夜神月に成り代わってヒロアカ世界に転生したけどデスノート絶対に使いません!   作:佐久間2525

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今回は8割型AFO視点で進みます。


第十八話 破滅

 

 

 

誰もが息をのんで、その瞬間を見つめていた。

 

突如として瓦礫の山と化した街並み。先ほどまでの戦闘の余波で、コンクリート片が一つ、また一つと転げ落ちる。あたりには濛々と土煙が立ち込めて、地面は抉れたように窪んでいた。まるで爆撃でも受けたかのような有様だ。

 

その只中にあって。ひときわ高く天を指す腕がある。

立っているのもやっとの、ボロボロの体。それでも震える足で地面を踏みしめて、平和の象徴は折れずに立っていた。

 

『敵は──…動かず』

 

血塗れのNo1ヒーローの姿に、報道ヘリのリポーターが息をのむ。倒れ伏した巨悪を見下ろし、しばし呆然としたのち歓喜に震える声を張り上げた。

 

『勝利!オールマイト!!勝利のスタンディングです!!!』

 

その言葉はテレビ画面を通して全国に届く。緊張と恐怖から解放されて、ある家族は笑顔で抱き合い、ある者は街頭のスクリーンの前で膝をついて泣き崩れた。

 

「やっぱすげェよあんた!」

「オールマイト!!」

「ありがとうオールマイト!」

 

各地で、誰もが安心した様子で笑っていた。平和の象徴の折れぬ姿に希望を抱いて、変わらぬ日常を夢みて。

 

その称賛を一身に浴びているオールマイトは、倒れ伏した男を見下ろしたままわずかに肩を上下させていた。

ただ一人。彼だけがその場で笑みを浮かべていない。胸中を不穏な予感が満たしていた。

 

「(なんだこの胸騒ぎは…)」

 

ヒーローとしての勘とでも呼ぶべきものが、甲高く警鐘を鳴らしている。救助すべき二人は無事で、激闘の末に因縁の悪は斃れた。大団円とも言っていい状況であるのに、どうにもこれで終わりとは思えない。

 

 

「…ふふ、ふ。あははは」

「──ッ!?」

 

その予感の答え合わせをするように。瓦礫の上で小さな笑い声が響いた。風に紛れそうな、かすれた声だ。それでもオールマイトの背筋に一瞬のうちに悪寒が這い上がった。

 

咄嗟に振り返った先、倒れ伏したAFOの身体が蠢いている。

最初に、破れた皮膚の裂け目が、巻き戻すように閉じた。ズルリ、ズルリと音を立てて肉が寄り、再構築されていく。骨が音を立てて形を戻し、ひしゃげた腕が新品のように滑らかになった。遠い昔、かつてオールマイトとの戦闘でぐしゃぐしゃになった顔面さえもが元の形を取り戻していく。

 

異様な光景だった。超回復ともまた違う現象──時間そのものの逆流。

 

「──壊理少女の個性かッ…!!」

 

気付いたとて、立っているのに精いっぱいの状態で、一歩踏み出すことすら叶わなかった。

数秒と経たないうち。みるも無残だった頭部は黎明期の容貌を取り戻し。かつて失った眼球が、ギョロリと平和の象徴を見つめてくる。

 

「終わったと思ったのかい、オールマイト?」

 

AFOはゆっくりと、本当にゆっくりと、瓦礫を押し退けながら立ち上がった。

オールマイトが命を削って戦った、その痕跡など何もなく。平然とその悪は嗤っていた。

 

「弔風の言い回しを借りるなら……」

 

若い男の口端が、歪に吊り上がる。

 

「コンティニュー、だ」

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

時は遡り、まだ朝日も昇らぬ薄暗闇の中。

 

埃の舞う廃倉庫の中で、己の額に生えた角をそろりと撫で、男は口元を歪ませた。

 

「いいねぇ。僕も随分と魔王らしくなった」

 

キミもそう思わないか、と言葉を投げかける。視線の先では髪の白い少女が膝を抱えてガタガタと震えていた。怯えた呼吸音が反響する。

 

「流石にコントロールの難しい個性だ。コツとかあるのかい」

ヒッ…!

