夜神月に成り代わってヒロアカ世界に転生したけどデスノート絶対に使いません! 作:佐久間2525
「19、20…。右足を怪我してた子を除けば、ほぼ全員無事か」
学校側から提供された生徒の名簿をなぞったあと、塚内は顔を上げた。どこか草臥れた様子の生徒たちがこちらを見つめている。しかし、大きな怪我をしている者はいない。近年、類を見ないほどの大規模なヴィラン襲撃を受けた割に、被害はごく軽微だ。
「デクくん…緑谷くんは大丈夫そうですか?」
「ああ、彼は保健室の治療で間に合うそうだよ」
「良かった〜!ほら、夜神くん、デクくん大丈夫やってさ!」
「そうだぜ!!元気出せよ!!」
襲撃されたのは雄英高校の一年生たち。幸いにも各々の表情を見る限りは、心の傷も深くはなさそうだ。
──端の方で地面を無心に見つめる約一名を除けば、だが。
「…僕は肝心なところでトチるポンコツです。暫くそっとしておいて下さい…」
「こりゃダメだ」
「重症だな」
「写真撮っといてやろ」
「オイラも」
クラスメイトに囲まれながら落ち込む彼は…夜神月くん。ああ、彼が夜神局長の息子さんか。あの人は息子自慢が始まると長いって噂だったけど、そりゃ天下の雄英生ともなれば納得だな。(飲み会に行くと1時間は語られるらしい)
さて、そんな彼だが。聞くところによるとヴィランに一時的に人質にされていたそうだ。緑谷くんという少年がヴィランの気を逸らし(この時に右足が折れた様子)、そのあと丁度到着したオールマイトに救出された、と。
今日の事件で犠牲者が出なかったのは彼の功績も大きいのに、人質になってしまったことでかなり落ち込んでいる。気に病みがちな性格なのかもしれないな。難儀なことだ。
「こらキミ達!!夜神君はいち早く危機に気づいて行動してくれた恩人だぞ!!!もっと感謝しないか!!!」
「いや、してるけどよォ。いつも澄ました顔してるイケメンがナメクジみたいな顔して落ち込んでるんだぜ?記録に残しておくべきだって」
「峰田お前ナメクジは言い過ぎ…いや、色だけなら似てんな?」
「ほんとだ、顔白ッ!!」
「夜神さん。もしかして精神的ショックは別としても、体調が悪いのでは…?」
「…頭痛くてちょっと吐きそう」
「「「そういうのは早く言え/言ってよ/言ってくださいまし!!」」」
おや、いけない。保健室に送るべき生徒はもう一人いたようだ。
◇◆◇◆◇◆
情けない。
個性の過剰使用による頭痛と吐き気に悩まされつつ、保健室のベッドの上。自己嫌悪のあまり涙が出そうだ。
はぁ。読み取った情報に動揺して意識を飛ばすのなんていつぶりだろうか。子供でもあるまいし。
深いため息を溢しながら、目を覆う。リカバリーガールは、緑谷の怪我について保護者に説明しに行ったようで、席を外していた。よって僕の情けない呻き声は、ニヤニヤと宙を彷徨う死神くらいしか聞いていない。
『よう、大活躍だったな』
「嫌味か?」
『なんだ、いつになく卑屈だなァ。誰も死んでないのに何をそう落ち込む?』
「僕のせいで緑谷がいらない怪我をする羽目になったし、一歩間違えたら誰か死んでてもおかしくなかった」
『ケッケッケ』
なんだよその含み笑いは。そもそもお前がヴィランの存在を先に知らせてくれてたら、もっとやりようがあったんだけどな!言っても仕方がないが。
廊下を誰かが通りかかるかもしれないし、もうリュークは無視しておこう。一人で喋ってろ。
……
しばらくはゴロゴロとベッドで思考を整理し、ようやくメンタルが少し回復してきた。サイコメトリは使いすぎると気分も落ち込むのが良くない。僕は終盤やらかしたが、序盤は花丸だったし、重要な情報もいっぱい持ち帰った。これで自分を納得させる他ない。
そう思いつつ身を起こしたちょうどその時、ガラリと音を立てて保健室の扉が開いた。
「起きてていいのか夜神」
相澤先生だ。他のいろいろな対応があるだろうに、様子を見にきてくれたらしい。ベッド横のパイプ椅子に腰掛ける様子には、やや疲労が滲んで見える。
「はい、かなり回復しました。…先生の方は大丈夫ですか、怪我とか」
「誰かさんの無茶のおかげで、すぐに救援が来たからな。大した怪我はしていない」
それはよかった。ホッと胸を撫で下ろしていると、僕の顔色を確認した相澤先生はスッと右腕を上げた。不思議に思いつつその腕の先を眺めていると、真正面からソレが振り下ろされる。え?
