お、お女の子ッ!?

「あっはっは。焦りすぎだろ」

『え、えーと!僕、緑谷出久です!や、夜神くんのおおおお友だちで…!』

「…ふふっ」

「あ、壊理ちゃん笑った。緑谷ファインプレー」

『本当に何!?』

「じゃあ訓練頑張れよ〜」

 

「さっきの人も、ヒーローですか?」

「そう。僕よりよっぽどすごい人だよ。沢山の人を助けてくれるようになる、未来のトップヒーロー。女の子にはちょっと弱いけどね。デクって呼んであげて」

「デクさん。エルさんのお友だち」

 

「いい奴だよ。壊理ちゃんにも会ってもらいたいな」

 

 

 




Q,サーに未来は読まれていませんか?
A,オールマイトの未来の件に関するトラウマで、そうポンポン個性使う人ではないので、今回は使われていません。

Q,壊理ちゃんの心の傷に対して荒治療が過ぎませんか?
A,本当にね。もっと時間かけてやれよ。まあ今回は個性の制御をどうにか覚えよう!って感じですが、今後も継続して訓練する必要はあるので、壊理ちゃんとの関わりは続きます。信頼関係を作るための1ステップとしてどうか…。

Q,治崎のことは疑われていませんか?
A,一旦公安の方で事故としては処理されました。公安は敵連合のことで忙しくしています。ただサーは何か調べ始める様子…。

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