貞操逆転世界で体液がエリクサーになってしまった男の話 作:あろみんと
ガナザの拳が店長の腹にめり込む。
「かはっ……!!」
店長の目が見開かれ、口から血が飛び散った。
「いい加減、邪魔くせぇんだよ……!」
ガナザは冷酷な笑みを浮かべながら、店長の腹部を蹴り飛ばした。
店長の体が宙を舞い、壁に叩きつけられてそのまま部屋の外へ転がり出る。
「がっ、あ……」
床にうつ伏せに倒れ込んだ店長の口元から、さらに鮮血が滴り落ちる。
「店長!」
フィルネスの全身が硬直する。目の前で倒れている店長の姿が、恐怖心を極限まで引き上げる。
全身が震える。心臓が早鐘のように打ち鳴り、息がうまくできない。頭が真っ白になり、涙が滲む。
店長はピクリとも動いていない、あんな一撃受けて平気なのか、絶対にそんなはずない。だって体が数メートル吹き飛ばされる程の一撃だ。確実に骨は折っている、最悪内蔵破裂も――
「おい、まだ泣くなよ? これからもっと楽しませてもらうんだからよぉ」
ガナザの手が再びフィルネスの肩に伸びる。
フィルネスは反射的に身を縮こませた。そんな時、廊下から一斉に駆け上がってくる足音が聞こえた。
「ここよ!」
荒い息を吐きながら現れたのは、フィルネスを抱えて逃げたローブの女。そしてその背後に二人の仲間が続いている。
どちらもローブの女と同じく若く、10代後半ほどの少女二人。全員が武器を構え、緊迫した表情で室内を睨みつけている。
「だ、大丈夫!?」
連れてきた仲間のうち、剣を持っているほうが、血を吐いている店長の姿を見て顔を蒼白にした。
「こ、これ結構な大怪我だよ! はやく治療してあげないと!」
彼女が拳を握りしめる。店長を介抱している間に残りの2名の視線が部屋の中のフィルネスの方へと移る。
破けた服。露わになった肩。青ざめた顔。涙目で震えているフィルネス。
「……な」
ローブの女の目が見開かれ、絶句する。
「なんてことを!」
その瞳に怒りの炎が燃え上がる。
部屋の空気が一瞬で凍りつく。
フィルネスは息を呑んだまま、体を強張らせていた。 店長が蹴り飛ばされ、血を吐いて倒れた光景が脳裏に焼き付いて離れない。まだ心臓がバクバクと激しく脈打っている。
それでも――
部屋の温度が急激に変わるような、冷たい視線がフィルネスの上から降り注いできた。
「……男の子にこんなことをするなんて」
ローブの女の声は震えていた。怒りと悲しみと、そして激しい嫌悪感がない交ぜになった声。
フィルネスは顔を伏せたまま、ギュッと拳を握りしめる。自分の上着は破け、肌が露わになっている。冷たい空気がむき出しの肩に触れるたび、全身が震えた。
目の端に涙が滲む。悔しさと恐怖で、心が潰れそうだった。
「おい、何だぁ? チビどもが揃いも揃って。姉貴に立てつくってのか?」
ガナザの取り巻きがニヤリと笑う。女は未だにフィルネスの上着を掴んだまま、揺らしている。
「ふん。どいつもこいつも、ヒョロガリばっかじゃねえか。借金返せねえガキどもが、俺たちに敵うと思ってんのか?」
ガナザが冷酷な目を細める。彼女の手にはまだ、大剣が握られている。その重量感が部屋全体に圧し掛かるように感じた。
「……やめてよ」
ローブの女の声が低く響く。
その目には明確な殺意が宿っていた。
「あなた達、男の子に手を出すなんて……絶対に許さない……!」
彼女の後ろにいる二人の少女たちも、武器を構える。 一人は長剣を握りしめ、もう一人は小ぶりなメイスを両手で構えている。
「ふん。子供の遊びには付き合ってらんねぇな」
ガナザは大剣を肩から降ろし、床に突き立てた。 ドン、と重々しい音が響き、床が僅かに揺れる。
「まぁいいや。全員まとめてぶっ潰してやるよ……!」
その言葉と同時に、取り巻きの女が前に出る。
