夜神月に成り代わってヒロアカ世界に転生したけどデスノート絶対に使いません!   作:佐久間2525

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第三話 死神

 

 

一見、ごく平凡な黒表紙のA4サイズの大学ノート。

だが僕は、この薄い紙の集合体が、どんな最新兵器よりも恐ろしいことを知っている。

 

「How to use it…このノートに名前を書かれた人間は死ぬ」

 

手袋越しにノートの表表紙を撫でる。このノートが偽物であってくれたのならどんなによかっただろうか。

 

「デスノートに書く名前は、本名でなければ効果は得られない。ペンネームなどの通称名では不可。名前の後に人間界単位で40秒以内に死因を書くと、そのとおりになる。死因を書かなければ、全てが心臓麻痺となる。…前世の記憶通りだな」

 

ハア。

思わず、重苦しいため息が口からこぼれ出た。

 

少しだけ僕の思想を語るのならば──死んだほうがいい犯罪者というのは、いると思う。

前世でもうっすら思っていたことなんだけど、ハッキリそう感じたのはここ数年の話。

 

僕の個性 「サイコメトリ」 は犯罪捜査においてこの上なく有用である。なんせ殺人現場に触れれば犯人の顔、犯行時刻、凶器、どちらへ逃げたか、どんな個性を持っていたか…などなど。ありとあらゆる情報が詳らかになる。犯罪者を特定するうえでこれ以上に頼りになる個性はない。

 

そんな訳で、中学生にあがったころから捜査に協力依頼されることが増えた。父さんは子供がすることじゃない、ってずっと反対してたけど、公安からの依頼は断れなかったみたいで、リビングでよく項垂れていたのを覚えている。

 

僕は、僕の個性が人助けになるなら喜んで協力するつもりだった。

 

色んな人を、物を、過去を、犯罪を視た。

 

ぴかぴかの赤いランドセル。おじいちゃんが小学校の入学祝に買ってくれた。友達100人できるかな、楽しみだな。おじちゃんだれ?痛いよ、手引っ張らないで。なんで、ぱぱ、まま。こわいよ。いたいよ。

ぼろぼろの赤茶色のランドセル。1日しか背負われなかったランドセル。

『あの子が笑いかけてくれるから俺のこと好きなのかと思ったんだ。なのに嫌がったりするから…』

 

老夫婦の思い出の家。若いころ、必死に働いて建てた大切な我が家。子供たちの身長が刻まれた柱のそばで、おじいさんがピクリとも動かない。おばあさんも動かない。

『チッ、しけてんな。現金ほとんど置いてねえじゃねえか。無駄にでけえ家に住みやがって』

 

よく遊んだ公園が。

被害者が身に着けていた思い出のネックレスが。

物言わぬ骸が。

 

過去の楽しかった思い出と、それが無残に散らされたことを伝えてくる。どうしてそんなに残忍なことができるんだろう。不思議で仕方がない。

 

犯人はみんな捕まった。タルタロスに収容されたやつもいる。

…それで?

亡くなった人たちは、家族は、すべてを奪われたのに。

犯罪者が失うのは自由だけか。

 

「この、ノートがあれば」

 

少なくとも僕の鬱憤は晴れる。気持ちがずいぶんすっきりしそうだ。

 

「そうだ。僕が、僕こそが犯罪者を粛正して新しい世界を作るんだ…」

 

暗い部屋でひとり呟き、ノートを開く。

決意を込めて僕は、ペンを走らせ───

 

 

 

「…ってなる訳ないんだよな。 原作の夜神月って、いきなりアクセル踏みすぎじゃない?」

 

──ることなくノートを閉じた。

 

そっ閉じである。

 

 

 

◇◆◇◆

 

 

部屋の電気をつけた。

なんとなくそれっぽい雰囲気を作ってみたものの、余裕の耐えである。

 

一部の犯罪者に死んでほしいなあと思っていることは事実だが、それを行動に移すかは別の話だ。僕は小心者なんだ、こんな怖いノート使って殺人とかできるわけないだろ。

 

「自分がビビりでよかったと思うべきかどうか…」

 

勉強はできるが頭の良くない自覚のある僕だ。調子に乗ってキラ活動なんて始めたら破滅まっしぐらなのは間違いない。

 

僕が心配していたのは、ノートを手にしたら自分の人格が変わってしまうんじゃないということ。原作の夜神月だって記憶をなくしたらあんなに真っすぐな目をした好青年なのに、ノートを手にしたら大量殺人鬼に早変わりだ。僕がそうならない保証はどこにもなかった。

 

けどまあこの調子なら大丈夫だろう。殺人衝動が湧き上がるわけでもないし、性格が変わったような感じもない。

 

「ただヴィランの手に渡ったりするとまずいよな…ヒーローも本名ばれしてる人多いし。『ヒーロー謎の突然死勃発!』なんてことになってみろ、また超常黎明期の治安に逆戻りだ」

 

ノートは使いはしない。

が僕の手元で保管する。

 

それが結論。

 

「さて、問題は…」

 

 

 

◆◇◆◇

 

 

 

ソレは奇妙な姿をしていた。

細長い手足を持て余すようにゆったりと動かし、死人のような白磁の肌に張り付けたような笑みを浮かべている。ぎょろりと出っ張った目がうごめいて、どこでもない一点をひたりと見つめているのが何とも言えない不気味さを醸し出していた。

 