「そんなに怯えないでおくれよ。何も取って食おうというわけじゃない」

ご、ごめんなさいごめんなさい…ッ

「ふふふ。困ったな、ちょっと個性の使い方を教えてほしいだけなんだけれど」

 

口ではそう言いつつ、愉し気な様子で黒い影は嗤った。その身体には、いまだ仰々しい生命維持装置が付いたままだ。扱いの難しい個性に苦戦するのは珍しいことではないが、今回奪った個性はこれまでの中でも群を抜いて習得が困難だった。

 

「ドクター。これ本当にコントロールできるのかい」

『その小娘が使えてお主に使えんということはなかろうて』

「それもそうか…」

 

気づけば病院から見知らぬ場所に連れてこられた少女は、その会話を震えながら聞いていた。鎖も何もつけられてはいなかったけれど、恐怖で足がすくんで動けない。覚えのある気配が彼女の昏い記憶を刺激していた。

 

人を傷つけることを、なんとも思わないモノ特有の気配。

かつて少女の身を切り裂いた男と似たような──それ以上の悪性。

 

「(エルさん…たすけて…)」

 

心のうちで己のヒーローに呼びかける。まだ応える声はなかった。

 

 

 

……

 

 

「そういえば雄英の合宿先は判明したかい」

『いいや、まだじゃ。かなり慎重に動いとるみたいじゃの』

 

「そう…黒霧も今では移動手段にしか使えないから、調べさせられないし…。動けるものは陽動に回しているし…。名前も忘れてしまったけれど、内通者の彼が逮捕されたのが手痛かったね」

『まぁ今さら雄英にこだわる必要もあるまいて。その個性さえ使いこなせればお主はもはや無敵。ヒーロー社会の権威など気にせずとも落ちていく一方だろうに』

 

怯える少女を気にもかけず、AFOとドクターと呼ばれる男は会話を続けている。

計画は今のところ順調といっていい。各地の刑務所の襲撃で戦力の拡大と、ヒーローの分散は達成。奪取すべき個性も手に入れた。当初、予定に入れていた雄英生の襲撃だけは叶っていないが、そちらは放置ではよいのではないか。そう提案する言葉を、男は静かに否定する。

 

「忘れたのかいドクター。僕らが影も形も捉えられていない相手がまだいるだろう」

 

手の中で、塵と化したかつての後継者がさらさらと零れ落ちていく。

 

『…ああ、ミスターXか』

「僕の仮説では、相手は特定の条件を満たした対象を自由に殺せる個性持ちだ。脳無や僕を殺せないあたり、複数の個性を持っている相手は対象外みたいだけれど」

『手に入ればこれ以上なく強力な個性じゃが…しかしそやつと雄英に何の関係が?』

「人探しに丁度いい個性持ちが雄英にいるんだ。ぜひとも彼に協力してもらいたくてね」

 

AFOの脳内にはある展望が映っていた。

まず例の個性持ちを発見し、人を遠隔で自由に殺せる個性を手に入れる。手始めにヒーロー共を愚衆の面前でありとあらゆる方法で殺害し、存在を示す。次いで、各国の首脳陣に死にたくなかったら従うように布告することで、世界中が大混乱に陥る。従うものは命惜しさに悪に屈したと後ろ指をさされ、逆らうものはその命を散らしていく。

 

そして巻き戻しの個性を手に入れた今、老いることすらない。世界中が永遠に支配下に置かれる。

 

破壊と混沌に満ちた未来を夢見て、うっそりと笑みが零れた。

焦土と化した街並み、退廃する文明、踏みにじられる弱者。そういったものを想像するだけでAFOの胸中に歓びが溢れる。

 

『サイコメトリか…。あれはあれで扱いの難しそうな個性じゃが』

「本人が自分の意志で協力してくれたら一番いいと思っているよ。…それにほら、弔も死んでしまったし()()()()だろう?」

『後継者にするつもりか?育てるにはちと遅いじゃろう』

 

