夜神月に成り代わってヒロアカ世界に転生したけどデスノート絶対に使いません!   作:佐久間2525

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第十七話 謀略

 

 

 

「…とまあそんなことがあったので。敵の動きを警戒し、例年使わせていただいている合宿先を急遽、キャンセル。行先は当日まで明かさない運びとなった」

「えー!」

「もう親に言っちゃってるよ」

「故にですわね。話が誰にどう伝わっているか学校が把握できませんもの」

 

ショッピングモールでの事件、その翌日。

警察から事情聴取を受けたのち、学校側にも情報は伝えておいたが、林間学校は中止にはならないようだ。まぁUSJ襲撃の後も体育祭を取り止めなかったくらいだから、よほどヴィランに屈さない姿勢というのは重要なんだろう。僕としては安牌をとって校内演習にでも変更してほしかったが。

 

「持ち物も一部変更になるが、学校側で用意するので新しく買わなくてもいい」

「それはもしかして!新しい林間学校が海で開催の場合、女子が着るドスケベな水着を雄英サイドが用意してくれる可能性がなきにしもあらず…!?!?

「あるわけないだろ」

「峰田さん…遊びに行くわけじゃありませんのよ」

馬鹿言うなオイラは真剣に!女子の水着が拝みたいと!そういう話をしているのであってだな…!

 

「ハイハイ。話は静かに聞くように。保護者へのお知らせに関しては──…」

 

にぎやかなクラスメイトの声と、連絡事項を淡々と読み上げる先生の声が混ざり合う。どこまでも平常運転な様子をみると、なんだか僕まで気が抜けるな…。

相澤先生の捕縛布で口をふさがれた峰田に苦笑いしつつ、僕はポケットに入れた携帯を一瞬覗き見た。

 

新しい通知は、ない。

 

「(志村転弧…死柄木の遺体が見つかったらおそらく公安は僕に依頼を出すはず。何も連絡がないということは、まだ発見されていないのか?)」

 

死んでいない、ということはない筈だ。死神の目で読み取った名前を、確実にノートに書いたのだから。

一晩明けても知らせが来ないのは、人目につかない所で死亡したから発見されていないのか。あるいはAFOに死体を回収されたのか。そのあたりの可能性が高いと思うけど、確証はない。個性を使って足取りを辿れば分かるんだろうが、リスクが大きすぎる。

 

「(…可能性が高いのは、AFOに回収された方か)」

 

相手の思考を想像する。

 

自身の後継者として目をかけていた存在がある日突然、自殺した。なんの前兆もなく。

まずは…そうだな、多分、個性による攻撃を疑うだろう。しかし死体などを調べても証拠はない。直前まで接触していた緑谷のことは調べがつくかもしれないが、OFAにそんな力はないことくらいは百も承知。かといって他を疑おうにも、ショッピングモールにいた人は数が膨大だから、すれ違った者全てを調べることは出来ない。

 

何をしようとしていたにせよ、足踏みするだろう。

 

こちら側の理想としては、それで少しでも時間を稼げるのが一番いい。相手の計画が遅れている間に、緑谷にOFAを使いこなしてもらう。継承者たちとの交流も順調だし、あの個性をさらに使いこなせればオールマイトに迫る万能ヒーローになれることだろう。

 

そう。AFOが計画を再始動させるまでに、緑谷さえ強くなってくれたのなら全て上手くいくはずだ──

 

なんて、考えていたこの時の僕は、あまりにも楽観的だった。

 

結局のところ、中途半端に前世の記憶なんてものがあるがゆえに。僕はこの世界を物語の世界として捉えていたのだろう。主人公が努力して強くなって、悪いやつをやっつけて大団円。そんな都合のいいハッピーエンドを思い描いてしまっていた。

 

どうしようもなく僕が生きる世界は現実で、悪意というのはいつだってこちらの想像を超えてくると、知っていたはずなのに。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

『速報です。紫安刑務所がヴィランに襲撃され、一部収監者が脱獄しました。関係者によりますと、襲撃犯は雄英襲撃、および保須市事件のヴィランと特徴が一致するとの情報もあり、敵連合との関係が捜査されています。周囲の皆様はヒーローの指示に従い速やかに避難を───』

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

林間学校1日目、夜。

初日の訓練を終え、疲れた体を休めていた僕たちは鈍く光る画面を眺めていた。

 

「うわー…敵連合やべぇ」

「やることがどんどん大胆になってきたな」

 