個性が台頭し、異形型と呼ばれる人々もいる世界ではあるが、おおよそそんな中でもひと際目立つ異形の姿。

 

しかし街ゆく人々はソレに注目することはない。それどころか、体をすり抜けて何もないかのように歩き続けている。

 

「なんだァ、いつの間に人間て、火ふいたり羽生やしたりするようになったんだ?」

 

首をコキリ、と90度にひねって、佇む。

視線の先には個性を用いてヴィラン退治をするヒーローの姿。

 

「200年ほど見てないだけでこれだもんなァ~。人間ってオモシロ!」

 

カラカラと不気味な音を立ててソレは嗤う。これは暇つぶしに降りてきた甲斐があったのではないだろうか。

 

「さてと。ノートはどんな奴が拾ったのかね」

 

◇◆◇◆

 

ところ変わって、とある一室。

見渡した限り、ずいぶん平凡な部屋だ。

 

机に向かって、黒いノートに一心不乱に何かを書き綴っている青年は、未だ侵入者には気づいていないらしい。

 

(お、おぉ…。すごい勢いで書いてんな。こんなに躊躇いなくノートの力を使った奴は初めてじゃねェか?)

 

これは面白いやつにノートを拾われたのかもしれない。

どこか浮足立つ心地で背後にそっと忍び寄った異形は、しかし記されている文字に顎をカクンと落とした。

死因どころか人名らしきものも全く書かれていないソレは…

 

「…数学?」

 

「ッおわぁッ!?!?だれ…うわ死神!!!!」

 

思わず声に出してしまったがゆえに部屋の主に気が付かれたらしい。

情けない悲鳴をあげて後ずさった男は、しかし思ったよりも早く平静を装って襟を正している。

 

「そうか、やっと来たのか…。ノートを拾ってもう5日だぞリューク」

「んぁ?オマエ、人間のくせになんでオレの名前しってるンだ?」

 

回転式の椅子でくるりと向きを直した青年は、ひじ掛けに頬杖を突き、カッコつけた様子で笑みを浮かべている。先ほど自分が悲鳴を上げたことは忘れているらしい。

 

「僕はなんでも知ってるよ。暇つぶしでデスノートを人間界に落とした、死神のリューク。探し物はこれかな?」

 

手に掲げられたのは見覚えのある黒いノート。先ほど数学の勉強に使っていたノートとは別のものだ。紛らわしいが、こっちが本物だろう。

 

「やっぱりオマエがノートの持ち主か。にしては、使っていないようだが」

「当たり前だろ。こんな物騒なもの使うわけがない」

 

なぜ死神のことを知っているのかとか、ノートを使っていないのにノートの効果を知っているような素振りだとか。色々気になることはあるが…ノートを使われないのはあんまり面白くないな、と思う。

 

「嫌いなヤツとかいないのか?」

「強いて言えば犯罪者は嫌いだ。かといって自分の手を汚してまで殺したいかというと、そうでもない」

「ノートで人を殺しても手を汚すことになるのか?」

「分かりきったことを聞くなよ、死神。ノートを使ったものは天国にも地獄にも行けない」

 

だろ?と訳知り顔で首をかしげる青年は、確かに何でも知っているらしい。

 

「フーン、ちなみになんでオレの名前を知ってたんだ?」

「ノートが教えてくれたのさ。僕の個性はサイコメトリ、物品に触れば持ち主の情報を知れる」

「ハハァ、街中で見たトンデモ能力だな。人間界ますますオモシロイ世界になってんなァ」

 

コセイ、個性ね。なるほど、その特殊能力でこちらの考えは筒抜けというわけだ。

 

「ウーン、でもどうせならノートを使うヤツに渡ってほしいんだがなァ。回収していいか?ソレ」

「なんだ、無理やり回収しないのか」

「今のノートの所有者はオマエだ。同意なく無理やり取り上げることはできない」

 

まァ、手がない訳でもないのだけれど。

 

「ノートを2冊持つ君なら、もう1冊のノートで僕を殺すことはできるんじゃないのか?」

「…驚いた。そんなことまで視えるのか。便利な力だなァ」

 

少し気分が上がる。やっぱりオモシロイやつかもしれない。

 

「交渉だ、リューク。お前の退屈を紛らわせてやるから、その間は僕がノートをどう扱おうと僕を殺すな」

「フゥン?まあ死神界にいるよりかはなんでも楽しいだろうが、いいのか、そんな条件で」

 

オレが飽きたら殺していいということだろうか?

対する青年はよっぽど自分の策に自信があるのか笑みを崩さない。

 

その手がノートを机の中にしまい、代わりに机上の赤いものを掴んだ。

ぽーんと高く放られたものをキャッチする。艶やかで、宝石のように輝く物体だ。

 

「娯楽1つ目、食だ。リンゴやるから食べてみなよ」

「リンゴぉ?あんなもんパサパサしてて砂っていうか、ぶっちゃけ美味くないけど…これがリンゴ?」

「いいから」

 

促されるまま一口かじり…オレはしばらくこの人間を殺さないだろうなと確信した。

少なくともこの甘くてみずみずしい果実に飽きない間は。

 

「オマエ、名前は?」

「夜神月」

「知ってるだろうがオレはリューク。長い付き合いになりそうだな」

 

 





主人公は自分の選択肢に「人を殺す」コマンドが増えたことの重みをまだ実感してません。そんな覚悟で大丈夫か?

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