「予備のプランはいくらあってもいいよ。適性を見てから判断しよう」

 

なんせ僕は色々な手段を用意しておくのが好きなんだ、と零し。AFOは電話の通知で震える携帯を眺め見た。その口端がゆっくりと吊り上がる。

 

視線の先。誘拐してきた少女から取り上げた通信機器のディスプレイには、〈エルさん〉と登録された文字がちかちかと光っていた。

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

『やあ。初めましてだね夜神月くん』

 

『そう殺気立たないでおくれよ。彼女は無事だよ。少なくとも今はね』

 

『察しがいいね。そう、交換条件だ。君が今から伝える場所に一人で来るのなら、彼女は無事に帰してあげよう』

 

『ふふ、如何にもな誘拐犯の言い草だって?覚えておくといい、有効だから使い古される手段なんだよ。現に、君に拒否権はないだろう?』

 

『君はこのことを誰にも伝えてはいけないし、怪しまれるような行動をしてもいけない。もちろん、発信機なんて無粋なものを持ち込むのもダメだ。携帯も置いていくといい』

 

『僕は人の嘘が分かるからね。下手な手を打つと一人の幼気な少女が可哀そうなことになるとだけ伝えておくよ』

 

『…いいね、流石はヒーローの卵。勇敢なことだ』

 

『では、今から1時間以内に──』

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

空間がぼんやりと滲んで、黒い靄が現れる。遠く離れた地を繋いだ脳無は、青年を異空間から放りだすと壊れたように停止した。

 

し、しがら、とむ、とむら

「ご苦労様、黒霧」

 

連れてこられた青年──夜神月は警戒した様子で周囲を見渡し、構える。その手が一瞬、かすかに震えたのを見て、AFOは愉し気に笑った。

 

「やあ、会えて光栄だよ。公安の切り札、若き天才。夜神月くん」

「…ッ、壊理ちゃんはどこだオールフォーワン…!」

「そう急ぐなよ。話をしよう」

 

言うやいなや、その指から稲妻の如く線の入った、鋭利な黒い触手が伸びた。一直線に伸びたそれが、避ける間も与えず青年の足を貫く。

 

「ぐっ…!?」

「悪く思わないでくれよ、動き回られると話すのに不便だからね」

 

右足を押えて蹲る夜神を見下ろして、AFOは悠然と足を組む。大きな血管を避けて放った攻撃は、それでも確かなダメージと、強大なヴィランと対峙する恐怖を彼に与えていた。

 

「さて、言った通り発信機はつけていないようだ。誰かに呼び出しのことを伝えたかな?」

「だ、誰にも伝えていない。担任に公安の依頼で抜けると言っただけだ」

「…嘘ではないね。では君が今ここにいることはヒーローに伝わると思うかい?」

 

言い回しを変えれば嘘を回避しつつ誤魔化す方法なんていくらでもある。それを承知の上で、AFOは問いかけた。

今交わしているのは、相手が必死に誤魔化して、精神的に疲弊していくのを期待しているだけのやり取りなのだから。内容はさして重要ではない。

 

予想に反して、彼はしっかりとした様子で応えた。

 

「──誰かは、きっと突き止めると思う」

「おや。正直者だね。何か布石でも打ってきたのかな?」

「誰かに何か話したわけじゃない。ただ…僕はヒーローを信じているだけだ。助けを求める限り、必ず誰かは助けに来てくれる」

 

傷を押えて蹲る青年の目から、希望が消えていないのを見て、愉快そうにAFOは首を傾げた。

 

「ふ、ふふふ。面白い。あんな偽善者集団を信じてここに来たのかい?ピンチの時にはヒーローが必ず駆けつけてくれるって?」

「……」

「想像よりも随分と夢見がちなんだね。外は今頃大混乱だ、誰もこないと思うよ」

 