「いッ!?!え、なんッ…!??」
「飯田も緑谷もお前も無茶ばっかりしやがって…。寿命が10年は縮んだぞ、バカが」
反射的に痛いと言ってしまったが、それほど強い力ではなかった。小突くよりは少し力を入れたかどうかという程度。窺うように相澤先生の目を見ると、疲労で充血した目が内心を見透かすかのように、じっと僕を見つめていた。そうだ、電波妨害のヴィランを退治するために、勝手に動いてしまったことの話があるんだった。
「先生の意向に反して独断専行してしまい、大変申し訳ありませんでした。僕はともかく、飯田は頼みを聞いてくれただけなので、除籍とかは…」
「──はぁ。飯田と同じことを言いやがって…」
「えっ」
「除籍するなら自分だけにしてくれとさ。仲間思いな生徒たちを持てて涙が出そうだよ」
「や、めっちゃ目乾いてますよね…?」
「俺はドライアイなんだ」
懐から取り出した目薬を差した先生は、シパシパと目を瞬かせている。空気が弛緩した。
「お前も飯田も。自分がどれだけ危険なことをしているのか自覚がある分、タチが悪いな」
そうだ、危険であることは承知の上だった。電波妨害をしていたヴィランが僕や飯田では対処不可能なほどに強かったら。あるいは他のヴィランに囲まれていたら。無事では済まなかったであろう想定なんていくらでも出来る。
それでも。僕は、僕の個性とクラスメイトを信じた。
「あの時はあれが最善でした。反省はしても、後悔はしていません」
「…言いたいことは山ほどある。が、そんな危険な状況にお前らを置いたのは、そもそもヴィランの襲撃なんてものを許した俺たちが悪い。危険だったことも理解しているようだし、説教はこれでやめだ」
「先生方は悪くないでしょう!ワープなんて個性持ちの行動が予測できるわけが…!」
「いい。否定してくれるな。教師としてもヒーローとしても、俺はお前たちを守る責務がある。それを十全に果たせなかったのは事実だ」
天井に向けていた目をこちらに向け、相澤先生はパイプ椅子から立ち上がった。その手がゆっくりと持ち上がり、軽い調子で僕の頭の上に着地する。
「今日はゆっくり休め。保護者の方ももうすぐ迎えにくるそうだ」
頭に添えられた手と、こちらを見る目があんまりにも優しくて。思わず、ポロリと涙が溢れた。
途端、ギョッとした様子で相澤先生の手が跳ね退けられる。
「撫でられるの嫌だったか」「さっき叩いたの強すぎたか」「痛むのか」「おい、夜神」
矢継ぎ早に困った様子で問いかけてくる相澤先生。
優しい先生だ。どこまでも生徒のことを思うからこそ、覚悟のない人間にはヒーロー科なんてやめてしまえと除籍しようとするし、自己犠牲を嫌う。
便利な個性を持っている僕のことも、ただの一生徒として大事にしてくれるのが、行動や言葉から伝わってくる。どこまでも、優しすぎる、僕らの先生。
そんな彼に、僕はどうしてこんなに残酷な話をしなければならないんだろうか。傷つけたくないというのに。
「校長先生と、オールマイト。それとプレゼントマイクを呼んでいただけませんか」
「…山田も?何故…」
オロオロと手を彷徨わせていた先生は、しかし、僕の声の温度感に何か違う雰囲気を感じ取ったらしい。訝しげにしているその目に、しっかりと視線を合わせつつ、僕はベッドから立ち上がる。
「ご報告することがあります」
◇◆◇◆◇◆
「……は?」
あまりに惚けた声だった。
ボイスヒーロー・プレゼントマイク。快活な性格もあって普段から大きな声を張り上げるその喉が、ただ掠れた小さな声を落とす。
愕然と目を見開く会議室の面々を見渡しながらも。僕は残酷な真実を告げることをやめなかった。