夜闇の中で、建物が赤々と燃えている。あれは確か関西にある刑務所だったか。タルタロスに収監される程ではないが、それなりに重犯罪を犯したものが収容される場所。

 

一瞬だけ流れた監視カメラの映像には、脳無と思われる影が映っていた。襲撃犯は敵連合で間違いないだろう。…死柄木弔が亡き今、彼らをそう呼んでいいのかどうかは知らないけれど。

 

それにしてもAFOは何を思って急に行動を起こしたんだろうか。確かに刑務所からヴィランが脱獄すれば向こうの人材は増える上に、治安も悪化してヒーローの負担も増える。

奴にとっては一石二鳥ではあるんだろうが、このタイミングで行動する意図が読めない。派手に動けばそれだけヒーロー側から捕捉されやすくなるだろうに。

 

「(脳無はノートに名前を書いても死なない。けれど普通の脱獄囚にはノートの力は効く筈。…被害者が出る前に殺るべきか?いや、でもこれがAFOの罠である可能性も…)」

 

「夜神くん、どうしたの?なんか顔怖いよ」

 

考え込んでいると、不意に顔を覗き込まれた。いつの間にかニュースは天気予報に切り替わり、クラスメイトも思い思いの様子で寛いでいる。

 

「ああ、うん。怖い事件だなと思って」

「そうだよね。オールマイトも現場に向かってるとは聞いたけど…」

 

周囲に人がいる手前、緑谷はそこで言葉を濁した。オールマイトの活動限界についてはごく一部のみが知る秘密。気軽に話すわけにはいかない。

 

「他のヒーローも大勢駆けつけるだろうし、きっと大丈夫だね」

「…そうだね!僕らは合宿の方に集中しなきゃ」

 

気休めのように発した僕の言葉に、張り切った様子で緑谷はこぶしを握り締めた。初日の内容も中々ハードだったのに、元気なことだ。

 

「それにしても紫安刑務所か…。壊理ちゃんが心配だな」

「関西の大きい病院に検査入院中だっけ」

「そう。個性研究の第一人者が医院長らしくて、詳しい検査をしてるんだ。刑務所から距離はあるだろうけど…不安がってないかな」

「電話してあげたら?」

「…そうしようかな。相澤先生に許可もらってくるよ」

 

今回の林間合宿、合宿場所を外に漏らさないため、基本的に外部との連絡は担任の許可が必要になっている。僕は壊理ちゃんのことや、公安からの連絡があるから自由にしていいと言われているのだけれど、一応相澤先生には伝えておこう。

 

それにしてもタイミングの悪い。よりにもよって壊理ちゃんが関西に行っているタイミングでこんな事件が起こるなんて。

 

病院に何事もないといいんだけど。

 

 

 

 

 

 

『もしもし』

「こんばんは壊理ちゃん」

 

『エルさん…!こんばんは!』

「夜にごめんね。検査の方はどうかな」

 

『ええと大きな機械で写真とったりいろいろしたよ』

「そっか、何か困ってることとか怖いことはない?」

 

え、と。…ううん、雄英の先生が一緒()()()からだいじょうぶ!』

「それは良かった。不安なことがあったらすぐ連絡してね。いつでも駆けつけるから」

 

『でもエルさん、りんかん合宿ってところに行ってるんじゃ…』

「学校行事より壊理ちゃんの方が大事だからね。遠慮しないで」

 

『…ありがとう。寂しくなったらでんわしてもいい?』

「もちろん」

 

『わたし明日も検査頑張るね』

「えらいね。…じゃあもう遅いし寝ようか。おやすみ壊理ちゃん」

『おやすみなさい、エルさん』

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

電話を切り、時計を確認する。切れかけの蛍光灯がパチパチと瞬いた。

そろそろ寝ないと明日の訓練に響きそうだ。

 

「ん…あれは」

 

視界の端に、小さな影が森の中に駆け込んでいくのが見えた。確か、マンダレイの従甥の洸汰くんだったか。昼間、緑谷の睾丸にアタックしていた。

 

うーん…。一人にしておくのは流石に危ないよな。ラグドールの個性で居場所は把握されてるんだろうが、この時間だ。何が起きるか分からない。

 

既に姿は見失っていたが、地面に手を当てて個性を使用すれば行先は追える。しばらくそうして追跡していると、岩場にある洞窟にたどり着いた。

 

なるほど、こっそりと個性を練習するにはよさげな場所だ。

 