「…。壊理ちゃんはどこにいるんだ」

「君が素直に話を聞いてくれたら、あとで会わせてあげるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

「君には人探しを手伝って欲しいんだ」

「人探し…」

「そういうの得意だろう?助けると思って力を貸しておくれよ」

「…」

「相手は男か女か、大人か子供かも分からない。僕はミスターXと呼んでいるけれどね」

 

カツカツ、と倉庫を歩く靴音が響き渡る。痛みで思考が鈍る中、それでも必死に顔を上げた。

 

「さて。君の個性には証拠品が必要だろうから…まずこれでどうかな」

 

足音は目の前で止まり、次いでさらさらと粉状の何かを落としてくる。警戒の目で見上げるが、AFOはそれ以上言葉を発しない。

 

こいつは僕に何をさせようとしている?思考が全く読めない。しかし下手に抵抗して壊理ちゃんを危険に晒すのも悪手だ。

 

仕方なく砂にも見えるそれに手を伸ばし、個性を発動させる。

途端に、脳内に記憶が広がった。

 

──

 

『ひみつだよ。この人おばあちゃんなんだって。ヒーローなんだって』

『お父さんに内緒で姉弟ヒーローになっちゃおう!』

『転孤!書斎に入ったな!』

『ヒーローというのは他人を助けるために家族を傷つけるんだ』

『みんな…嫌いだ…』

『…モンちゃん?』

『まって、助けて!声が!華ちゃん!』

『お、お゛おとうさん゛!』

『やめろ転孤!』

 

──

 

弾かれたように、思わずソレから手を離した。

 

ッ…

 

動揺のあまり息が止まる。

──死柄木弔は、志村転孤はオールマイトの師匠・志村菜々の孫だった。

 

『クソ喰らえだ神様…』

 

彼の生まれと、誰にも助けられなかった過去と、そして何も成すことなく終わった最期と。全てを知ってしまった今、襲いかかってくる吐き気を堪えるのに必死だ。

 

「何が見えたかな」

「…死柄木弔の、生い立ちと来歴。それから死に際が」

「ふふふ。オールマイトに言う前に君に伝わるとはね。ネタバレはよしておくれよ、僕はアイツの絶望する顔が見たいんだ」

「そんな事のためだけに、志村転孤に目をつけたのか…?」

「後継者としても大事にしてたとも」

 

やけに演技がかった様子でAFOは嘆いてみせる。

 

「だからこそ許せないんだ。弔の死の真相を突き止めたい!あの子の仇を取ってやりたいんだ!心優しい君なら協力してくれるだろう?」

「は、大嘘つきめ…」

「心外だな。悲しいのは本当なのに」

 

未だ心の整理はつけられていないが。今はこの場をなんとか乗り切るのが先決だ。AFOが探しているのは十中八九、僕だろう。敵討なんてものは名目で、死柄木を殺害した力を欲しているに違いない。

 

「死の真相と言っても…自殺だったよ。自分の個性で死んでいた」

「いいや、弔が自殺するはずがない。なんらかの個性の介入があったはずだ」

「個性の…?」

「仮に“殺害”の個性とでも言おうかな。遠隔で人の行動を操り、殺すことができる。悍ましい力だ。他の犠牲者が出る前に食い止めないといけない。君もそう思うだろう?」

 

乾いた笑いが漏れないようにするのが精一杯だった。

 

「奴を止められるのは君しかいない。一緒にイカれた殺人鬼を止めよう!」

 

悪の親玉にこうも言われちゃ、僕もおしまいだな。腹を抱えて笑い転げたい気分だ。

 

しかし、今はただ時間を稼ぐ必要がある。ヒーローは必ずこの場所を突き止めてくれるはずだ。それまでに壊理ちゃんの無事を確保するのが、今の僕がすべき事。

 

ここまでの会話を聞く限り、AFOは僕を味方に取り込もうとしている。否定も、肯定もせず。ひたすらに時間を引き延ばすべきだ。

 

そう考えつつ、懐柔してこようとする気色の悪い声を聞き流し。次々に持ってこられる証拠品にひたすらサイコメトリをかけてゆく。

 