「おっと、その前に!」
彼女は勢いよくフィルネスの首元を掴み上げた。
「こいつはどうする? せっかくだし、人質にでもして遊んでやろうか?」
フィルネスは息が止まりそうになる。 胸元に食い込む女の指先が痛い。視界がグラグラと揺れる。
「……ふざけるな!!」
ローブの女が叫んだ。その瞬間、彼女の仲間の一人が素早く踏み込んだ。
剣が閃く。
取り巻きの女は寸前で腕を引いてかわした。
次の瞬間――
ガナザが大剣を振り上げる。その一撃は床を砕き、木材の破片が飛び散る。
フィルネスは反射的に身を縮める。
狭い部屋の中では、ガナザの大剣の一撃が巨大な壁のように感じられた。 その度に部屋の壁が砕け、床に亀裂が走る。
ローブの女と仲間たちは攻撃をかわしつつも、フィルネスの方に近づこうとする。
「うっ、狭くて動けないっ……!」
助けに来てくれた仲間の少女が、長剣を匠に振り回し牽制する。
しかしガナザが動くたびに壁や床が穴だらけになり、部屋全体が崩壊寸前のように見えた。
フィルネスは床に倒れたまま、震える体を抱きしめた。店長への心配や、ガナザにやられた屈辱、要因はたくさんあるが、そこにこの建物がボロボロになっていくことへの悲しみもあった。
やっと見つけた安定の場なのにどうしてこうも、と自己嫌悪に陥る。
またもガナザの大剣が振り下ろされる。
重々しい轟音と共に床が砕け、木材の破片が四方に飛び散る。狭い部屋の中、ガナザの大剣はそれだけ脅威だった。剣の軌跡が空気を切り裂き、床に深い溝を刻む。
「化け物……!」
長剣を持った少女――ルーチェは、汗を滲ませながら後退する。ガナザの大剣の一撃をギリギリで避けるが、その衝撃波が体に伝わってくる。壁際に追い詰められた彼女の顔が焦りに染まる。
「おいおい、そんなへなちょこな剣捌きで俺に勝てると思ってんのか?」
ガナザがニヤリと笑い、再び大剣を振り上げる。
「くっ!」
ルーチェは剣を構え直し、一閃を繰り出す。しかし、その一撃はガナザの大剣に弾き返される。衝撃で手首が痺れ、剣を持つ手が震える。
「ぐあっ!」
今度は取り巻きの女が動いた。小ぶりな短剣を二本構え、ルーチェの背後から襲いかかる。
「ルーチェ、後ろ!」
もう一人の少女――ユエナが叫ぶが、間に合わない。短剣の刃先がルーチェの背中に迫る。
「っ!」
ルーチェは咄嗟に剣を背後に振り返し、刃を受け止める。しかし、短剣の一撃は重く、押し返される。
「へぇ、思ったよりやるじゃねぇか」
取り巻きの女が舌なめずりをしながら押し込んでくる。その筋肉質な腕には明らかに尋常ではない力が込められている。
「でも、お前みたいなヒョロガリがあたしに勝てると思うなよ!」
「うぐ、負けるか……!」
ルーチェは歯を食いしばり、全力で押し返す。しかし、相手の腕力には到底敵わない。短剣の刃が徐々にルーチェの剣を押し下げていく。
一方、ユエナは部屋の端で焦っていた。
「ルーチェ、大丈夫!? でもこっちも!」
ユエナの目の前には、ルーチェの相手を取り巻きに任せたガナザが立ちはだかっている。彼女の大剣は再び振り上げられ、ユエナに向けて振り下ろされる。
「逃がさねぇぜ!」
ユエナは間一髪で床に転がり、回避する。大剣が床を抉り、木屑が舞い上がる。
「おっと、足元気をつけろよ? この狭い部屋じゃ、お前らの方が不利だぜ?」
ガナザが嘲笑いながら、ユエナを見下ろす。
ユエナは小さなメイスを構え、ガナザとの間合いを取ろうとするが、ガナザのリーチが圧倒的に長い。踏み込もうにも、すぐに大剣で牽制される。
「おいおい、逃げるなよ。遊んでやるからさぁ!」
ガナザが踏み込む度に床板が軋む。その巨体が揺れる度に、部屋全体が地震のように揺れた。