「繰り返します。今回、襲撃をしてきたヴィランのうち1名、黒霧と呼ばれていたワープ使い。サイコメトリで読み取った結果…彼はある人物の死体をベースに作られた改人──脳無と呼称するそうですが、それであることが分かりました。ベースにされた人物は、かつての雄英生であり…相澤先生とプレゼントマイク先生の友人だった、
もう一度、同じことを口にした瞬間。ガタン!と大きな音を立ててパイプ椅子が倒れた。同時に、強く壁に押し付けられ息が詰まる。
「ぐッ…」
「おいやめろ山田!!何してる!!!」
「嘘だろ、おい嘘って言えよ…!あいつは死んだんだ!!15年も前にッ!!!」
「手ェ離せ馬鹿野郎が!!!!!」
「テメェは信じられるのか相澤!!エェ!?アイツが…俺らのダチが侮辱されてんだぞ!!」
「生徒に当たるな!!!教師だろうがお前はッ!!」
掴み上げられた胸ぐらと、それを止めようと横から飛びかかってきた腕に体が揺られる。振り解くこともできるけど、やろうとは思わなかった。それだけのことを言ってしまった自覚が、僕にはあった。
「やめないか2人とも!」
「山田くん!相澤くんも…。座りなさい」
「…ッ」
「ハァ…お前はこっちに座れ馬鹿が。おい、夜神。怪我は」
オールマイトと根津校長に宥められ、我に返った様子で力が抜かれた。相澤先生が脱力した彼をずるずると引き摺っていき、僕から離れた場所の椅子に乱雑に座らせている。
「全然大丈夫です。気になさらないでください」
お気持ちは分かります、と言いかけて、やめた。
かつて亡くした親友。その悲惨な現状を知って彼らがどんな痛みを抱えるかなんて…僕には想像することしかできないから。
「君のことを疑うようで申し訳ないのだけれど、その情報はどこまで正確か分かるかい」
校長先生は、険しい表情をしながらも冷静な様子であった。サイコメトリという個性のことは知っているのだろうけど、その上で情報の正確さを尋ねてくるところが特に。先ほど報告したのは僕が黒霧を視て判断したことに過ぎない。校長先生としては、何を見て僕がそう判断したのかを知りたいということなのだろう。
「…直近のことで見えたのは、暗いバー。先生と呼ばれる人物とUSJの襲撃犯…死柄木弔が会話をしている様子です。内容は襲撃計画について。オールマイトを殺すために特別な脳無を作ったという話もしていました。先生と呼ばれる人物の姿は見えませんでしたが、…次の脳無には
「なッ…!?」
その一言だけで、オールマイトには伝わったらしい。目を見開いて衝撃を受けているのが見て取れる。
そう、今日USJに襲撃をかけてきた敵連合。その背後にいたブレーンこそ、オールマイトの因縁の相手──オールフォーワンで間違い無いだろう。
「続けてくれるかい?」
「はい。さらに過去に遡ると黒霧としての一番古い記憶は手術台の上。先ほど先生と呼ばれていた人物の声で『死柄木弔を守り、支えるように』と指示がありました。…その、ここからは言葉で表すのが難しいので、支離滅裂になるかと思うんですけど…」
「いいよ。続けて欲しい」
またイメージの話になるが、記憶を探ろうと水の深いところまで潜って底に辿り着いた時のことだ。充分情報を得られたし、浮上しようかと思ったところで、あたりに断片的に何かが漂っているような感覚があった。黒霧としての感覚よりも随分薄くなって、千切れとんだ記憶の端々。それを掴んで見えたのが──
「『消太、ひざし!卒業したら一緒にヒーロー事務所つくろうぜ!』」
俯いた二人の顔が、一斉にこちらを向いた。
「『俺たち3人ならなんでも解決できると思うんだ』『ほら3人いればさ誰かがミスっても残りの2人がカバーしてくれるし』『消太は細かいところまで見てくれる』『ひざしは交渉に長けてる』『なぁいいだろ──』」
「もういいッ」
悲鳴のような声に、言葉を遮られた。