「このマスキュラーという男も恐らくミスターXの個性で─…」

「…みた限り個性を使用されたような痕は残っていないけれど、不自然な点は…」

 

早く来てくれ、ヒーロー。

 

 

……

 

 

どれほど時間が過ぎたのか。個性の過剰使用で頭がガンガンと痛む。嘘をつかずに、それでいてノートのことはバレないように振る舞うのには神経を使った。

 

気づけばあんなにお喋りだったAFOも黙り込んでいる。

 

「─ここまで痕跡が残らないとなると計算違いだな…」

「…言われたことは果たしただろう。早くあの子の無事を確かめさせろ」

 

足からの出血もじわじわと命を削っている。致死量には達していないだろうが気分は悪い。地べたに這いつくばったまま、それでも何とか視線を上げると、仕方なさげな様子でAFOはため息をついた。

 

「どうやらミスターX探しの道のりは長いようだからね。君のご機嫌は取ってあげよう」

 

パチン、と空間が弾けるような音がするのと同時。暗い泥が空中から湧き出て、その中から探し人が、どさりと音を立てて姿を現した。

 

「壊理ちゃん!」

「──エルさん!!」

 

もはや感覚もない右足をずるりと引きずって少女の元に近づく。怯えた表情だった壊理ちゃんは僕に気がつくと泣きそうな顔で駆け寄ってきた。

 

「無事でよかった…」

「え、エルさんが怪我してる…!治さなきゃ…!」

 

小さな白い手が、傷口にかざされた。ここ最近は個性練習の一環で怪我を治療する練習もしていたから、咄嗟の行動だったんだろう。しかし個性が発動されることはなく、その額にも見慣れた角がない。

 

「ご、ごめんなさい、個性…使えない…」

「謝らなくていいよ…。壊理ちゃんは怪我してない?」

 

やるせない思いを抱きつつ、体を起こして白い髪を撫でる。

 

「別にひどいことはしていないよ」

「個性を奪っておいて何を…」

「そこはまあ、必要だったから仕方がないだろう?何だったらお礼に新しい個性でもあげようか。そうだな、君みたいなタイプだったら──」

「やめろ、この子に触るなッ」

 

唐突に、会話に混ざってきたAFOの手が壊理ちゃんに伸びた。個性を与えるなどと言って、何をされるか分かったものではない。

 

咄嗟に庇うように壊理ちゃんに覆い被さったところで──轟音が耳をつんざいた。

 

「…ッ!?」

 

爆発でも起きたかのような衝撃が全身を襲う。一瞬のうちに周囲の光景は劇的に変化した。

 

あたりの壁と天井が軒並み吹き飛んで、明るい光が差し込んでいる。幾たびか大きな音が聞こえて、そうして気がついた時には壊理ちゃんと二人して、温かい腕の中に囲われていた。全てが早すぎて、僕の目には何も捉えられなかったけれど。

 

「二人は返してもらうぞ、オールフォーワンッ!!」

「──来たかオールマイト!」

 

ヒーローが助けに来てくれた、それだけは分かった。

 

 

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

 

 

何人ものヒーローが駆けつけた神野地区だったが、その誰もが戦闘には参加することができなかった。

 

それほどまでにAFOとオールマイトの戦いは激しく。誘拐されていた二名や周囲の一般市民を避難させ、救助活動にあたるので精一杯だったと言える。

 

中継されたその映像を、固唾をのんで見守り。平和の象徴の真の姿──痩せ細り弱った肉体──が衆目に晒される一幕がありつつ。ようやく辺りに静寂が訪れた。オールマイトの勝利が、掲げた左腕で示される。

 

しかし。いくつものビルが倒壊するほどの激闘の末、倒れたかに思われた巨悪は。()()()()()()()()()()()()平然とそこに立っていた。

 

「どうした?やらないのか」

「なッ…」

「ふふふ。どうした、ほら。殴れよ。お得意の暴力を振るうといい」

 