「ばあ」

うぉぉわっ!?!?な、な、なん」

「こんばんは。こんな所で何してるの」

な、何でもいいだろ!!お前こそ何だよ!!ここは俺の秘密基地だぞ!」

「秘密基地、いいね。男の子のロマンだ」

 

よっこらしょ、とわざとらしく言いながら隣に腰かける。盛大に睨まれたがスルーだ。

 

「僕は夜神月。よろしくね、洸汰くん」

「知るか。勝手に自己紹介すんな」

「特訓もいいとは思うけどもうちょっと明るい時間にしたら?夜に一人は危ないよ」

 

雨も降っていないのに岩場が濡れている。個性練習をしていたんだろうなと察して指摘しただけだったのだが、彼にとってはバレたくなかったことらしく、びくりとその肩が跳ねた。

 

み、見たのか!?…俺は個性なんか練習してねぇ!!」

「そう。なら何してたの?」

「…何でもいいだろ!言っとくけど、ヒーローになりたいなんて連中とつるむ気はねえ!」

 

鋭いまなざしに射抜かれた。

あぁ、見覚えのある目だ。どうしようもなく心を傷つけられて、怯えている人の目。

 

──実のところ、僕は彼の事情を知っている。彼の両親の遺体に、捜査の一環で触れたことがあるから。

ウォーターホース、幾度となく災害現場で人命を救ってきた素晴らしいヒーローたちだった。あんな凄惨な最期を遂げるべきではない、善良な人たち。

 

『おれもパパとママみたいにカッコいいヒーローになれるかな!?』

『もちろんなれるさ!家族でヒーローなんて最高だな!』

『もうパパったら気が早いんだから』

 

事件前日に交わされた会話が脳裏を過る。捜査当時も中々精神をやられたが、こうして彼らの息子を前にすると違った胸の痛みを覚える。

 

「ご両親のことは、その…」

「ッ、なんだよ、知ってんのかよ…!は、それでなんだ?お前もあいつらのこと 『立派でしたね』 『ヒーローの鑑だ』 とでも言うつもりか?」

 

ウォーターホースの記憶の中では溌溂と笑っていた少年が、今は目つきを鋭くして、全てが敵だとでも言わんばかりに語気を荒らげている。その事実が悲しくて仕方ない。

 

「頭イカレてるよみーんな。馬鹿みたいにヒーローとか敵とか言っちゃって殺し合って。個性とか言っちゃってひけらかしてるからそうなるんだ。バ――カ!

 

ふるり、とその口が戦慄いた。静かにその目が潤んで、雫になる前に強引に拭われる。この子もまた、犠牲者だ。

 

両親の死を正しかったなんて、口が裂けても言えないんだろう。当たり前だ。だから洸汰くんはヒーローの在り方そのものと、個性の存在を否定している。

 

けれどかつて抱いた憧れを捨て去ることも出来ず、こうして人気のない場所でこっそりと個性を練習して、そのたびに馬鹿馬鹿しいと吐き捨てて。…これではまるで自傷のようだ。あまりにも悲しい。

 

壊理ちゃんに対しても抱いた衝動が、胸を焦がした。

 

「──君が以前に両親と暮らしていた家。寝室に押入れがあっただろう」

「…え」

「引き出しの上から2段目を開けてごらん。ご両親が誕生日プレゼントを隠していたはずだから」

「うそ、え、いや、なんで家のこと知って…」

 

慰めの言葉も、なにも思い浮かばない。ただ彼の両親がこと切れる前。最期の瞬間に思い浮かべたのは、顔も見知らぬ市民ではなく、君のことだったんだと。それだけは伝えてあげたかった。

 

「僕の個性はサイコメトリと言って、何かに触れると色々なことを読み取れるんだ」

「じゃあパパとママのこと…」

「お会いする機会があってね。…いいお父さんとお母さんだったね」

「…ッ」

「君のことを愛してるって。強く思ってらっしゃった」

「ならっ、それなら…!どうして死んじゃったんだよッ…!!