先ほどプレゼントマイクを必死に制止していた先生の手が、ガタガタと震えている。震えもそのままに持ち上げられた手が、ゆっくりと口を覆って。吐き気を誤魔化すように強く、強く息を殺している。
「意味がわかんねェよ…」
泣き声も混ざった震えた声。先ほどまでの激情はそこになく。
僕らを守ってくれたヒーローが、小さく体を丸めて項垂れる姿だけが僕の目にしっかりと焼きついた。
◇◆◇◆◇◆
「夜神。その…さっきは悪かった」
あのあと。僕の迎えがすでに到着していることもあり、会議は切り上げられた。他に詳しく報告する必要があることもあるので、明日も僕は学校に来ることになるだろう。
先に退出していった根津校長やオールマイトの後ろ姿を見送っていると、かなりバツの悪そうな顔をしたプレゼントマイクに頭を下げられた。
「いえ、本当に大丈夫なので謝らないでください。慣れてるので」
「…?慣れてるって?」
「行方不明の方の捜索を手伝った後に遺族の方から責められることなんかよくありますし…って、あ」
まずい。疲労でぼーっとしていたからか余計なことを口走った気がする。
「なーんて、ウソでしたー…はは」
「相澤ぁ!!このリスナー何させられてんの!?」
「ハァ…。俺も詳しくは知らんが、公安絡みだろうよ」
「なッ…!」
「あんまり詳しく聞かないでくれると助かります、すみません」
ため息をついている相澤先生には気苦労をかけて申し訳ないが、あまり話せない内容もあるので追及はほどほどにして欲しい。目で懇願したのが効いたのか、それ以上何も聞かれはしなかった。
「さっきは本当にごめんなァ。教師としてもヒーローとしてもしちゃいけねぇことをしちまった…」
「本当にな。反省しろ馬鹿」
「相澤先生そんなに言わなくても…」
「──しつこいようだが、お前は守られるべき立場なんだ、夜神。手の届く範囲が広いからって、いらない苦労まで背負うんじゃない」
ああ…本物のヒーローってやつは、どうしてこんなに強いんだろうか。
仲の良かった友人の末路を知り。今も手が軽く震えているのに…どうして人のことを気遣える。
「先生、最後に報告した内通者がいる可能性についてですが…」
「それに関しては俺たちの方で調査する。お前は何もするな」
ほら、今も。
黒霧の記憶に「職員室から盗み出したカリキュラム」と「生徒用のカリキュラム」の2種類が存在したことから、内通者の存在を指摘したというのに。便利で仕方ない僕の個性をちっとも利用しようとしない。
クラスメイトや教師を疑い、調査し、摘発するという行為が、僕を傷つけると思っているからだ。
ヒーローっていうのは揃いも揃ってお人好しばかりだ。
今日、人質になった僕を身を挺して助けようとしてくれた緑谷も。身体の限界が近いのに戦ってくれたオールマイト先生も。相澤先生も、プレゼントマイク先生も、クラスメイトのみんなだって。揃いも揃って我が身を顧みずに、人助けのことばっかり考えてる。
だからこそ…そんな優しい彼らが傷ついてばかりのこの世の中に怒りが込み上げてくるのだ。
心の中の小さな声が囁いてくる。
「(
腕時計がまた、カチリと小さな音を立てる。死神だけが愉しそうに笑っていた。
というわけで相澤先生と山田先生の曇らせ回でした。原作だと相澤先生が先に動揺→山田先生は最初はどうにか抑えてるけど後から爆発って感じでしたけど、まだ物語も序盤。身構える暇もなくでた話に動揺してこうなったと捉えていただければ…!書いててめっちゃ楽しかったです。
(前回の話はサイコメトリに関するツッコミが多くて、反省しておりました。できること多くてなんかややこしい個性です、すみません…)
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