震える足で何とか立っているだけのヒーローに、男はニヤニヤと笑いながら近づいた。怪我も、疲労も、老いすらもなく。かつて超常黎明期に裏社会を支配していた頃の姿そのままで。

 

オールマイトの脳裏には、絶望の二文字が浮かぶ。OFAの残火すら燃やし尽くし、限界をさらに超えたその先まで耐えてみせた。しかし、これ以上の戦闘はもはや不可能だ。

 

「これではただの殺戮になってしまうな。さぞかしショッキングな映像になる。…命乞いでもするなら聞いてあげようか?」

「私は、平和の象徴だ。お前のような悪に屈する訳にはいかない…!」

 

どうしようもなく苦境に立たされている。それでも己は平和の象徴であるのだから。何をしてでも倒れる訳にはいかない。

 

そう再び覚悟を決めて、目の前の男を睨み受ける。AFOは余裕の表情で嗤っていた。

 

「強情だな。お望み通り、国民の前で丁寧に殺してや…。……」

 

不意に。愉しげに歪んでいた男の表情が変わった。

その右腕がゆっくりと胸元を押さえる。

 

…“巻き戻し”、“巻き戻し”…、か、回復…ッ!…“巻き戻し”…!

 

オールマイトは。AFOという男が『焦る』様子を初めてみた。

何が起きているかは分からないが、目の前の巨悪は何かから攻撃を受けているらしい。

 

防御、回復といくつも個性を発動させては、焦った様子で壊理少女の個性を使用し。それでも何か間に合っていない。

 

なぜ、僕がッ…!!

 

そうして、青年の姿すら通り越し、子供に程近くなった頃。額に生えていた角も尽きて巻き戻しが発生しなくなった瞬間。悪は斃れた。

 

あっけない死であった。

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

[ 死柄木 全 ]

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

 

 

「計画通り──!」

 

口の端が引き攣るのが止められない。醜悪に歪む顔を、咄嗟に掌で抑え込む。腕につけた腕時計の中。震えた文字が刻まれている。

 

ああ、死んだ。諸悪の根源、最悪のヴィラン、黎明から生きる悪が!ああも呆気なく!!!

 

人の死をここまで嬉しく思うのは初めてだ。これまで生きてきた中で、今この瞬間が一番嬉しい。

 

親友を無残に改造された相澤先生たちの涙であったり、恐怖に屈してしまったと震えていた青山くんの声だったり。あるいは、かつて師匠を奪われた痛みに、じっと耐えていたオールマイトの背中だとか。奴が踏みにじってきた数多の光景が瞼に浮かんだ。

 

決して奪われたものを取り返すことはできないけれど、それでも。やつを殺せたことが誇らしくて仕方がない。

 

 

壊理ちゃんの個性が狙われたと気づいた時。彼女の身を案じる心とは裏腹に、僕の中にはある期待があった。AFOが自身の肉体を個性で巻き戻したその時、デスノートの力の適用内に入るのではないか、という仮説。

 

確証は何もなかった。リュークに尋ねても前例がないから知らん、と切り捨てられ。しかし調べられる方法など何もなく。ただの机上の空論でしかなかった。

 

しかし、この二か月。壊理ちゃんの個性について何度もサイコメトリをしてきた僕には、巻き戻しという個性の本質が見えていたから。勝率の高い賭けではあると思っていた。

 

──そう考えていたタイミングに、あの電話はかかってきた。

 

壊理ちゃんに雄英から支給された携帯。そこからの連絡に、自分の勘違いを期待したのもつかの間の話。電話の相手はAFOだった。

 

僕の立場からすると。その呼び出しには応じない方が、きっと正解だった。

 

もし僕の個性が奴に奪われて、ノートのことを知られて。奴がデスノートを自由自在に利用し始めたらどんなことが起きていたか。想像できないはずがない。

 

けれど、それでも。

多数のために壊理ちゃんを見捨てるという判断も出来ず。時間があれば公安に連絡して分倍河原さんに僕の影武者を作ってもらえたかもしれないけれど、それすら時間の関係上難しくて。ノートの所有権を放棄することも視野にいれたけれど、もし前世の記憶が消えなかったら意味がない。