 

ぼたり、ぼたりと。今度はこらえきれなかったらしい大粒の涙が零れ落ちた。そうだね、と静かに相槌をこぼすことしか出来なくて自分の無力さを噛み締めた。震える小さな体を抱き上げる。そろそろ帰らなければマンダレイたちも心配するだろう。

 

「何よりも大切な君が暮らす世界だから、平和であってほしかったんだと思うよ」

「二人が…パパとママがいてくれなきゃ意味ない…っ」

 

肩が冷たい。じわりと染み込んできた水分が、この子の叫びだ。

 

洸汰くん。こんなことを直接君には言えないけれど、個性があってもなくても、人は人を殺すよ。僕は前世、そんな世界に住んでいたから知ってはいるんだ。

 

ただ、個性というものがあるが故に。この世界のソレは度がすぎているのも事実。

 

「(君たちが泣かなくていいように。もう少し綺麗な世界にしてあげるからね…)」

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

[ 今筋 強斗 

  2146年7月26日 23時30分

  個性を使用することも、誰かに何かを伝えることもなく自殺する ]

 

 

 

 

「刑務所襲撃中にマスキュラーが死んだ?」

『うむ、死体はヒーローに回収されたようじゃが、突然警官の銃を奪って頭を撃ち抜いたらしいの』

 

「ははは、面白い。本当に遠隔で人を殺せるのか」

『どういう仕組みか全く分からん。間違いなく第5世代の特異個性じゃな…』 

 

「けど有意義なことがわかったね。どうやらミスターXは脳無を殺せないらしい」

『フム、確かに…ワシらの邪魔をするなら脳無は真っ先に排除するはず…』 

 

「強力な個性だけに制約も厳しいのだろうね。よく分かるよその感覚」

『それで?計画はどうするんじゃ?』

 

「予想通りなら、ミスターXは()()()()()()。──計画は予定通りに進めるよ。朝方そちらに向かうから、準備しておいてくれ」

 

 

 

 

 

 

  

 

空気がぼんやりと滲んで、解けた。

コツコツ、と足音を立てて黒い靄の中から一人の男が姿を現す。

 

「死柄木弔・・・どこに…守らねば…しが、し、ししし」

「なんじゃ、黒霧。動けたんか」

「個性強制発動させれば何とかね。これ直るのかい」

「うぅむ、それはプログラミングを組みなおしてみんと分からんが…」

 

うわごとを繰り返す脳無から手を放し、男は白衣の老人に近寄った。

 

「それで?状況は」

「予定通りじゃ。協力者からの連絡で、付き添いのヒーローは刑務所の方に応援に行った。病室周りには看護師しかおらん」

「それは重畳。病室は何号室かな」

「案内しよう。検査したがまぁいい個性じゃぞ。コピーもいくつか取らせてもらったわい」

「仕事熱心なことだねドクター」

 

患者が寝静まった病院内。

看護師と時折出くわすが、院長である老人に気が付くと何の疑いもなく頭を下げて通り過ぎて行った。コツコツ、コツコツと重い足音だけが廊下に反響する。

 

スライド式のドアは音を立てることなく開いた。

眠る少女に、ゆっくりとその手が伸びて──

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

『現在の時刻は午前5時24分。今日は全国的に晴れの予報です。気温が高くなりますのでこまめな水分補給を──

 

…速報が入りました。紫安刑務所に引き続き、婆柩刑務所、急隠刑務所も襲撃を受けた模様です。昨夜、脱走していた囚人のうち262名は既にオールマイトをはじめとしたヒーローに確保されていますが、依然として57名のヴィランの行方が不明となっています。死亡者が1名出たとの情報も入っていますが、正式な発表はまだありません。婆柩刑務所、急隠刑務所から新たに脱走した囚人に関しては現在確認中とのことです。警察は今回の襲撃について──』

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「…おかしいな」

「おはようございます、夜神さん。どうかしましたの?」

「おはよう八百万さん。それが、壊理ちゃんと連絡が取れなくて」

「それは心配ですわね…!昨夜からヴィランの動きが活発化しているようですし」

 

電話は先ほどからコール音を鳴らすだけで、相手につながることがない。昨夜に連絡を取ったときは元気そうだったが、何かあったのだろうか。

 

朝のニュース番組を横目に見つつ、携帯でも記事を検索してみる。特に壊理ちゃんが入院している病院に被害が出たという話は出ていない。たまたま検査中か何かで電話をとれないだけか…?どこか嫌な予感が拭いきれない。

 

いっそ病院の方に電話してみようか、と思ったところで。ニュースに見覚えのある顔が映った。

雄英の教員の一人──今は壊理ちゃんの付き添いをしているはずのその人が、ヒーロースーツを着て刑務所襲撃の対応に当たっている。

 

ということは、あの子のそばには誰がいる?

 

背中に冷や汗が伝った。

 

「…ッ、まずい!」

 

しまった、後手に回った。

敵の狙いは──壊理ちゃんの個性だ。




先回りが得意な筈のライトくんが後手に回ってしまいました。
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