ローブの女は後方でフィルネスの元に駆け寄っていた。フィルネスは未だに震えながら、壁際で蹲っている。
「大丈夫!? しっかりして!」
ローブの女がフィルネスの肩に手をかける。しかし、フィルネスの瞳は虚ろで、焦点が合っていない。殴られて意識が朦朧としてるというのもあるが、苛烈な戦場を目の当たりにして現実にいる気がしていなかった。
「店長が、店長が……!」
フィルネスの震える声が掠れている。彼の視線の先には、血だらけで倒れている店長の姿があった。
ローブの女は奥歯を噛み締め、周囲を見回す。
「狭い、ここじゃ魔法も満足に使えない。どうすれば」
独り言が聞こえてくる。状況は良くないようだった。
狭い空間の中、戦闘は激しさを増していく。
ガナザの大剣が再び唸りを上げる。無差別な攻撃だった。振り下ろされた一撃は床を抉り、木材の破片が飛び散る。破片の一つがルーチェの頬を掠め、細い切り傷ができた。
「くっ!」
取り巻きの女は一度離れ様子をうかがっている。ルーチェは剣を構え直し、呼吸を整える。だが、手首が震えている。目の前のガナザの力は圧倒的で、まともに一撃を受ければただでは済まない。
「なぁに? まだ立ってんのか? その貧弱な腕で俺に敵うと思ってんのか?」
ガナザの目が冷笑で歪む。次の瞬間、彼女の大剣が横薙ぎに振るわれた。
「避けて!」
ユエナが叫ぶ。
ルーチェは咄嗟に後退するが、間に合わない。剣の先端がルーチェの肩を掠め、布が裂ける。鮮血が床に滴り落ちた。
「うあっ……!」
痛みに顔を歪めるルーチェ。しかし、その刹那、取り巻きの女がルーチェの背後から飛び掛かる。
「甘いんだよ!」
短剣の刃が迫る。ルーチェは振り返る間もなく、その場にしゃがみ込んで回避する。短剣は空を切り、代わりに壁に突き刺さった。
「ちっ、すばしっこいガキだな!」
取り巻きの女は舌打ちをしながら短剣を引き抜く。その間にも、ガナザの大剣はさらに床を抉り、破片が飛び散る。
「この人たち、なんでこんなに強いの?」
ユエナが震える声で呟く。
「借金取りなんかやってるにしては……!」
ローブの女はフィルネスの肩に手を添えながら、その光景を睨みつける。
「こんな化け物レベルの力を持ってるのに、ただの借金取り……?」
フィルネスは震えたまま、視線を彷徨わせている。頭の中でぐるぐると回るのは、血を吐いて倒れている店長の姿。
(店長を、助けないと)
フィルネスの胸が締め付けられる。頭がクラクラして、意識が遠のきそうになる。
「おいおい、まだ終わってねぇぞ!」
ガナザの声が響く。彼女は再び大剣を振り上げ、ユエナに向かって振り下ろす。
「もうっ!」
ユエナは咄嗟にメイスを構え、防御態勢を取る。しかし、大剣の一撃は重く、ユエナの体ごと床に叩きつけられた。
「ぐぅっ……!」
床が軋み、ユエナの背中に激痛が走る。視界が歪み、呼吸が乱れる。
「ユエナ!」
ルーチェが叫ぶが、取り巻きの女が再び短剣を構え、ルーチェの前に立ち塞がった。
「どこ見てんだよ。お前はこっちの相手だろ?」
ルーチェは歯を食いしばりながら、再び剣を構える。だが、その刹那――
――ピィーーーッ!!
甲高い警笛の音が建物の外から響き渡った。
全員の動きが一瞬止まる。
「……なんだ?」
ガナザの眉間に皺が寄る。
「衛兵の……警笛?」
ローブの女がハッと顔を上げる。
「ふふっ、あんたたち……逃げなくていいの? 衛兵が来るわよ?」
ローブの女が挑発的に微笑む。ガナザと取り巻きの女の表情が一気に険しくなる。
「チッ……! 面倒くせぇ……!」
ガナザは舌打ちをし、大剣を肩に担ぎ直した。
「逃げるぞ!」
取り巻きの女も短剣を収め、ガナザの後を追って廊下へと走り去る。
その背中を睨みつけるように、ローブの女は深く息を吐いた。
「……ねえ、大丈夫? しっかりして……!」