 

色々な思考が脳裏をよぎって、最終的にはただヒーローを信じることしか出来なかった。

 

『相澤先生。公安からの依頼がありましたのでそちらに行ってきます』

『ハァ。前にも言ったがお前はまだ未成年で、いくら個性が便利だからといって扱き使われる必要はない。今回ばかりはダメだ』

『お願いします。僕が行かなきゃダメなんです』

『…刑務所襲撃関係か?ヒーローがもう動いてるんだから、わざわざ林間合宿を中断する必要はないだろう』

『何もお伝えすることはできません』

『…?いつになく強情だな、いったい何が──』

『時間がないので。失礼します。…()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

AFOは嘘を見抜く個性持ち。誰にも、はっきりとしたことは言えない。

ただ、異変だけは察知してほしいと。目で訴える僕に、相澤先生はしばらく黙り込んでいた。

 

そうして向かった先で、僕は黒霧にAFOの元へ連れていかれた。

おそらくヒーローサイドの動きはラグドールの個性で追跡。相澤先生が関係各所に連絡の上、オールマイトをはじめとしたヒーローが突入…という流れだと思う。

 

ヒーローは、助けを求める人間に対して敏感だから。きっと伝わると思って、危険な賭けに出た。

 

「ちょっと君!まだ手当の途中なんだから勝手に歩き回らないで!」

「すみません。オールマイトの様子が気になってしまって」

「まあ気持ちは分かるけどね。安静にしないと、そこそこ重傷だよそれ」

「はい、戻ります。壊理ちゃん…女の子はどうでしたか?」

「大きな怪我はなかったよ。擦り傷くらいだね」

 

救急隊員と会話しつつ、振り返る。多くの人が視線を寄せる街頭のテレビ。突然の事態に混乱しているであろう中で。それでもオールマイトはすっと画面を真っ直ぐに指差した。

 

『次は、君だ』

 

平和の象徴は今日折れた。

今この国には新たな抑止力が必要だ。

 

「(僕が……)」

 

自分に向けられたメッセージではないと、分かっていても。逸る心は抑えられそうになかった。

 




というわけでね、「計画通り…!」を言わせるためだけの盛大な前振りでした。超難産な回だった。ツッコミどころの多さは自覚しています。


Q.124歳を超えてるAFOにデスノートは使えるの?
A.そのままでは使っても効果はありません。なので以下の手順を主人公に踏ませます。
①まず治崎を殺害し壊理ちゃんを救出します
②壊理ちゃんと仲良くなって個性コントロールを手伝います
③ドクター経由で個性の有用性がAFOに伝わります。
④そのあたりのタイミングでAFOの後継者(次の体)筆頭候補の死柄木弔を殺害します
⑤次の体が手に入らなかったAFOは壊理ちゃんの個性を奪います
⑥AFOが壊理ちゃんの個性で自分の体を若返らせます
⑦全盛期の肉体、個性を蘇らせて調子に乗っているAFOの名前をノートに書きます(なお名前は死神の目で読み取るか、サイコメトリで調べるかします)
⑧死にます

Q.なぜAFOは夜神の個性を奪わなかったの?
A.将来のことを考えて、自分がその個性を持っているよりも手駒になってくれた方がありがたいなと思っていたからです。話をして無理そうだったら奪おうと考えていました。その前にオールマイトが突入してきた感じです

Q.夜神の誘拐の仕方雑じゃない?
A.①内通者(青山)の不在で林間合宿の場所が不明=合宿先にラグドールがいることも知らなかった ②ヒーローは刑務所襲撃の対応に追われていて、こちらに人をあまりさけないと考えていた③何らかの方法でヒーローが駆け付けたとしても、交戦のうえ制圧できる自信があった

Q.年齢って概念的なものじゃないの?肉体が若返ったからってノート使える?
A.巻き戻し、なのでいけることにしました。ご都合主義です
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